23.流血の儀
午後7時。
漆紀はバケットに乗ってる最中に彩那の意図で再び目隠しを巻かれた。それ以降は彩那と信者達が連れるままに移動したため自分がどこに居るのか全くわからなくなってしまった。
(虫の音も聞こえないなんて。俺は今どこに連れられてるんだ?)
大竜脈へ行くのは聞いており、自分が佐渡の山を登っているのまでは把握していた。しかし目隠しをされて以降、山のどの位置に居るが全くわからない。
聞こえる音から何か探ろうとしても、聞こえるのは自分達の足音と信者達の囁き声。
「さて、ここなら届きます。竜王様の両腕を後ろに縛り直してください」
彩那の声がした。彼女の言葉通り、体格の良い信者達が漆紀の肩を抑えながら拘束を一度解くと、漆紀の手首を後ろに縛る。
「では竜王様、両膝を地面に着いてください」
「何をする気だ……虫の音も鳥の鳴き声も聞こえない、ここどこだよ」
「……」
彩那は沈黙し、漆紀は信者達に無理矢理膝を着かせられる。
「では目隠しを取って差し上げて」
信者が漆紀の目隠し布を外すと、漆紀は周囲の光景に悪い意味で息を呑んだ。
周囲には松明を持ったカルト信者が老若男女数十人いる。みな血走った眼をしており、口が裂けるのではと思う程大きく笑みを浮かべて歓声を上げ始めた。
「これより流血の儀を行う」
眼前には胸部に竜の十字が縫われている修道服を着る彩那がいる。だが、今までの彩那の表情ではなく、どこかで見た尋常ではない表情を浮かべていた。
(こいつ、船の時と同じに……正気じゃなくなってる!?)
既に空は真っ黒で夜だとわかるし、漆紀と少女の真横には大きな樹木があるため屋外なのは確かだ。
「ついにこの日が来た……!」
「奉るべき竜王……証明の刻!」
信者達の歓声をよそに、彩那は腰に差した日本刀をゆっくりと引き抜く。漆紀は今までで一番の危機を感じていた。この場に味方は誰一人おらず、現在地もわからないのだ。
ムラサメを呼ぼうにも鉄塊の首飾りを奪われており、呼ぶことが出来なかった。
目の前の彩那は漆紀より10cm低い位置までしゃがむ。彼女は漆紀と息が当たるほど顔を近づける。刀の切っ先側を漆紀に向けて、柄側が自分に向くように構える。その構えのまま刃をお互いの首筋に宛がい、漆紀は彩那の両腕に囲われる状態になる。
「やめろ、竜蛇! なんでこんな事をする!? 俺を殺す気なのかお前!」
漆紀は必死にそう訴えるしかなかった。
「逃げないでくださいね、私達の……私の竜王様」
彩那は首筋に宛がった刃を自分の方へと一気に引くと同時に、喜怒哀楽入り混じった並々ならぬ感情を込めて漆紀に口づけをした。
その時。
『だめ』
漆紀の脳に直接、聞き馴染んだムラサメの声が響いた。




