21.アーケード、戦場跡
午後4時。
「長かった。さて、ここはど……なにこれ?」
漆紀は小型バスから降りると眼前に広がる大きく長い建物に唖然とする。建物と称したがそれは適切ではない。商店街などで見られるような大きなアーケードの通りが大竜脈に向かって延々と伸び続けていた。
「おい、まだ先まであるんじゃないのか。なんでここで降りるんだよ竜蛇」
車で移動しないのかと疑問をぶつけるが彩那は別段驚かずに答える。
「ここからはもう総本山です。緊急時以外、車は通しません」
「あと何kmあるんだよ」
「6kmほど……」
「6kmもこの通りが続くのかよ!? どうなってんだよこの島は……6kmも歩かせるなよ。しかも坂道だろうが」
佐渡流竜理教が根付く佐渡島と宗教施設そのものに呆れ返る漆紀だが、彩那は首を横に振る。
「誰が歩くと言いました? ここからは、あれで行きます」
彩那が指差したのはアーケードの右側に取り付けられた大きいバケットであった。
「あれがレールで上まで繋がってます。あのカゴで上まで行きます」
「あれで上に行けるのかよ」
「10人は乗れる設計になってます。さ、陽が暮れる前に行きましょう竜王様」
漆紀と彩那と信者4名がバケットに乗り、すぐさまバケットの電源を起動させる。バケットは動き始め、自転車よりも速い速度で坂道を上がっていく。
「なあ竜蛇。どうしても車じゃダメなのか?」
「このバケットでの移動で良いんです。この先、車道が通りづらくなるのでバケットで良いんです」
嫌なことを思い出したのか薄暗い表情を浮かべて彩那はそう答えた。信者達もやり場に困った様子で顔を背けた。
「なんだってんだよ、竜蛇。何があんだ」
「しばらくすればわかります……」
それから3分後、長いアーケード通りを上がり続けていると衝撃的光景を目にした。
「おい、天井崩れてるじゃねえか!」
アーケードのガラスだけでなく骨組みごと崩壊して大穴が空いている場所に出たのだ。それも老朽化や建設不良で壊れた様子ではなく、天井側の剥き出しになり錆びた鉄骨が放物線を描くように曲がっていた。
明らかに人為的な破壊行為によってもたらされたものである。
その廃墟の雰囲気を持つ空気は静寂ゆえか落ち着き、どこか歴史を感じさせた。
「この通り、こんな空洞がこの先いくつもあります。崩落した天井に、弾痕残るシャッター……竜王様、これが4年前の襲撃の跡地です」
「襲撃って……何があったんだよ。父さんから、お前ら竜理教が物騒なのは聞いてる。暴走族みたいに抗争もしてたってよ」
「抗争? そんな甘い表現じゃないですよ。あれは……4年前のあれは、もはや戦争でした」
その現場を見ていたのか、彩那はより一層陰のある表情を見せる。他の信者は目も当てられず落ち着かない様子だった。
「信者の皆々様も覚えているでしょう? 4年前、ここで」
「わかっております、わかっておりますとも司教様。辛い出来事です、無理に考えずとも」
信者達が彩那を静止させようと優しめに言うが、彩那は曇った表情のままだ。
「竜蛇、辛いならなんでこんな所を通るんだよ」
「……これしか、通れる道がないからです」
道はこれしかない。その言葉には彩那自身、自分の有り様と同じものを感じ心底嫌気が差していた。
「戦った痕がこんだけ残ってるのに、なんでこのバケットは壊れず平気なんだよ」
「これは襲撃後に作ったものです。4年前の事を忘れないために、信者全員で協力してこのレールとバケットを設置しました」
「臥薪嘗胆……ってヤツか?」
「竜王様は本当に国語が苦手なようで。それはやり返す前提での苦行に耐え忍ぶ四字熟語ですよ?」
「抗争はあっても、お前らから攻めてる事はないと?」
「ええ」
「そうだろうと、一般人からすりゃお前らカルト同士の戦争は傍迷惑だしどっちが攻めようが正しさなんて微塵も見えねえよ」
漆紀はあくまで竜理教には寄り添わない言葉をかけた。彼は竜理教の信者ではないし、ましてや竜王になる気は毛頭ないし、今でも隙を見て可能なら脱出したいと考えている。
「そうですか……」
以降は沈黙がただ続く。もう話せる事は無く、漆紀も彩那も信者達も、各々物思いやら内省をすることとなった。




