49.討取絵図、首になる
「はッ!?」
死んだと思ったはずの漆紀だが、再び先程と同じく立っていた。
右手には村雨、けれど光景は先程と変らず時代劇のような合戦の最中であった。
「なんだよ、どうなってんだ?」
理解が追い付かない。さっき死んだはずでは、ムラサメが治したのか、しかし服には血が付いていない。
あれこれ思考を巡らすが、今は目の前の危機から脱さねばと漆紀は村雨を構え行くアテもなく走り始める。
(逃げなきゃ……でもどこに逃げりゃいい? わかんねェ、どこがどこだか……)
「首ぃぃいいい!」
足軽兵3人が漆紀目掛けて突っ込んで来る。
「殺られるかよ!」
真横に飛び退いて振り下ろされた長槍を間一髪で避けると、重なった3本の槍の先端へとすぐさま村雨を振るった。
全力を込めた村雨の一振りで、3本の槍は刃先から少し前の部分を断ち切った。
「槍がっ!?」
(今だ!)
今が好機と思った漆紀は三人の足軽兵から一目散に逃げ、他の足軽兵や甲冑姿の侍同士の戦いに巻き込まれぬよう姿勢を低くして戦場を駆け抜ける。
(とにかく兵士の居ない場所まで一旦逃げる。状況を確認しないと、何もできねぇ)
「変な甲冑のヤツ、兜首だぁ! 殺っちまえェ!!」
「来るんじゃねぇ!」
村雨から水を放出して逃げようとするが、いつもの感覚で村雨の刀身から水が出せない。
「あっ? なんで、なんで水が」
「ちぇえああああぁぁあ!!」
「ぐぶっ!?」
村雨から水が出ないと呆気に取られているうちに足軽兵達が距離を詰めて、背後から漆紀の腹へと刀を突き刺した。
「首じゃぁああああああ!!」
漆紀が後ろの足軽兵に応戦する間もなく、前方の足軽兵二人が漆紀の首筋に深々と短刀を突き刺した。
「がふっ……ご、ごご」
首から焼ける様な熱さと、夥しい量の血が溢れ出す。自分の命が失われていく実感をじわじわ感じる間もなく、足軽兵達に地べたへと押し倒される。
再び死ぬ、その恐怖で今にも絶叫したくてたまらないが首に刺された短刀の所為でうまく叫べない。
「首じゃ首ぃ!!」
「やっ、め……ぉっ!?」
短刀を引き抜くと足軽兵達が漆紀を押さえつける。そのうちの一人が打刀の切っ先を地面に浅く刺し、刃を漆紀の傷口に宛がう。間髪入れずに打刀の峰に右足を乗せ、そのまま体重をかけて踏みつけた。
首の皮膚が、肉が、骨が、呆気なく「ぶちっ」と音を立てて断ち切られ、漆紀は体の感覚が無くなる。
「首じゃあぁ!!」
足軽兵が漆紀の髪の毛を乱暴に掴んで持ち上げると、彼は地べたに倒れる自分の肉体を見た。
(打ち首、かよ……っ)
戦場は未だ熱狂し、皆が手柄・忠誠・殺意のままに命のやり取りを続けている。先程まで耳に入ってきていた男達の狂声が遠のいていく。
首を斬られても数秒は意識がある、という情報を雑学かネットのあやふやな記事で読んだ記憶を思い出しながら漆紀は再び死んでいった。




