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22.ホットゾーン脱出、移動する宗一と世理架

「はぁ、はぁ……」

「随分と息切れしてるね。歳のせいかい?」

「うるさい、前見てしっかり運転……はぁ」

琴浦集落を脱出した宗一は、世理架と連絡を取り合流し、現在は車に乗って移動中である。世理架が運転し、宗一が助手席に乗っている。

「でも本家の魔法使いがわざわざ渡って来ているとはね。やはりこの島のどこかに……だが、その様子じゃ琴浦に君の息子は居なかったんだね」

「ああ。集落に元々居た住民が死んでるか大怪我って状態だった。にも関わらず本家竜理教の魔法使いどもは漆紀を捕らえていなかった」

「別の場所を当たるしかないか。しかしどこへ行く?」

「ちまちま小さい所を当たっている時間はない。こうなったら、総本山へ押し入って聞き出す方が早いだろう。総本山なら色々知ってるロクデナシどもがわんさか居るだろ」

宗一がそう言うと、世理架は呆れた様子でため息を吐く。

「総本山へ行くのか? そこまで運べない、竜理教の重要施設にわたしは近付きたくないぞ。何かの拍子にわたしが竜王だなんてバレたらマズい」

「わかってる。侵入ルートの目途はあるか?」

「そうだな……佐渡流竜理教には好景気時代に大竜脈に続く長大なアーケード街を作った。そのアーケード街は二つあり、片方は今も残っている。だが、もう片方はバブル崩壊の余波でとても設備維持ができなくなった。そのため植害や老朽化が一層進んで今では信者達は使わなくなっている」

「そのアーケード街を通っていこう。入口は?」

「島の西側……佐渡金山展示資料館なんかがある辺りだ。地図にマークしてある、これを」

世理架が運転片手間にサンバイザーを開けて裏側から1枚の地図を取り出して宗一に渡す。

「ここか。かなり長いアーケードみたいだが、車では……行けないんだな?」

「そうだよ。植害が酷いから雑草の枝とか茎とか生え放題。ちょっとした草原みたいになってる……坂道はなかなか辛いかもしれないね」

「歳はとったが、足腰は狩猟で健在だぞ。便利屋の害獣駆除なめるなよ」

「害獣って……便利屋ならせいぜいネズミ駆除じゃないのかい?」

「俺はそこらの便利屋とは違う。農家が求める大型の害獣駆除をやってる。おかげでジビエも食い放題だ。射撃のカンも鈍らずに済む」

それを聞くと世理架は溜息をつくものの「変わってないな」と呟いた。

「まだアーケードの入り口に着くまで時間がかかる。今のうちに装備の手入れをしたらどうだい?」

「ああ。後部座席に移るぞ」

宗一は座席を後部にスライドさせてシートベルトを外すと、助手席から後部座席へと移った。後部座席の広いスペースを利用し、銃の手入れを始める。

「ところで君の娘……大怪我してるって言ってたね。どうしたんだい?」

「ヤクザに銃撃された。喉をやられてな、今も入院中だ」

「ヤクザに? 何をどうすればヤクザに撃たれるように……」

「息子が運びの仕事で厄介なものを運んじまった。それで抗争になって、真紀も狙われた」

「なあ、本当に息子とは血が繋がってないんだよね?」

漆紀の身に起こった出来事に対し、世理架は過去の宗一同様のものを感じて思わずそう漏らしてしまう。

「ああ。遠い血筋ってわけでもない。遺伝0だ」

それを聞くと世理架は宗一の内心を深く覗くために強い質問を投げかける。

「君は息子をどう思ってるんだ。息子を助けたいからここにいるのか? それとも、それ以外の理由で息子を助けに来てるのか?」

「……何を聞きたいんだ。俺が漆紀を軽んじたとでも?」

「ああ。血が繋がってないしな。それになぜ、暴走族や暴力団との抗争の際には息子自身に戦わせたんだ。君なら一人で暴走族と暴力団のどちらとも壊滅レベルまで殺し回れるだろ」

「俺は漆紀に争いを学ばせたかった。いつかはこうやって、竜王絡みの件で竜理教や……他の魔法使いに狙われるようになるからな。漆紀をぞんざいに扱ってるわけじゃない」

「意外だな。育成のためとは……いやいや、ならわたしに一報くれれば良いものを。わざわざ暴走族と暴力団との実戦で学ばせなくてもいいだろう」

「実戦は必要だ。生身の人間と戦うことがいかに大変か、心構えと感情の波、大事な事だ」

宗一としては漆紀の身に来たる波乱の生涯を案じて、争いを経験させた。しかし世理架は実の息子でないからそこまで過酷な実戦までさせられるのだ、と疑っている。

「そうかい……だが、いずれはわたしの所で彼に竜王の力の御し方を教える事にはなる。その時はわたしに任せろ」

「その時はな。それまではまだ長いだろう……」

それからは1時間ほど沈黙し、西側から見える夕陽が佐渡の大地に鬱蒼とした暗い影をつける。

しかし二人の乗るバンは佐渡島の西海岸側の沿岸部を走り始め、夕陽を反射しオレンジに燃ゆる日本海が陰った佐渡の大地を含めて神々しく魅せる。

「俺も、長く生きたもんだ」

「なにを言ってる。まだ五十代だろう、まだ先は長い。わたしなど何歳だと思ってる?」

「百年近く生きてるだろ? ババアめ」

「これでも竜王の中では若い方だ! 中には江戸時代から生きてる竜王だっているのに」

「江戸時代だったかぁ? 最年長は一度も世代交代してない竜王が一人いなかったか」

「いずれにせよわたしじゃない。それより、もう少しで着くぞ」

「俺なぁ……稲黒を手放しちまった」

「わかってる。琴浦で落としたんだろう」

「16の頃から使ってた稲黒を失っちまった。あんなあっさりだ……俺ももう終わりだな」

宗一の顔のシワがより一層影が付き暗くなる。

「老いた老いたと口走るな、向かい風に当たる」

それ以降またしばし沈黙が続く。これ以上言えることはなかった。

「もうそろそろ着くぞ」

「俺も武器の手入れが終わった、良いぞ」

雑草やツタが伸びたアーケード跡前に到着すると、宗一は装備を身に付けそそくさと降りる。

「ここからは長いぞ。覚悟は出来てるんだね宗一君?」

「多分、ここからはより一層厳しい戦いになる。もう稲黒が手元にないから精霊術も使えない。さて、ここからは実銃だけでのウェスタンだ」

「どこで待ってれば良い。帰りは?」

「後で連絡する。帰りもここが良いが……まあ、状況による。必ず漆紀を連れて帰る」

それだけ言うと宗一は早歩きで雑草生い茂る暗いアーケードへと進んで行った。

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