53.止まるな、死ぬな
首を掻き切った。
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首を掻き切る前に脳天を射られた。
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首を掻き切った。
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殺られる前に首を掻き切れた。
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漆紀は首を掻き切る前に侍に首を斬り落とされた。やはり自分で掻き切る方がまだ不快感がないと心底思った。
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首を掻き切った。
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首を掻き切った。
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首を掻き切った。
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首を掻き切った、首を掻き切った。何度も、何度も。
何度死んだか分からぬほど何度も何度も何度も。
首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を。
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「……」
もう何度目か。
相変わらず戦場の音はうるさい。これまで何度も首を掻き切ったが、何度か邪魔されて敵に殺された。
死んだ回数は数えていないが、数百回は越えているだろうなと暗く陰鬱な自信があった。
例えば右斜め前で戦っている細目の足軽兵。
(脳天を3回もかち割りやがって)
そう悪態を心中で吐きつつ、今度は左真横の奥で戦う甲冑姿の侍を見る。
(俺が死のうとしたら、いきなり俺の首根っこ掴んで〝まだ勝敗わからぬ戦場で自害しようとは何事か〟とかほざきやがった。ムカついたから首に村雨を突き刺したってのに、倒れねぇで俺の首刎ねてきやがんの。昔の侍ってのは根性論のイカレ野郎しかいねぇのかよ)
足軽兵も侍も含め、この戦場に対して恐怖は薄れていった。それが本来麻痺と呼ぶべきなのか慣れというべきなのか、漆紀にはわからない。
恐怖というより、嫌悪。
体感時間にしてここ数週間は嫌悪から更に別の感情を抱くようになった。
(俺がこんなに首を掻っ切らなきゃいけないのはなんでだ? こいつら敵兵をはじめ戦場のせいだろうが。こんなもんなければ俺は自殺を繰り返すイカレ野郎になんかなる必要ねぇんだよクソ)
最初の半狂乱の時に抱いたのとは全く違う、冷静な敵意。
(……このまま自殺し続けてたら、一生この戦場から出れない。永遠に。文字通りきっと、永遠にだ。一生負け続けるのかよ。死んでも生き返るというなら……俺の魂が死ぬその瞬間まで、これが続くのか?)
戦場で繰り返される死に恐怖し絶望した末に自殺を繰り返した漆紀だが、それでも気がかりな事があった。妹・真紀のことだ。
(ここで死に続けててどうすんだよ。真紀はどうなるんだ……これで良いはず無いのはわかってんだろ)
真紀は萩原組若頭に喉を撃たれ、声帯を失った挙句重体で未だ入院中である。夜露死苦と萩原組の理不尽な暴力があったとはいえ、それに対し衝動的で短慮な暴力でやり返して更なる事態の悪化を招いたのは漆紀だ。
その結果真紀は重傷を負って今も入院しているのだ。
真紀の事を投げて、理解しがたいこの状況に絶望してただ楽な方に逃げて自殺し続けるのが正しい事であるのか。
漆紀は自問自答しすぐに答えを得る。答えは否、わかりきっていた。
再び沸き上がった、自身への苛立ちと怒り。魂なぞというものがあるのかどうかは分からないが、このまま何年、何十年、何百年もこの世界で死に続けて魂の死を迎えるつもりか、と。
本当に、真紀のことを忘れて眼前にある戦場から逃げて死に続けて良いのか。
(真紀のことすら全部忘れてなんて……あってたまるか)
当たり前だ。真紀が入院しているのは自分の咎であるのだから。
なにより漆紀にはこの殺戮渦巻く戦国の戦場など、悪童の小競り合い程度と思えるほどの大きな目標があるではないか。
(父さんを殺した宮田を殺せずに、このまま終わるものかよッ! ヤツはこんな戦場を軽々生き残り圧倒できるほど、魔法の腕だけでなく素の戦闘力もあるんじゃないのか?)
自分で自分に対し強く誓った事を忘れるなど、あってたまるかと。
もう一度自分を見て、こんな所で絶望に身を沈めている場合かと問い質す。
すると、もう漆紀の中に衝動任せの殺意はなかった。また自分から首を掻っ切ろうという発作のような焦燥と衝動は治まった。あるのはどうやってこの戦場の敵を殺し、ムラサメから言われた将を討つかという冷静な敵意であった。
(死ぬのは慣れた。俺は剣の達人でもないし、武術の達人でもないけど……ここでは何度死んでもやり直せる。勝てるようになるまで、俺は何度でも戦って覚えられる)
唯一漆紀にアドバンテージあるとすれば、死んでも最初の位置に戻されて生き返るということ。
ムラサメが漆紀を「弱い」と言い、その次に「将を討って」と言っていた事を思い出す。
言葉だけで推測するなら、ムラサメは漆紀に「大将を殺せるほど強くなれ」とでも言っているように思えた。
そう、理不尽に対して屈する事はない。ただ失敗を踏まえ、違うやり方を何度も試せば良いのだ。もう夜露死苦隊の時や萩原組の時のような後先を考えぬ衝動性のみの行動はやめた。
「安っぽく狂ってたまるか……腐ってたまるか!!」
漆紀は真っ直ぐに足軽兵達へと駆けて行った。




