28.這う這うの体、暗路を行く二人
「今のは一体?」
黒い迷彩柄の衣服に身を包んだ平野小太郎は佐渡流竜理教総本山から続く、今は廃れた西アーケード街の坂道を物陰に隠れながら歩いてきた。
総本山の建物の中央庭園で彩那から鉄塊の首飾りを奪って漆紀に投げ渡してすぐさま姿を消した彼だが、その後は信者達を撒き彼らの目を掻い潜って脱出する必要があった。
佐渡流竜理教の総本山に本家竜理教の信者が唐突に攻め入ったのは予想外の出来事であったが、混乱に乗じて彼はアーケード街へと逃げて来た。
そうして進んでいると、漆紀と彩那の姿を30mほど先に捉えたのだが。
(辰上氏と竜蛇嬢、一体何をやったんでござる? 明らかに超常現象としか思えぬ現象の応酬に仲間割れ……そもそも辰上氏が竜蛇嬢と和解している? わからない、これは一体なにが起こっている?)
これには小太郎も首を傾げた。小太郎の疑問は視界にいる漆紀と彩那のことだけではない。先程の総本山での最初の襲撃者についても疑問であった。
最初の襲撃者が屋根から信者を次々に射殺。本家竜理教の者による攪乱戦術かとも思われたが、攪乱を起こした時間に対して、本家竜理教の信者達が総本山に攻め入った時間が遅いのだ。
(拙者以外に、単独でこの島で隠密行動をとっている者がいる? いや、それは後回し。今は、このまま辰上氏と竜蛇嬢の様子を見守りそのまま尾行。そもそもの目的は辰上氏と竜蛇嬢の所在の調査・及び安全の確保なのだから)
困惑した頭を整理し冷静さを取り戻すと、再び小太郎は息を潜めて夜闇に溶け込んだ。
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二十分ほど経過して、彩那の息遣いが元に戻った。
すでに彩那が発生させた地面からの噴水は止まり、漆紀は彩那の肩を支えてただ近くに居た。
「そろそろ移動するぞ。またさっきの金髪と銀髪が戻って来て俺を捕まえに来るかも」
「はい……」
落ち着いてはいるものの、母・香代子が死んだショックは当然残っておりすぐに立ち直るものではなく口数は少なかった。
「このまま坂降りてもさっきの奴らが登って来てるだろうしな……」
漆紀がどこへ逃げようか悩んで周囲を見渡す。丁度今立っている場所はアーケード街の交差路になっており、左と右はそのまま野外に繋がっている。
「整備されてないのはどうせ一緒だ。竜蛇、あっちに行くぞ。道わかるか?」
「左の……方なら」
そう言われて漆紀は彩那に肩を貸して支えてそのまま歩き始める。
「ほらこっちだ、しっかり歩いてくれ。肩は貸すから」
「はい……」
アーケード街から外れて、雑草だけでなく太い茎や樹木が所々生い茂る道が続く。
「ここは一応……時々人が行き来することがあります……だから、このまま道なりに」
彩那が枯れた低い声で弱々しく言うと、漆紀は「わかった」と答えて舗装すらされてない細い道を彩那と共に進む。懐中電灯で前方を照らし野生動物が居ないか、進路を塞ぐ障害物が無いか確認しながら進む。
「……」
「……」
それからはお互い無言で、話しても疲れるだけだった。二人の息と、野外の虫達の音と、どこかで鳴く種類も分からぬ鳥の鳴き声。
暗くありのままの自然の中、細い道をただ行く。まさに暗路。
「絶対、無事に街まで戻るぞ。竜蛇」
「はい……」




