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35.姿を見せた竜・アンキロサウルス

平野小太郎は漆紀と彩那を追跡し、彼らが戦闘を始めたことで隠密に陣取りをしていた。戦闘の様子も観察しつつ、移動もする。そして機を見て漆紀と彩那を害する敵へと攻撃を加えようと待つ腹積もりであったが、良い奇襲位置の陣取りがうまく行かず時間がかかってしまった。

そうして屋根に上り標的を見定めた時には、窮地に陥っていた宗一の姿が漆紀よりも先に目に入った。宗一の存在は総本山で漆紀を助けようと信者達を銃撃した人物としてしか認識していなかった。

しかし今の状況においては漆紀が宗一を「父さん」と呼んだことから、間違いなく漆紀にとって味方だと小太郎は判断した。

よって、小太郎は迷わずすぐさま攻撃を始めたのだ。その第一目標として宗一と取っ組み合いをする貴子が映り、彼女を先に撃った。

「誰……が?」

銃弾は狙い通り貴子に当たったようで、貴子の腕力が弱まる。宗一が貴子の手首を掴んだまま、彼女が握ったナイフをそのまま彼女の胸に突き刺した。

「邪魔だ!」

宗一が貴子に致命傷を与えるなり、そのまま蹴飛ばして屋根から落とした。

「ネル! 屋根に人影!!」

宮田が鋭く指摘すると、ネルは漆紀への拘束を続けたまま宗一とは反対方向の家屋の屋根に居る小太郎を捉える。

「……」

小太郎は無言のまま拳銃を構え、上方から宮田とネルを狙い撃つ。

「その角度では無駄ですねぇ」

弾丸は宮田に当たることはなく、直前で「トン」と音を立てて落ちる。

(何か黒い盾でも背負ってるのか? 見えにくいときはコイツに限りますな!)

すると小太郎は腰に巻いたバックパックから何かの袋を取り出すと、その袋の口を開けて宮田の方へとぶん投げた。

「何を……これはッ!?」

小太郎が投げた袋が宮田とネルを守る不可視の何かにぶち当たった瞬間、袋の中身が大きく広範囲に飛び散った。大量の黄色い粉末がまき散らされ、本来不可視のはずのものに粉末が付着したことで、その姿を明確にする。

宮田とネルを取り巻いて守っていたのは、竜だ。それも西洋の人々が思い描くドラゴンでもなく中国の絵巻によく描かれる細長な龍でもない。

恐竜だ。

体を覆う分厚い装甲と、先端には骨塊のついた尻尾がハンマーの様にも見受けられる。

その特徴を見て、彩那は呟いた。

「アンキロ……サウルス?」

可視の存在となった力は、蛍光塗料によって姿を暴かれた。その姿は、アンキロサウルスで相違なかった。

宮田は不可視の障壁という優位性が失われ、焦燥の汗が眉を伝う。

「蛍光塗料!? ネル、今すぐ退き」

全て言い終えるより前に、眼下の敵を殺すべく宗一が懐から拳銃を引き抜いて宮田を撃った。

(向かいの屋根のヤツが何者かはどうでも良い。なによりも先に、こいつらの始末が先だ!)

宗一は屋根に居る小太郎については後回しにし、宮田とネルを殺すべく撃つ。

宮田は塗料の付いたアンキロサウルスを立ち上がらせつつ、ネルと共に伏せて装甲の陰に隠れる。

「……ッ!」

宮田とネルを狙い撃つのは宗一だけではない。屋根には小太郎がおり、反対方向から宮田の背を狙って拳銃を撃つ。

「ぐっ!?」

弾丸が一発、二発と宮田の背を貫き肉まで到達する。

「宮田先生!」

(まだここで倒れるわけにはいきません……徳叉迦様、お借りした力を使いますッ!!)

宮田は懐から黄金色に反射する仏具を取り出す。水などの液体を入れる容器と思われるが、その仏具の蓋を宮田が覚悟を決めて開けた。

「御力をおおぉぉぉぉッ!!」

その時、彩那に限らずその場の誰もが異常な力を、気配を感じた。

否、気配というより予兆に近い。

佐渡の大地が震え、家屋が、草木が、空気が、命を得たかの様に鼓動を発する。

(これがどうしたというのだ。殺せば止まる!)

動じることなく宗一は宮田を再び撃とうとするも、家屋が大きく揺れてバランスを崩し転ぶ。

「ぐっ……これだから竜魔法は相手したくないんだ!」

宗一は揺れに耐えて、必死に立ち上がろうと何度も何度もバランスを取っては崩れる。

(原理もなにも分からないが、あの銀髪を仕留めれば止まる……ッ!)

小太郎は体幹を鍛えていたため大地の揺れに耐え、宮田に何発も銃弾を撃ち込む。弾丸を肩、腹、脚と各部に受けても宮田は倒れない。

(銃弾は明らかに体に撃ち込めてるのに倒れない……自作銃だから威力が良くないとか、そういう問題ではない。拙者には手に負えない、一度退くか)

小太郎が夜闇に隠れて逃げ去り、漆紀に味方する人間が一人減った。

「宮田先生、今度は何をしたんですか!!」

「話していませんでしたね。徳叉迦様から竜脈の御力を借り受けてきていたのですよ」

「徳叉迦竜王様から?」

ネルのオドオドした反応に対して宮田は冷静に淡々と返す。その様子を目にして漆紀は地に這いつくばったまま首を傾げる。

「徳……しゃ、か? 何の話を、してんだテメぇらは!!」

宮田が宗一と小太郎に気を取られている間、漆紀はムラサメの力で怪我を治し続けていた。右手は既に治っており、尚且つネルの注意が逸れたため漆紀を押さえつける不可視の力が弱まっている。

漆紀はどうにかしゃがみの姿勢にまで起き上がってネルへと村雨を向ける。

「ぶっ放せムラサメ!!」

「まずっ、ああぁぁぁッ!!」

漆紀が村雨から一気に水を真っ直ぐに放出して、ネルを後方の家屋の壁まで押し退けていくが。

「ダイノニクェスっ!!」

ネルが負けじと不可視の力で漆紀の両脚を掴み、彼が放つ水の勢いを利用して己の方向に引っ張ろうとする。

「今度は流されませんよ竜王様。また四肢が潰れる事になりますよ……わかってますよねぇ!!」

ネルが苦しそうに吐き捨てるが、漆紀は抵抗をひたすら続ける。

「あぁ!?」

大地の揺れが治まらず、遂には漆紀の足下の地面が割れ始める。

「竜蛇! なんとかなんねぇのかよ!!」

「無理です竜王様! これは私でどうにかなる力じゃないです!!」

路地に隠れつつ彩那はそう答えた。竜脈の巫女である彩那であるからこそ、宮田が仏具から解き放った竜脈の力がいかに膨大で危険なものかを理解できた。

遠方から大きな破壊音が聞こえてくる。爆発音などとは違った、およそ人為的な破壊では起こらない悍ましい音が佐渡島の各所から聞こえてくる。

「うわあぁっ!?」

漆紀の足下から彩那が起こした水の噴出よりも更に大きく太く高威力な水の噴出が起こった。ネルの不可視の力も相まって、漆紀の脇腹と肩が抉り潰される形で後方へと吹き飛ばされた。

「痛ってェえッ!!」

『もう無理、これ以上抵抗して怪我したら……治せなくなる』

「萩原組で大量に血ぃ吸っただろ!!」

『それがもう尽きると言っているの。あなたの失った血液の質量だけじゃなく、臓器の質量、骨の質量、全てその質量の分だけ血の貯蔵は減る。あなたは萩原組との戦いで確かにたくさん血を吸って貯めたけど、彼らとの戦いの最中も回復しては傷ついてを繰り返していた。だから、もう……』

「どの道戦わなきゃ死ぬだろうがよ! 治せ!!」

「無理するな漆紀、父さんに任せろ!」

屋根の上で匍匐の姿勢のまま宗一が軋む体を奮い立たせ、ネルの方へと手榴弾を1つ投げつけるもののネルがこれを見逃さない。

「こんなものをッ!!」

ネルが不可視の力でその手榴弾を掴み、瞬時に宗一へと投げ返す。

「ダメか」

すぐさま隣の屋根に飛び移り、宗一は伏せる。爆発が起こるかと思われたが、唐突に家屋全体が地下から溢れ出た莫大な量の水で押し崩され倒壊する。

「なんだ!?」

水に包まれたこともあってか、手榴弾の爆風や衝撃波は宗一に及ぶことはなかった。周囲を見渡すと、他の家屋も次々に地下から勢いよく出る水によって破壊されていく。その中には半径20mほどの極太の水柱が吹き上がっている箇所もある。

「宮田先生! なんでヤツを守ったんですか!?」

「守ったわけではありませんよ。この力、拙僧の制御下にはないようで……決まった魔法が起こるだけですね」

宮田の背にあった銃創には竜脈の力が流れ込み、その傷口を塞いでいく。

「どうすれば……こんな状況、どうすればっ……!?」

彩那は路地に隠れたまま、どう足掻いても自分の手に負えない状況に頭を蝕まれていく。

宮田が仏具から開放した竜脈の力は止まらず、佐渡島の大地を憤怒させていた。

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