30.遭遇、そして休息
漆紀と彩那は細く続く山道を懐中電灯頼りに下っていた。夜闇に包まれた山道をたった二人で降るというのは計り知れぬ不安が押し寄せる行動である。
もはや何時なのかもわからず、自分達がどれほど歩いたのかもわからなかった。
「あっ」
障害物など何もない足下に躓き彩那が転び掛けるが、気を張り詰めたままの漆紀がすぐさま反応して彩那の肩を掴んで支える。
「おい、しっかり歩いてくれ竜蛇!」
転倒を防ぐと、漆紀は彩那と肩を組み直す。
「は、い……」
「体力がもう無いのか、クソっ……あっ!?」
漆紀がふと、木々の合間に光を見た。それも一瞬ではなく恒常的に見える光。
「あれ、街灯だ。街灯だぞ竜蛇! 街だ! あの金髪と銀髪を避けて街に着いたんだ! よく見ろよほら!」
漆紀が彩那に前を見るよう促すと、彼女もその光を見る。
「あ……街っ……やっと……」
「あとちょっとだ、何なら俺が背負うから」
「お願い、します」
彩那は漆紀の言うがままに動き、漆紀の背に掴まり背負われる。
「よし、あとちょっとだ。任せろ」
二十分後、佐渡市西部の相川の街にて。
街灯といっても狭い道に建つ電柱に備え付けられたもので、それほど大きな明かりではなかった。漆紀と彩那はそんな静かで狭く細かい街並みを通り過ぎていき、坂道を下り続けると大きな建物を見つけた。
坂の終わりのそこには左右に道がある。その道からそのまま入れる大きな駐車場があり、見えた建物は和式の屋敷であり敷地は木の板による壁で囲われていた。
「竜蛇、ここは一体?」
「これは……佐渡奉行所跡ですよ。今では、観光資源です……もっと先に、海側に民宿があります。そこに、隠れて……」
彩那がそう言うと漆紀は深く頷き、再び歩を進め始める。
その途端、不意に駐車場に駐車してある一台のバンのライトが点き、駐車場から素早く出る。そして彩那を背負ったまま歩道を漆紀のすぐそばにバンが停車した。
運転席の窓が開くと、運転手の女が漆紀に対して声をかけてきた。
「君、辰上漆紀君だね」
「……いきなりなんだ?」
漆紀には油断も余裕もなかった。こんな夜遅い時間に車に乗ったまま自分に対して話しかけてきた不審者に向けて、すぐさま村雨を取り出して突き付ける。
「そう慌てるな。なんという僥倖か……わたしは宗一君の協力者だよ。ほら、バンのナンバープレートをよく見な」
「ん? あれ? えっ、そのナンバー俺ん家の!?」
漆紀は目を疑った。地域、番号、明らかに辰上一家で使っているバンのナンバープレートである。
「まだ信じられないかい、漆紀君。わたしは本当に君のお父さんの協力者だよ。なんなら、今ここで宗一君に無線連絡してみようか?」
「待て待て待ってくれ。いきなりなんだそれ? 状況の理解が追い付かないって」
「とにかく、二人とも疲れてるだろう。後部座席はかなり物が乗ってて狭いけど、なんとか乗ってくれ。シートベルトはしなくていいから」
「は、はあ」
辰上一家のバンである事に間違いはないため、漆紀はひとまず女を信用して彩那と共に狭くなった後部座席に乗る。




