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24.乱入する宗一、状況一転

「んぅ!?」

正気でない様子だった彩那は突如起こった異常事態に目の光を取り戻した。対して漆紀自身も眼前で起こる異常な事態に目を疑った。

彩那の手によってお互いの首筋を切り、血が溢れ流れるはずだった。実際双方ともに首筋から血液は確かに出ている。

では異常とはなにか。それは彩那の首筋から出る血が重力を無視して日本刀の刃を上り伝って漆紀の首筋へと運ばれていくことだ。彩那の血が、漆紀の首筋の切り傷に入って輸血されていく。

そして漆紀の首筋から出た血は日本刀の棟を伝って彩那の首筋の切り傷に運ばれていき輸血されていく。

「流血の儀は、竜王様の血だけが私に送られるはず。なのに……なんで!? あぁ、ぐううぅううう……!!」

突如彩那は日本刀を手放して苦悶しながら自身の首元を搔き始める。既に日本刀は手放したが、両者の血液は空気中を素早く流れて互いの首筋へと入り込んで行く。

「なんだこれ……俺はすこぶる元気な気分になってきた。すげえ、飛び跳ねたくなってきた! 動きてぇ」

漆紀は異常な状況にも関わらず不快感が取り払われ、得も知れぬ高揚感に包まれていた。

「司教様! しっかりしてください!」

「おい、医者呼べ!」

「竜王様も囲め!」

先程まで狂喜していた信者達も彩那の身に起こった異常に動揺してすぐさま動き出すが。

「うああぁあっ!!」

一人の信者が悲鳴を上げたと同時に銃声が聞こえた。信者はその場で倒れて、他の信者達は周囲を見渡す。

「何だ!?」

「誰か入り込んでるぞ!」

「照明点けろ!」

「だめだ、電源落ちてうぐッ!!」

また銃声が響くと、どこかで電源を確認していた信者が低いうめき声を上げて倒れた。

「今すぐ竜王様と司教様を囲め! 襲撃だ!」

「司教様、こちらにぎぃっ!?」

彩那に近付いた信者の一人が横腹をどこかから狙撃され倒れ、他の信者も素早く近付いて来るが次々に腹や脚を撃ち抜かれ倒れる。

「照らせ!!」

彩那の次に見事な刺繍の修道服を着た高位の信者がなんらかの魔法を行使した。その途端、大きな樹木の近くに青白い光球が形成されて辺り一帯を照らす。

「屋内?」

漆紀が明確になった周囲を見渡すと、大きな樹木の周辺は40m四方ほど露天が広がっており所々に植え込みも確認できる。しかし露天と表現したのは四方に縁側が見えるからであり、ここが大きな庭であると漆紀は把握できた。

「屋根だ、屋根に居る!!」

「撃て撃て!」

猟銃やクロスボウなど射撃武器を持った信者が屋根に見えた敵影を捕捉するなり、すぐさま狙い撃ち始める。銃声の応酬が始まり、そのうるささに漆紀は耳を塞ぎたくなるが、両手首を後ろに縛られているため騒音にうんざりする。

(混乱してるし今が逃げ出すチャンスだろうけど、どうすっかな……)

漆紀と彩那の身に起こった異常事態だが、既に互いの流血と輸血は止まっていた。それどころかムラサメの力も無しに漆紀と彩那の首筋の傷は塞がっていた。

悶えて地面をのたうち回っていた彩那もようやく平静を取り戻し、表情こそ苦悶のまま起き上がる。

逃げるべきかどうか悩んでいる漆紀に、逃走を促す声が屋根側から聞こえた。

「逃げろ漆紀!!」

聞き間違えるはずがない。銃声に紛れた一声だったが、漆紀には先程聞こえたムラサメの声以上に覚えのある声だった。

(父さんの声!? ここを突き止めたってのか……なら逃げるか!)

思えば、屋根側からする銃声にも聞き覚えがあったのだ。銃声は銃の種類や弾薬の種類によって音の高低や大きさが変わる。

「行か、せない……竜王様!!」

彩那が漆紀の眼前に立ち塞がり、逃走を阻止せんとする。

「今ここに居たら危ないだろ、お前も逃げたらどうだ!」

彩那は首を横に振るなり、懐から小さな拳銃を取り出して構える。

「私はあなたのもとに居るのが使命ですから」

「そのポケットの光ってるのはなんだよ」

よく見れば彩那の腰辺りのポケットから薄っすらと黄色い光が漏れている。

「あなたの例の首飾りですよ。私がずっと持ってます……最初からね。しかし光ってるのは一体……先程の流血の儀が……」

「おい竜蛇、それを俺に返してとっとと逃げろ。今ドンパチやってんだぞ、こんなところで喋ってらんねぇんだよ!」

「ダメです! 私は……」

彩那はポケットから鉄塊の首飾りを取り出し、漆紀に返すかどうか悩み始めるが。

「おい後ろ!!」

漆紀が彩那の背後を指差した。襲撃に遭っている最中ゆえに彩那は敵と思った。漆紀に拳銃を向けたまま空いている左手で儀式に使った日本刀を振るうも。

「誰ですあなたは!?」

全身を黒い迷彩柄の衣服に身を包み覆面をした人物が右腕で彩那の刀を受け止めると、素早く鉄塊の首飾りを奪い取って漆紀に向けて投げる。

「なんだぁっ!?」

思わぬ出来事に高い声を出しつつも漆紀は咄嗟に首飾りを受け取り、覆面の人物は無言のまま彩那から飛び退いて離れる。

刀を受け止めた腕からは一切の流血がない事から、分厚い鉄板か何かを袖の下に身に付けていると思われる。

「……」

覆面の男は身を翻すなり走り出し影に入って姿を見えにくくして即座に逃亡していく。

「なんですか今の……って、竜王様! 首飾り返してください!」

「嫌だ! ムラサメ!」

『本当に災難……逃げましょう』

漆紀の両手に霧が起こり、そこから村雨が姿を見せた。現れるなり刃は漆紀の方を向いており、両手首の縄を自力で斬れるようになっていた。

「っしゃあ! 竜蛇、お前も混乱に紛れて逃げろよ」

素早く縄を断ち切り、漆紀はすぐさま逃げ始める。

「ダメって言ってるじゃないですか!」

彩那が日本刀を構えて漆紀の進路を塞ぐが。

「あーもう面倒臭ぇ! じゃあお前も来い!」

漆紀が彩那の左手を掴むと、村雨から大量の水が噴き出した。水圧によって漆紀と彩那は一気に宙へと上昇し、屋根の高さまで上がると屋根に乗り移った。

「見ろ! 竜王様が逃げる!!」

「司教様も追え! 全員呼ぶんだ!」

信者達が漆紀を見るなり次々に屋根に向かって走ってくる。

「やべえ、逃げ……クソ!」

屋根から周囲を見渡すと、真っ暗な世界が広がっている。高位の信者による魔法で明るくなったのはあくまで庭だけであり、外は夜の世界が延々と広がり東西南北もわからない。

(どっちに逃げれば良いか分からねぇ。父さんの姿も見えねぇ、どうすれば……)

「逃げると言うなら、私が道案内します……暗くても勝手知る佐渡なら道がわかります」

状況を鑑みてか彩那も逃げる事に理解を示した様子である。

「ならとっとと逃げるぞ」

漆紀が促すと彩那は屋根を伝い走り出し先導を始めた。

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