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31.保護、合流。残るは脱出

「すまないね、色々道具を乗せてるんだ。全て君を助けるためのものだよ、漆紀君」

「一体誰なんだあんたは」

慣れ親しんだ自家用車の運転席に座る見知らぬ端麗な女に対し、漆紀は率直に問いかける。

「わたしかぁ? わたしは新南部世理架って言うんだ。宗一君とは昔からの付き合いだ」

「そう……えっと、呼び方は新南部さんで良い?」

「世理架さん、の方が響き良くないかい? はははは、どうだいどうだい?」

漆紀は自分の父に世理架という若い知り合いが居たとは全く想像できなかった。

「こう言えばわかるかな。わたしは彼に魔法を教えた」

「あんた父さんの師匠だってのか!?」

「おっと、それ以上わたしも君も余計な事は口走らない方が良いね。その子、佐渡流竜理教の信者だろう?」

彩那の話題になると、彩那自身が世理架に対して返答した。

「私は信者じゃなくて、司教です! 司教……の長女です、けど……まだ、司教じゃないです」

「ふーん……へぇ……」

世理架はどこか楽しそうに声を漏らすと、車に載せた無線機材を操作し始める

「世理架さん、何をしてるんで?」

「君のお父さんに連絡を取ろうとしてるんだよ。こうして保護出来たわけだしね。無線機はこれでヨシ。感度良好……おし、繋がってくれ……」

世理架がそう祈るも、意外にも3秒程度で応答が成された。

『そっちから連絡か。どうした?』

「宗一君、君こそ今はどこだい?」

『総本山から逃げて野外を進んでる。こんな夜だが、幸い方向はわかるし、このまま街に出るつもりだ』

「今どの方角に進んでる?」

『総本山から西南西だ。その方面に街があるからな』

「なんてツイてるんだ! いいかい、わたしも君から見てその方面に居る。そしてもう一つ朗報だ」

『なんだ? ぬか喜びはさせるなよ』

「君の息子は既に保護した」

『なんだと!? それは本当か!』

「総本山からこちらの街の方へと逃げたようでな。歩き続けてかなり疲弊してるが、無事だよ。今は後部座席に乗ってる、声を聞かせるよ。ほら漆紀君、これに話しかけて」

世理架は無線のトランシーバを漆紀に手渡すと、スマートフォンの電話機能を利用する感覚で耳元に持って来てから話し始める。

「あー、父さん。聞こえてる? 俺だよ、父さんのお陰で総本山から逃げて来れたんだ。あの時屋上から撃ってたの、父さんだろ?」

『ああ、漆紀か。無事なんだな!』

「歩きまくってすげぇ疲れたよ。世理架さんに車上から話しかけられた時は初対面だし、敵かと思って村雨抜いたけどさ……バンのナンバープレートもウチので間違いないから、信じた」

『良かった……ああ、本当に良かった。無事なら良いんだ。よし、もうこの島に用はない。とっとと脱出しよう』

「ああ……父さんはまだ、山の中にいるんだよな?」

『すぐに合流する、そこで待っていろ。世理架に代われ』

漆紀が世理架にトランシーバーを返すと、世理架は宗一と話の続きを再開した。

「合流場所は佐渡奉行所跡で頼む。奉行所前の駐車場付近で停車してるんだ。この無線が終われば、また駐車場に停める。奉行所の位置は地図でわかるはずだ」

『そうだな。待っていろ、こうなれば早々に島を出たいからな。無線を終わるぞ』

そう言うと宗一の方から無線通信を終了した。

「さてと、わたしの方から注意事項なんだけど……次期司教さん、今すぐ着替えた方がいい」

「え?」

初対面に関わらずやたら友好的かつ物腰が柔らかい世理架の唐突な忠告に彩那は困惑する。

「漆紀君のお父さんはね、君達佐渡流竜理教の手から漆紀君を助け出しに来たんだよ。そして何より、完全に竜理教を敵視してる。だから、その竜の十字が縫われた修道服を着たままでは危険だよ」

「世理架さん、いくら父さんでも俺と一緒にいる竜蛇を撃つのは」

「彼なら撃つよ。宗一君はそういう男だ。女子供だろうが敵なら冷静に撃つし必要ならわざわざ近付いてから頭を撃って確実に敵の死亡を確認する。その修道服が目に入った瞬間、君が魔法を使う前に宗一君は君を撃つぞ……次期司教」

そう警告され漆紀と彩那、両者とも困惑するばかりであった。

「ほら早く! あと漆紀君は一度バンから出てって。着替え覗くんじゃないぞ」

「あ、はい」

世理架の捲し立てにそのまま乗せられ、漆紀はバンから一度降りて周囲を見張ることにした。村雨を抜き、万が一にもすぐさま戦える様に構える。

(世理架さんが思ってる父さんの人物像……俺の知ってる父さんとは明らかに違う。父さん、本当に昔はなにやってたんだ? 物騒な仕事をやってたのは聞いたけど、俺の想像以上に悪い仕事もしてたんだろうか)

あれこれ考えていると、運転席の窓が開いて世理架が声を掛けてきた。

「よし、彼女は着替えたよ。修道服はわたしの荷物に隠した。乗りな」

そう言われ漆紀は再び後部座席に乗る。彩那は修道服からジャージに着替えており、先程までの宗教関係者という印象が一気に減った。

その後、世理架が奉行所前の駐車場にバンを停める。

「さて、宗一君が来るまでの少ない時間で次期司教の事をなんて説明するか考えないとね」

「私……お邪魔、なんですよね」

「今更気にするな。それより漆紀君、君はうまい言い訳思い付かない?」

「んー……捕虜?」

「カルト扱いはされてるけど竜理教は反政府ゲリラとか軍隊じゃないぞ。捕虜なんかいない。漆紀君、もうちょっと賢くなろう」

少し厳しめに世理架から指摘されて漆紀は思い悩み始める。すると今度は彩那の方から案を上げる。

「私については……世理架さんの身内という事に出来ませんか?」

「わたしの身内? んー……漆紀君よ、宗一君はわたしの事情について何か知ってそうな素振りとかあったかい?」

「ないよ。あんたから魔法を教わったんだって話は最近聞いたけど……しばらく会ってないし、何をしているか知らないって言ってた」

漆紀がそう話すと、世理架は「うんうん」と頷いて好感触を見せる。

「よし、行けるぞ。次期司教、君の事はわたしの身内という事で話そう。設定はそうだな、姪っ子って事にしとこう。あ、まだ名前聞いてないね。司教だから竜蛇家なのは知ってるけどさ」

「彩那です」

「よし、彩那ちゃんだねぇ。君の事は姪っ子の新南部彩那ってコトで話を通すよ。わたしの方から君に対し佐渡まで渡って応援に来るようお願いした事にしておく」

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