4.佐渡流竜理教の司教家長女・竜蛇彩那(たつへび あやな)
竜蛇彩那は佐渡流竜理教の信者である。と言っても、本人の意思で入ったわけではなく、元々その宗教に入っている家系であっただけだ。
いわゆるカルト宗教2世、と言うには違う。学説は様々あるが竜理教そのものは、神道や仏教概念から派生して誕生した宗教であり、その歴史はおよそ900年ほど。
本家たる竜理教の明確な発祥年数は分かっていない。しかし、本家竜理教から派生した佐渡流竜理教の詳細は判明している。
佐渡流竜理教は1610年頃に佐渡島で興った。当時の佐渡島はいわゆる金銀眠る財宝島である。佐渡流竜理教の発祥理由は、いくら金銀掘っても有力な武士ほど裕福になれぬ現地の労働者が、心の救済を求めた末に出来たという説が有力である。そのような記述のある江戸時代の書物が数点見つかっている点も、この説を後押ししている。
閑話休題。
歴史はあれど、竜理教は1980年代後半から1999年の世紀末にかけて凶悪事件を起こし続け、中にはテロと呼べる規模の事も起こしている。
本家竜理教がそれほどであるが、佐渡流竜理教は目立った凶行・凶悪事件は起こしていない。
けれど、佐渡流竜理教は何度か本家竜理教と抗争を繰り広げては停戦を繰り返している。
本家竜理教の凶行と、本家と佐渡によるヤクザ顔負けの激しい抗争によって、世間において竜理教は歴史こそあれど危険なカルト宗教と見なされているのだ。
とはいえ、竜蛇彩那は単なる一信者という立ち位置ではない。
これは彩那の自宅での出来事。
「どういうつもり?」
彩那の立場を加味し、彩那の母・竜蛇香代子は追及する。
何を追及しているのかと言えば、彩那が学校で配る筈のビラを紙袋ごと置いてしまった件である。
「放課後も配ろうと思って、それで……えっと……空き教室に男子生徒が居て、渡そうとしたんです。お母さん」
「ではなぜ紙袋がないの?」
「その……一人、男子生徒に……あからさまな変態が居て」
香代子は答えを聞くなり、彩那の両肩を掴んで言う。
「変態ごときに臆さない! あなたは佐渡流竜理教の司教となるのでしょう!? 変態一人がなんだというのよ! 竜脈の力を得ているのだから、もっとしっかりしなさい!」
竜蛇彩那は単なる一信者という立ち位置ではない。竜蛇家は現在、佐渡流竜理教の司教の役割を担っている。佐渡流は本家竜理教ではないため、宗教組織としてのトップ階級は司教に当たる。
そして司教は佐渡島にある竜脈から力を借り受けることができ、竜脈の力を持ってすれば才能が無くとも魔法が使えるし、雑多な竜だけでなく竜王かどうか特異な感覚で判別できる。
彩那の父・竜蛇利親は司教を務めていたが、4年前に本家竜理教の襲撃によって殺害されてしまった。
現在は香代子の姉、彩那の伯母に当たる人物が代理の司教を務めている。
佐渡流竜理教の司教を務める家の者が佐渡島ではなく、なぜ東京に住み移っているかと言えば、一信者を装い彩那を安全に育てる為であった。
これは香代子の判断である。本拠たる佐渡島は住宅地が本土と比べて少ないため、かえって外部から居場所を特定され易いため襲撃のリスクが高い。よって伯母が佐渡島に残り司教代理を務め、彩那は母の香代子と共に東京に居る。
だがそれらの理由はオマケに過ぎない。
佐渡流竜理教司教の家たる竜蛇香代子と竜蛇彩那が佐渡から離れた目的は、一族並びに信者達の大願でもある竜王を見つけること。
本家竜理教と違い、佐渡流竜理教の歪な点は、宗教組織でありながら奉るべき対象を確保できずに活動している点だ。
「まあ、あなたも年頃の少女の一人。変態に気圧される事もあるでしょう……ひとまずそれは保留とするわ。青竜、竜王様は見つけた? つい最近も佐渡の占卜師殿は竜脈をもとにこの地域で竜王様が目覚めたと告げたのよ。それもあなたと同じ年ごろで若いそうだけど、どうなの?」
青竜、それは佐渡流竜理教の彩那の洗礼名である。
「それは見つけました。でも、本人はまるで自覚ないです」
「自覚なんて関係ない。見つけたのなら朗報よ! ああなんと善き……すぐにでも竜王様をら……いや、お迎えしなくては」
「彼の住所はわかってないですし、どうしましょうお母さん」
「明日、尾行しなさい。そして明後日、早速お迎えするわ」
「竜王様相手なら、魔法は効かないと思います。どうやって身柄を」
「自覚がないのでしょう? なら捕らえる方法はいくらでもあるわ。他の信者達にも早々に準備させるわ。あなたも見つけたからには覚悟を決めなさい、青竜」
生まれた時から学んだ佐渡流竜理教。彩那が覚えている限りでは、香代子が自分の名前を呼んでくれた記憶はなく常に洗礼名呼びである。少々の違和感は感じているが、生まれた頃から佐渡流竜理教で生きた身なので、これを積極的に変えようとは思っていない。
自分の一族の大願がついに叶うかもしれないというのに、彩那自身はどこか冷静だった。
本来ならば狂喜乱舞するような事柄のはずだが。
(彼が……辰上君が、竜王様? 私と何ら変わらない歳の同級生が、本当に竜王様?)
自身の力でそう判断したにも関わらず、彩那はまだ半信半疑だった。
しかし実際にその身柄を捕らえて、佐渡のとある場所に連れれば真偽がわかる。そう結論付け、彩那は自身の力をひとまず信じる事とした。




