45.鎮座する竜王
奈良県竜理市。
宮田とネルは一度佐渡から撤退し、国内竜理教本部のある奈良県竜理市の竜王殿へと報告のために歩いていた。
この竜理市は日本での竜理教の発祥地であるとされ、竜理教による宗教都市として栄えている。特に市の中心部には巨大な竜理教本部施設が四角く幾重にも建設されており、中世ヨーロッパによくみられる城塞都市の様な様相を呈している。
とはいえヨーロッパの洋風建築ではなく、神道や仏教に見られる瓦や櫓に漆喰を意識した白塗りのコンクリート壁が目立つ和風の建築となっている。
その世界観たるや、どこか異世界にでも迷い込んだかのように竜理教独自の世界観に染められた街。それが竜理市なのだ。
竜王殿へと向かう長い回廊を宮田とネルは行く。
「竜王様、お怒りになるでしょうか?」
ネルが冷や汗を流しつつ宮田にそう問いかけるが、対して宮田は冷静そうに首を横に振る。
「竜王様は感情を表さないものです。当然叱責は受けるでしょうがそこに常人のような私情はなく、改めて任務が下ると予想しています」
「あの、最初の出立の時は宮田先生だけで任務を言い渡されたわけですけど……竜王様はどういう方なのですか? 佐渡の方は完全に俗人でしたが」
「徳叉迦様は、まさしく我々が思い描く竜王様そのものです。常に平静、感情の起伏はないです。それでいて竜王様として力を完全に御しておられる」
「我々のように、竜魔法を扱えるのですよね?」
「いいえ。我々のように、ではない……」
宮田が再度首を横に振ると、ネルは首を傾げる。
「神のように、ですよ。竜魔法としてはどれも最上級、当然ですよ。竜王様なのだから」
その言葉を聞き、ネルは改めて竜王という存在に敬意が深まりこれから謁見出来る事を心から喜んだ。
「さ、実際に会えばわかりますよ」
徳叉迦竜王が座す竜王殿の入口前まで到着し、宮田が大きな観音扉の取っ手を掴んで引っ張る。ゆっくりと扉が開き、風が吹き抜けた。
竜宮殿に入って少し歩くと宮田とネルは床に膝を着いてかしづく。
「竜王様、"竜宮の遣い"第2隊長・宮田と」
「竜宮の遣い第2副長、ネル・クリーストロス。ただいま帰還しました」
礼を尽くす二人を見下ろすと、竜王は静かに口を開いた。
『待っていた。そして失敗したな。新たに任を課そう』
細やかな装飾が施された椅子に、限りなく神に近い男が座っていた。
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フェリー船内にて。
佐渡島から出航したフェリー。その船内客室の窓際の席に漆紀は座っていた。
天気は快晴。青空と海が上下いっぱいに広がり、このフェリー以外はただ青一色の世界であった。まるで陸地がこの船だけになった孤立感すら覚えるほどの青一色に、漆紀はため息をついた。
「おお、こんな所に居たのかぁ。探したよ、漆紀君」
「え? あっ、世理架さん」
漆紀に声をかけて来たのは宗一の協力者・新南部世理架であった。漆紀の隣の席に座るなり「さてさて」と話を切り出す。
「信者の前での演説は聞いてたよ。でも君ぃ、信者達の前で魔法見せて良かったのかな?」
「え? 魔法なんて使って……あっ」
漆紀は信者の前で握った右拳を前に突き出し、親指側と小指側から村雨と同じ長さの濃い霧を出すして見せたことを思い出した。
「規模は滅茶苦茶小さいが、霧を僅かに出すのだって魔法だぞ?」
「ど、ドライアイスを実は手掴みしてたとかで説明できるから……それより、車で来てたんじゃなかったのかよ世理架さん。しかもウチの車で」
「フェリーには車も乗せられる事を知らないのか君は? まあいい。それより本題だ、わたしはわざわざ世間話の為に君の隣に座りに来たわけではない。客室じゃ人が多い、デッキで話そう」
世理架にそう誘われ、漆紀はフェリーの展望デッキに移動した。




