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41,佐渡の人々、語り掛ける漆紀

漆紀が小さい木の台に立つ。眼下には、老若男女問わずテント街の佐渡流竜理教信者が集まっていた。

「竜王様か」

「若くないか?」

「本当に竜王様なのか?」

「竜王様なら魔法使えるって聞いたことあるぞ」

「いやいや、連絡票見てないのか? 竜王様で間違いない、司教さまがそうご判断した」

「巫女様のご判断だろ」

漆紀が出て来るなり信者達があれこれざわめき始める。マイクもない状況だが、声を通すために漆紀はひとまず「あーあー、聞こえてるか」と声を張る。

「竜王様の隣に立ってるの、巫女様か?」

「この混乱で佐渡の連絡網がマヒしてたからなぁ。ご存命で安心だわ」

「竜王様が話す、静かに」

真面目な信者の何人が他の信者達に閉口するよう促して、少しずつ静かになる。

眼下に居る信者の数は五百人ほど。漆紀はこれまでの人生でこれほど大勢の前で何かを話したり発表したりする経験などない。

せいぜい学校の授業の発表で30人か40人の前で話す程度のものだ。

後には退けない、覚悟を決めて固い真顔の表情で先程思い付いた言葉を話し始める。

「こんにちは……司教の竜蛇から聞いている通り、俺が竜王……らしい」

自分の心にも思っていない事を言っているので心地は悪いが、やり通さねばならない。歯切れの悪い態度をやめて、ハキハキと話し始める。

「先日、儀式の日に事件が起こった。本家竜理教の襲撃でたくさんの佐渡の人々が亡くなった。それだけじゃない。竜蛇から聞いたが竜脈の暴走で天変地異のような水害が起こり、この水害でもたくさんの人が亡くなった。街の建物もたくさん壊れた」

悪い出来事を口に出したことで、眼下の信者達は表情が曇る。

「ただ、失ったのは佐渡の人々だけじゃない。俺も……あの儀式の夜に父さんを本家竜理教の連中に殺された。正直、ここで人前に立ってこんなこと話すのも嫌なぐらいにつらい」

本当だ。漆紀は話さずに済むのであれば、信者達への話などしたくない。早く東京の家に帰ってベッドに沈んで落ち込みたい。

しかしこの場で彼らに何の言葉もかけずに東京に戻れば、最初に彩那がやったような拉致行為を働く者や、本土での漆紀の日常生活を監視したりストーキングして逐一佐渡島に報告するような信者が現れるだろう。

私生活を侵されては堪らないと考え、漆紀は信者達と向き合った。

「竜王様のご身内が?」

「ああ、なんと痛ましい……」

身内を失ったと吐露した漆紀に対して、この事実に関しては信者達も同情的であった。

「だが俺は生きてる。だから今、正直なところを話したいと思う」

全て本当に正直な事を話すわけではないが、漆紀は思うところを織り交ぜる。

「本家竜理教は絶対に許さない。そして、今の俺が竜王様として務めを果たせるかと言うと……それはまだ出来ない。これを見てくれ」

漆紀は握った右拳を人々の前に突き出し、親指側と小指側から村雨と同じ長さの濃い霧を出す。

「竜王だから、確かにこんな魔法じみた事はできる。でもこの程度なんだ。佐渡のみんなを救う務めが出来るほどじゃないんだよ、まだ……俺は未熟だ、そこらの小学生の方がよっぽど立派にだって思うぐらい、俺はダメだ。ハッキリ言って竜王様だなんて御大層な言葉に適さないクソガキだ」

竜王様、という座に相応しくない。現に彼らにとっても竜王が使うとは思えない「クソガキ」という俗な表現を使って漆紀はそう主張する。

実際、その漆紀の言動に信者達は頷いてしまう。彼らは竜王という存在を、先の天変地異のような事すら自在に起こせる強大な存在と信じているのだ。故に濃霧を右手から出すだけの漆紀に対して畏れながらも「未熟」と思ってしまうのは当然であった。

「だから、俺が大成するまで……例えば知識なら高校、大学を卒業したり。もっと大きい力を使えるようになるまで、まだ竜王様にはなれない。だから、待って欲しい。もっとちゃんと神様みたいになるまで」

大学に本当に行くかどうかは漆紀自身も決めていない。だが、この場で主張するのは成長するまで待ってくれという事だ。

「俺が本当に竜王様になれるまでは、どうか待ってくれ。この佐渡の復興も、どうか頼む」

信者達は今すぐにでも「竜王様」による強い力で救って欲しかった。それゆえ今の漆紀の主張では納得とはいかない。

だが、今の漆紀には彼らが望む「竜王様」としての務めがまだ出来ないのは事実であるし、漆紀自身は到底やるつもりはない。

「わかり、ました……」

「仕方ないよ……な」

「まだ竜王様が成長しきってないならなぁ」

納得はいかない、しかし今ある現実に対し信者達は「飲み込む」しかなかった。これまで歴史上本家に何度も襲撃されたり、差別される事もあった彼ら信者は忍耐強かった。竜王を迎えるべく急いた事で拉致を実行した点を除けばだが。

「俺から話せることは、以上だ……あと本当に図々しいかもしれないが、ちょっとした頼みがある」

台から降りて退場しかけた漆紀が追加の話をしようとする。これには彩那も予定外のことで首を傾げる。

「竜王の力の練習にエネルギーとして血液が必要だ。だから献血してくれ。司教家の竜蛇を通じてどうか俺に輸血パックをくれ。本当に困ってる。この島の医者や病院もみんな信者だろう? なら、献血して血液をくれ。救助された被災者なんかにも輸血が沢山必要なのはわかってる。でも、俺にもどうか血を分けてくれ」

ムラサメの治癒ならまだしも、宮田との戦いで使った竜化に血液が関係するかは漆紀にもよくわからない。

しかし、今の漆紀にはムラサメの治癒に使う為の血の貯蔵がないのだ。

万が一、再び何かの争いに巻き込まれたとして体を治せない。ムラサメの力以上に、竜化は得体の知れないものなのだ。ムラサメから「人でなくなる」と警告された以上、竜化による怪我の治療は避けた方が良い。

とはいえ、この状況では漆紀の言葉通り図々しい願いであるため、信者達は眉間にシワを寄せて「んん」と悩む声を上げる。

「みんなの血を俺に分けてくれ。そうすれば、俺とみんなは血を分けた家族になる」

血を分けた家族。その表現に、信者達は強く揺さぶられた。信仰心という目に見えぬものではなく、血液という物質で直接竜王様と繋がる。

その言葉は、信者達にとってはこの上ない喜びだろう。

「血液かぁ」

「街の赤十字にも献血してるしなぁ」

「俺は竜王様に血ぃ捧げるぞー!!」

突如として沸き立った信者の男がカッターナイフで手首を切りつけて盛大に血を流す。

「バッカ、今血ぃ出すな!」

隣にいた信者が手首を切りつけた男の頭を軽く叩く。

「竜王様の血液型はなんだ?」

「あとで司教様に聞けばわかるだろ」

信者達の多くは、漆紀の頼みを引き受けることにした。むしろ、成長に意欲的な漆紀の姿勢を見て、先程まで疑問の表情を浮かべていた信者の数名は漆紀の主張に頷き始めた。だが、渋々飲み込んだ信者達は「んん」と唸り声を上げて首を捻り続けていた。

「そして最後に……これだけは約束する。佐渡を破壊し、父さんを殺した本家竜理教には、必ず報いを受けさせる!!」

これだけは漆紀にとって佐渡流竜理教信者達の顔色なぞ伺わずとも決めた事であった。父・宗一を殺した本家竜理教に報いを受けさせる。特に、宗一を殺した張本人たる宮田は絶対に殺害すると心に決めた。

本家竜理教を討つべしと思うのは漆紀だけの思いではなく、この点に限っては佐渡流竜理教の信者達全員が同じ思いである。

「必ず……報いを」

「まずは復興だけどなー」

「竜王様はやる気だ。ああ、必ずやるんだな」

信者達は沸き立った。現時点ではとても本家竜理教と戦う力は無いし復興が優先である。

本家竜理教に報いを受けさせる、その言葉は信者の彼らを強く鼓舞した。

「以上。短いけどわざわざ聞いてくれてありがとう」

漆紀は台から降りて、そそくさと天幕へと戻った。

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