48.目覚めたのは古き戦場
漆紀はカッと目を見開く。いつの間にか知らない場所に居た。天気は雨のようでパシャパシャと水音が聞こえる。
先程まで漆紀がフェリーに居たのは確かだ。それならば周りは辺り一面の日本海が広がっているはずだ。
しかし眼前に広がる光景は全く違う。まず船の床でも道路でもなく、原始から変わらぬ土の上に漆紀は立っていた。
それだけではない。木と縄で作った馬防柵や物見櫓に木造の建物、レトロなどという言葉では済まないほど過去の遺物が周囲にあった。
もっとわかりやすい情報は、人だ。
周りの人々はみな時代劇の撮影でもしてるかのようで、甲冑や軽装な足軽装備、槍や刀、弓といった古き武器を手にして戦っていた。四方八方から聞こえる怒声と悲鳴。
明らかに時代劇のそれと違うと判断出来る点は、彼らが本当に流血している点であろう。胸から、首から、腹から、脚から、皆血を流して死に物狂いで命のやり取りをしている。
フェリーから瞬間移動した、などというレベルではない。
これではまるで。
「タイムスリップ……?」
己の右手には村雨が握られている。それをしっかり握りつつも左手で鉄塊の首飾りを掴んでムラサメに呼びかける。
「どういうつもりだムラサメ! ここは何処なんだ!」
数秒待っても返事はない。
(無視かよクソ!)
「首を取れっ!!」
「突っ込めええ!」
足軽兵達が槍を構えて激しく打ち合っている。雨と血と肉が地べたにひたすら零れ落ちる戦場。目に見える範囲で安全な場所などない。
(ここは危ない、ぼーっと突っ立ってたら死)
その時、なにかが胸にぶつかった。
「あ?」
その感触がした瞬間、胸が焼ける様に痛み思わず地面に膝をつく。これが胸やけか、などとふざけて思ってみたが状況はもっと深刻だった。自分の胸に、深々と矢が刺さっていた。
ただ突っ立っていると標的にされる恐れがある、そんな恐れは時間を置かず現実となった。
「ぐっ!? な、治せ……ない?」
「首だあああぁぁ!!」
「うぐっ!?」
狂乱気味な足軽兵3人が全速力で走りながら漆紀に向けて槍を大きく振り上げ、そのまま脳天へと振り下ろした。
「やばっ……」
あまりの出来事で反応しきれなかった。
4mほどにもなる槍が3本も振り下ろされたのだ。強力な力に耐えられず漆紀の脳天はそのままかち割れ、彼は五感と血の気が薄れていくのを実感した。夜露死苦隊総長と戦った時と同じく、差し迫った死の感覚が体を覆っていく。
「がっ……ぁあっ……」
自分の頭蓋骨と脳が叩き潰される音を耳にし「死んだ」と確信した。




