33.聞こえる銃声は父の銃、加勢に向かう漆紀と彩那
漆紀が暴走した彩那を説得した直後の頃。
「ウォータースライダーは久しぶりですよ。良いリフレッシュです」
「なんでもプラスに考えれば良いってものじゃないですよ宮田先生! 竜王様からかなり離されてしまいましたよ。内通者の竜蛇貴子ともはぐれましたし」
暴走した彩那が魔法によって噴出させた地下水と漆紀の村雨の膨大な水が合わさり、川のような水の奔流が西アーケード街で起こった。
その水流に流された宮田とネルは西アーケード街の入口辺りまで押し戻されたのだ。
「そう慌てない。竜王様は竜蛇彩那を見限ったか説得した、あるいは殺すかの3択でしょう。そして、いずれにせよ竜王様は脱出すべく動きます。さて、竜王様はどう動くと思いますかネル?」
「えっと……このまま普通にアーケード街を下って来るかもしれませんが、その線は薄いと思います。私達が待ち伏せしてると予想し、竜王様が来ないかもしれません」
「いい推察ですねぇ。では、他には?」
「元来た道を戻って総本山へと逃げて行く、ですかね。でも、これも可能性は低いと思います。竜王様は司教家長女の竜蛇彩那に〝逃げないで下さいね〟などと釘を刺されていました。つまり、竜王様は佐渡流竜理教からは離れたいはず。そのため、総本山へ戻るとは思えません」
「よし。では他に可能性は?」
「可能性が高いのは、竜王様がアーケード街から外れて……暗く草木生い茂る野外へと逃げ出した……というものです。こんな夜に野外だなんて、遭難したっておかしくないですが相手は竜王様です。野外へ外れて街を目指そうとするのもあり得るかと。当然危険極まりない判断ですが、これはこの島の勝手を知っている者が協力すれば話は別です。野外でも通れる道を知っている者……竜蛇彩那を説得していれば、可能です」
「では、竜王様が口説き上手な事を祈って街で待ち伏せしましょうか」
宮田がそう結論付けようとするも、ネルは「いや」と付け足して言葉を続ける。
「我々の第一優先は竜王様です。万が一にも、二つ上げた低い可能性の行動を取るコトがあるやもしれません。このうち、我々が取れる対策はここでの待ち伏せ」
「では?」
「ここで1時間ほど待ち、それでも来なければすぐに街へ移動します。下り坂であれば、あの地点からここまで1時間以内に来れます。また竜王様が野外の夜道を選んだ場合、行き先はここから少し西南にある相川の街……そこまでは整備された道ではないので、我々がここで1時間ほど待ってから行っても充分間に合う距離です。万が一の低い可能性すら拾い切る必要があるかと」
「良い案です。早速そうしましょう、ネル」
宮田がそう褒めると、ネルは少し得意げに口元を緩ませた。
________________________
(これはいかがしたものか……)
平野小太郎は漆紀と彩那の追跡をしていた。二人が起こした魔法という超常現象を目の当たりにして様々な疑問で頭が溢れたが、本来の目的を忘れず再認識して疑問を押し殺し追跡を続けた。
総本山でも銃声や信者達の怒号に紛れた漆紀と彩那の声を集中して聞き分け、深い理由は分からないが漆紀が彩那の持っている鉄塊の首飾りを必要としている事を察した。
実際に鉄塊の首飾りを奪って漆紀に渡すと決断した材料は単なるカンだ。しかし、訓練した自分の五感で得た情報や情報整理能力も併せてここまで来たのだ。
そうして小太郎が着いたのは佐渡島相川広間町に位置する佐渡奉行所跡だ。かつてここにあった佐渡奉行所を復元した建物が立派に鎮座している。
そして漆紀と彩那はバンの運転手と一悶着あったものの、すぐさま誤解が解けて二人はバンに乗った。バンは再び佐渡奉行所前の駐車場に停まり、そこから動かなかった。そこまで小太郎は視認し会話も聞いていたが、それ以降バンに動きがない。
(辰上氏も竜蛇嬢も、何らかの超常現象を起こしている。こんな非現実的なコトは信じたくありませんなぁ。親父殿がそういう超常的な力を持った人間が存在すると仄めかしてたが、半信半疑だった……しかしまぁ本当に、しかもクラスメイトにこんな人物が居たとは)
とはいえ、現時点で二人が魔法という超常現象を使える事そのものはさして小太郎にとって問題ではない。問題は、漆紀と彩那が一体今後どういう行動を取るのかという一点に限る。
(動きがありませんなぁ。バンは依然として静止したまま。バンの中で運転手と何やら色々話しているようですが……今は誰かを待ち合わせている?)
疑問を押し殺してはいるものの、どうしても押し殺し切れない点がある。
(辰上氏が最初にバンの運転手と相まみえた時、どこからか刀を取り出して牽制していた。この合流は、辰上氏と竜蛇嬢にとっては全く予期せぬものであったということ。けれど今は行動を共にしている……少なくともお二人と敵対する関係にはない)
小太郎は更に深堀して推察していく。
(最初の構図としては、辰上氏が竜蛇嬢率いる佐渡流竜理教に拉致されたというのが妥当でしょう。しかしあの総本山で拙者以外の何者かが辰上氏を救うべく銃による襲撃を仕掛けて以降、少し構図が変わりましたな。辰上氏が一切把握していない、拙者のように救出を試みる正体不明の第三者がおりますな)
漆紀を佐渡流竜理教から救出しようとする者。その存在の人数を小太郎は状況から割り出していく。
(あの総本山で銃撃した人物と、今バンに乗っている運転手は別人でしょう。銃撃した人物は辰上氏が十分遠くへ逃げ出すまでは総本山で戦って時間稼ぎをするはず。となれば、あのバンに居るのはもう一人の協力者。辰上氏を助けようとする第三者は少なくとも2人いる)
小太郎はそう片付けると、状況整理をやめる。
(これでいい。あとは、バンの動きを見守るだけ……ん?)
唐突にも東の方角から銃声と思わしき軽快な爆発音が連続して響き渡った。
(どこかで戦闘? 例の銃撃をした当人ですかなぁ)
そうこう小太郎が思考していると、1分程してバンから漆紀と彩那がドアを開けて飛び出て来る。二人とも車から降りるなり立て続けに聞こえる東方の異音のする方へと走っていく。
(おいおいおい、まさかお二人とも音のした方へ行く気ですかな? なんと馬鹿な……いや、致し方ありませぬ。拙者が今回成す義はお二人の行方を突き止めお助けすること。手の届く範囲の学友ぐらい助けねば)
決まった事をもう一度思い返すと、小太郎は持参してきた自作拳銃の安全装置を外していつでも撃てるようにする。そしてこれまで通り夜闇に紛れたまま、漆紀と彩那の跡を追った。
________________________
「今の音は?」
漆紀がバンの外から聞こえた音に首を傾げると、運転席にいる世理架はため息を吐く。
「おそらく宗一君だろう。まったく、また敵と出くわしたか……本当に運が悪いなぁ毎回……とにかくここで待つのに変わりない」
「父さんが戦ってるんだろ? なら俺も行く!」
「おいおい待て待て! 頭おかしくなったのかい? わたしと宗一君は君を助けに来たんだ。これ以上危険な場所に行くんじゃない!」
「父さんは俺みたいに体を治す魔法なんて持ってないんだ! 世理架さんが知ってる頃の父さんと違って歳もとってる。昔よりは弱くなってるはずなんだ。だから俺が行く!」
「待てって、この!」
世理架が止めようと後部座席へ手を伸ばすも、漆紀はそれを躱してドアから出る。
「竜王様が行くなら……私も行きます」
彩那はあくまでも漆紀と常に行動を共にするという思いが頭の中に貼り付いていた。というのも今の彩那は心の拠り所が漆紀しか居ないが故に彼から離れられなくなっていた。
「まったく、悪童どもめ……」
世理架は右手を額に当てて眉間にシワを寄せる。
(このまま追わずに行かせたら宗一君キレるよなぁ。でも竜理教の連中にわたしの正体バレたくないんだよね。困ったなぁ、本当にこれは困った。若人特有の勘違い勢い行動は本当に困るよ。頭を無駄に使わせないで欲しいね)




