46.暴露、論破、意味なき"たられば"
フェリーの展望デッキは船体が波を押しのける水音やボイラーの轟音が鳴り響いており、普通の声量では放った言葉が掻き消される。
そのうるささ故か晴れ渡った海原が見えるのにも関わらず展望デッキに出る客はほとんど居なかった。
漆紀と世理架はお互いに声が聞こえるように隣り合ってデッキの壁部にもたれ掛かる。
「さて、わたしがしたい話なんだが……」
世理架が漆紀に話をする理由があるとすれば、たった一つであろう。
「父さんなら、死んだよ」
「……未だに信じられない。本当に、彼は死んでしまったのか? あんなに……あんなに、戦える彼が。本当に、死んだんだな?」
「死んだ。俺の目の前で……俺は見た。だって父さんの血が、俺に飛び散ったんだ。間違えるわけなんかない……間違いなら、いいのにな」
「間違いならどれほど良かったか……しかし、君は今後も竜理教には狙われると思うぞ。漆紀君、どうする気かな? 今回の事件でしばらくは竜理教も鳴りを潜めるだろうが……そのうち水面下で君の身柄を狙うことだろう」
宗一が殺められ、妹の真紀は入院中。漆紀の答えは決まっていた。
「真紀だって入院してんだ。奴らより早く備えて、今度はこっちから仕掛けてやる」
「それもいいだろう。だが、根本的な課題があるだろう?」
今回の件、そもそも漆紀が拉致されたり佐渡流竜理教と善き関係を築けなかったり、なにより本家竜理教から来た宮田とネルに負けずとも勝てなかったために父を失ったこと、全てはたった一つの理由に尽きる。
「俺が、弱いって言いたいんだろ」
「君は竜王だ。その力を持ってしまっている……ならば、その力を御して最大限活かせるようにすべきだろう。それだけではない、もっと知識や判断力を鍛えるべきだ」
「あんたが面倒見てくれるのかよ。俺は、父さんの便利屋だってなんとかしないと……」
漆紀が案じているのは、真紀のことと便利屋家業のことである。父・宗一が死亡したことにより様々な手続きが必要になるだろう。
「まあ、君の目からすればわたしが本当のところ何者なのか一切知らないし信用できないのもわかる。だからね、君と信頼関係を築く上で……ここは一つ、わたしの方から秘密を明かして腹を割ろうと思う」
「秘密って、父さんも知らないような」
全て言い切る前に世理架が人差し指を漆紀の口に当てて沈黙させる。
「わたしは元竜理教司教の一人にして、八大竜王たる和修吉竜王である。またの名を、九竜竜王という」
その言葉を聞き、漆紀は最初理解できなかった。だが、自分の身の上を考えると理解出来ないのではなく、理解出来ないフリをし始めようとしてるのだと自覚した。
そして世理架が言い放った事実を認めると、湧き立つ熱を抑えられなかった。
「ッ!? あんたは……っ!」
思わず漆紀が村雨を取り出そうとするが、世理架がその右手を掴んで止める。
「確かにわたしは君が憎み始めた竜理教出身の人間だが、今は違う。君の面倒を見るよ……宗一君の代わりにね」
「あんたの事、全部聞かせて貰うからな」
「構わないよ。ただ、彩那ちゃんにはわたしの素性を言わないで欲しい。佐渡流竜理教を率いるつもりはないんでね」
「竜王だって? あんたが? なあ……ならなんであの時、戦いに来なかったんだよ。あんたが来てれば、父さんは死ななかった……っ!!」
そんなもしもを漆紀がぶつけても、世理架は首を横に振る。
「彼が死ぬとは思わなかった。それに、わたしが戦えば竜王だとバレる。奴らに崇められる……それはもう、御免だ」
「そんなのあんたの都合だろっ!!」
「君のソレだって君の都合だろう。父さんを助けて欲しかったー……そんなのは君の都合だ」
右手は制止されたが、左手で世理架の胸倉を力一杯掴んで抗議する。父を助けて欲しかった、それを漆紀の勝手な都合だと断じた世理架に貫くような攻撃的な目で対抗する。
「あんた父さんの師匠なんだろ? 弟子平気で見殺しにしたのに都合がどうのこうのだとか言うのかよ!!」
「君は竜王として佐渡の人々に救いを求められるのを気持ち悪いとか嫌だと思ったのだろう? そんな君が……彼らと同じ卑しい目をわたしに対して向けるな!!」
「俺をあいつらと一緒にすんな! あんなカルト連中と」
「いや、一緒だよ。わたしが竜王だから、助けに来ればもしかしたら……なんて思ったのだから。まず彼ら同様に他人に縋る事をやめるんだね」
世理架の言う事は尤もである。世理架に対して竜王としての力を期待した時点で、漆紀が嫌っている信者達と何ら変わりない。救済をただ乞うだけの無策、それは非難されるだろう。
「己の力も把握せず、衝動に任せて車から出たのは誰だ? 勝手な行動を取っておいて、勝手に失敗しておいてわたしに〝助けて欲しかった〟だと? 甘えるなよ糞餓鬼が!」
「ふざけんなよ……ふざけんなよあんた……俺とは違って、あんたは強いんだろうがっ! なのによ……クソ、クソっ……クソっ」
漆紀の十代特有の身勝手な「もしも」に対し、世理架は毅然として「間違いだ」と言い負かした。世理架の胸倉を掴んだまま何度も揺さぶって頭を壁部にぶつけるも、世理架の表情は変わらない。
「効かないぞ、竜王なんだから。普通の人間の力での暴力なんて意味ないんだ」
「クソ、クソ、クソ、クソっ、クソっ……!!」




