間章3-2
伯母について。
「竜蛇、お前の伯母さん……あんなことをした理由に心当たりってないのか? 日頃から、不平不満がある様子は?」
「一切……一切、なかったんです。あんなに、伯母さんが……お母さんと、私に……恨みを、抱いてたなんて」
今まで目にしてきた貴子の姿と、母を殺した貴子の姿が全く重ならず同一人物とは思えないほどの豹変ぶりに彩那は困惑と胸の辺りに重圧を感じていた。
自分が司教になるまで、代理として佐渡流竜理教を背負ってくれていた。信頼出来る家族であった筈の伯母に裏切られ、母を目の前で殺された。心に深い傷を負うのは当然であるし、もし彩那が後日に精神科で診察を受ければ何らかの心の病を負っていると診断されてもおかしくない程のショックであるのだ。
「言葉通り、本当は恨んでたってのか……悪い、聞かない方がよかったな」
「……」
佐渡島の警察について。
「なあ、この島の警察ってどうなってんだよ。佐渡にも警察はいるだろ、なんで、島全体が佐渡流竜理教を中心に動いてるんだよ。どこまで竜理教の手が入ってるんだ?」
「この佐渡島内の警察は、本土となんら変わらず職務に励んでいますよ。島内で盗難や空き巣があれば臨場、捜査、いずれも通常の警察の通り行動します。ただ……佐渡流竜理教に対して非常に協力的になっています……私達の良き友人です。島内行事だけでなく、竜理教に対しては食ってかからないですし、何かあれば警察内部の情報も私達に流れます……島内警察のほとんどは、島内出身者で構成されますから」
それを聞き漆紀は酷く恐ろしい事実を聞いたなと心底思った。本土において警察は一種畏怖の対象であり、同時に嫌悪し憎まれる存在にもなっている。というのも警察は事件解決のためならば積極的に拳銃発砲するし、少しでも抵抗の意思があれば凶器を持っていると「想定」して「やむなく射殺」するのだ。
そうして詳しい捜査や裁判を極力減らして犯罪者を減らす。これが庶民からすれば恐ろしい存在であり頼りにくい治安維持組織である理由なのだ。
「俺の知ってる警察とまた違ったヤバさだな……竜蛇も、東京にいたならわかるだろ。本土の警察は……物騒だよな」
「はい。あれじゃ頼れないですし……地域共生なんてまるでない。あれでは間引きを行う農家のようで、ただただ人を裁き続けている……」
警察に対する意識については彩那も漆紀と同じ感想と価値観を持っていたようだ。
少し共通点を見出せて漆紀は心が和らぐが、それとは別に配慮を忘れるなと自身の緩んだ心を引き締めて新たな話題を振る。
魔法のことについて。
「さっきの魔法だけどよ。竜蛇、なにをしたんだ?」
「私は、地中にある竜脈や水脈……果ては温泉まで……引き出すコトができます。そういう、魔法なんです。生き物だけでなく……周囲の環境にも、影響を及ぼしてしまいます。良くも、悪くも…………これが、竜脈の巫女としての魔法です」
彩那がこれまで己が魔法を語らず見せなかったのは単に手の内を誰にも見せたくないというだけでなく、周囲の環境も鑑みた上であった。竜脈からは純粋な魔法の力を取り出せるとして、水脈や温泉に関しては有害物質も含んでいる可能性がある。それをみだりに地中から地上へと引き出してしまえば、環境破壊どころか周囲の建物、果ては生物にも悪影響なのだ。
「特に……水脈と、温泉は……当たりハズレが、あります。有害物質を含んだものが噴き出せば、人が大勢死にますし……塩害が発生し建物が腐食していきます」
その効果を聞いて、漆紀は息を飲んだ。彩那の魔法は漆紀の魔法と違って、使い勝手が悪すぎたのだ。使い方を工夫すれば敵対する人間や組織を一網打尽に出来るが、取り返しのつかない害を成してしまう可能性もある。
「それで竜蛇は魔法が使えなかったのか……」
「だから、私はお父さんを、助け……られなかったんです……っ!!」
互いに表情が一変した。唐突な暴露だが、もう漆紀は地雷を踏んだなどと彩那を厄介に思うまいと決めたのだ。そのまま、真相を聞いて受け止めようと言葉を繋ぐ。
「どういう事だ?」
「4年前、本家竜理教による襲撃がありました。その時、もう私は魔法を使えてたのに……自分の魔法で、お父さんが敵ごと死んじゃうかもしれないって……それで、私はお父さんを助けられませんでした。私は、陰に隠れてお父さんを……見殺しに、してしまったんです……っ!!」
落ち着いたはずの彩那は、再び涙声で過去の罪を漆紀に告白した。自分からまた心を乱したが、彩那はこれを機に心の曇りを全て晴らしたいのだ。
「許じでくだざいっ、許じてください竜王様ぁっ!! わだぢは……」
「許す許さないとか、他人の言葉で竜蛇は自分を納得させられるのか?」
「ぞれば……」
「結局、他人の許す許さないじゃなくて、自分で自分を許せるかどうかってヤツじゃないのか。俺も、俺自身の軽率な選択と行動で妹を瀕死に追いやっちまった。死んでないけど、死んでてもおかしくなかった。二度と同じ失敗をするもんか、って思ってる。許す許さないよりも、もう失敗しなようにって思った方がいい」
「うっぐっ……ぞ、ぞうです、か?」
「ああ。だから、結局自意識で自分のメンタルなんてどうとでもなる。支えは確かに要るだろうけど……ダメか、こんなんじゃ」
「いいえ。あの……まだ、わだぢが悪いと思っでまず。でも……もう同じ後悔しないように、頑張ります」
己のトラウマを他人に吐き出せることができ、彩那は少しだけ前を向いた。




