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38.変貌した佐渡島

「……俺、寝てたのか?」

簡素な和室の中に敷かれた一枚の敷布団に漆紀は寝かされていたようで、目を覚ますなりゆっくりと上体を起こす。本家竜理教の魔法使い・宮田との戦いで竜化し、その後に気絶するように路面に倒れて眠ってしまった。漆紀の記憶はそこまでで、その後、どうしてこの和室に居るのかはわからない。

背中に手を回して触ってみるが、竜化の時に背中に生えた毛は無くなっていた。耳も触ってみるが、尖った感触はなくごく普通の一般的な日本人に見られる耳に戻っていた。

「俺ん家……なわけねぇよな、はぁ」

起床そうそうに溜息を吐くと、漆紀は立ち上がって右横にある襖を開ける。

「おーい、竜蛇。いるか?」

漆紀は佐渡島に居る間に竜蛇彩那が散々自分に付いてきた事を思い出し、この家屋にもいるのではないかと思って呼びかける。

「……居ないのか?」

襖からは廊下が続き、廊下に出て右手を見ると玄関に繋がっていた。時刻は昼の時間帯なのか玄関から日光がガラス越しに差している。

(とりあえず外に出るか)

漆紀が玄関に来ると、見慣れている自分の靴が置いてあった。恐らく彩那が置いたのだろうが、宮田との戦いで人間では出せない力で踏ん張ったために靴底が潰れて接合部が剥がれて開いていた。

壊れてしまっては仕方ないので自分の靴ではなく、破損ない綺麗なサンダルを履いて玄関の戸を開け外の様子を確認した。

外は雲一つない快晴である。しかし今の漆紀にとって燦々と照る太陽は心に毒である。

「なん……だよ、これ」

漆紀の居る家屋は高台にあるものだったようで宮田が放った竜脈の力による破損はなかった。しかし、高台にある家屋だからこそ、その他の街の惨状が見渡せてしまった。

坂を下るごとに家屋が多くなっているが、その家屋が土台だけを残してほとんどが水に流されて海へと流れていった。津波にでも遭ったような光景だが決して津波ではなく、一人の魔法使いの切り札が起こした惨状である。

家屋や車両、その他さまざまなものが海に沈むかあるいはプカプカと浮いている。

(思った以上に酷いなこれ。これが、竜理教の竜魔法と竜脈の力ってヤツで出来た景色だってのか)

漆紀も歴史の教科書などで天災に遭った被災地の写真などは見ているが、直に自分の目でそのような光景を見ると開いた口が塞がらない。

玄関前を歩いて家屋の囲いを出て道路に出る。道路は坂道になっており、漆紀の位置から数メートル下った先の家屋は破壊されていた。道路すら塞がっていてマトモに往来が出来ない状態である。

「竜王様、目が覚めたんですか!?」

この佐渡島に来てから、聞きなれた声が坂道の上方から聞こえてきた。後ろを振り返ると、新南部世理架から借り受けた服のままの彩那が坂の上に立っていた。

「かろうじて通信はできましたが、どうやらあの男が放った竜脈の被害は酷いようで佐渡島中が滅茶苦茶です……こちらに助けが来るのも遅れています。佐渡島各所で死者が出てますし、行方不明者も」

「竜蛇、これ本当に現実か?」

「えっ……」

「竜蛇は母親を亡くして、俺は父さんが死んじまって……起きても、教科書でしか見ないようなほど街が滅茶苦茶になっちまって……俺は、本当に生きてんのか? 勝ったのか? 負けたのか? これじゃ、わかんねぇよ……っ!」

得たものなど、なにもない。

目一杯、海まで広がる日常の残骸。

佐渡流竜理教、本家竜理教、双方死者多数。

彩那は母を、漆紀は父を失った。

「……そう、ですね」

漆紀が抱く迷いの想いは、彩那とて同じであった。

_____________________


「ここまで引きずって運ぶの大変でしたよ竜王様。昨日は丸一日寝てましたけど……竜化が堪えたのですよ、きっと」

「……あの銀髪男が逃げて、その後は丸一日寝てたのか。クソッ」

ひとまず家屋に再び入ると、漆紀と彩那は居間に座って状況を整理していた。

「それと……竜蛇、竜化ってなんなんだよ?」

「あの夜、竜王様が見せたお姿と力ですよ。人型のまま、竜のような見た目になっていたではないですか」

「ムラサメは、人でなくなると言っていた。そのハズだけど俺は……」

「竜化は、言葉通り竜になることです。でも現に竜王様は人の姿に戻っています。鬣も抜けていますし」

「……それより竜蛇、助けはいつになったら来るって?」

「あと二日ほどはかかると」

「食糧は……他の家に何かないか漁るしかないか。なあ、山の方に脱出しようとしても無理なのか?」

「アーケード街の方ですが、あちらも所々建物や天井、路面が壊れていてとても安全に歩けません」

「八方塞がりか。村雨で水を瓦礫にぶっ放しても、余計に瓦礫を散乱させるだけだし……」

漆紀は父を失ったこの地から一刻も早く出て行きたくて堪らなかった。

しかし現実はそうもいかず、嫌だろうとこの場で救助を待つ他なかった。

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