20.脳内シミュレーション、そして行動
午後3時、両津港にて。
キモオタに擬態した男・平野小太郎が佐渡に渡ってきた。
目的はただ一つ。クラスメイトである辰上漆紀と竜蛇彩那の捜索。
それでなぜピンポイントで佐渡へと渡ったかというと、小太郎はある一点だけを信じていたからだ。
竜蛇彩那が「佐渡流竜理教」であることと、その司教家であること。
ただそれだけだ。それだけで佐渡にまで足を運ぼうを考える小太郎の行動力はおかしいものだが、彼はまだ深刻には考えていない。
(むしろ拙者の考えが単なる杞憂であればいいのですがなぁ。それならそれで、佐渡をちょと観光して帰ればヨシ)
そう楽観しつつも小太郎はリュックと腰巻バッグを身に付けたまま港町を歩いていく。
(まずどこから情報を収集しようものか。手っ取り早く大佐渡山脈にある佐渡流竜理教総本山へと潜入するのが良いのかもしれないですな)
そう片づけると、小太郎は次に交通手段を考える。
(これ以上公共交通手段を待っている時間はない。ならば、今すぐ車両を盗むか……義を成すために罪を重ねるとは。我が家はいつになったらご先祖の贖罪が終わるんだか)
佐渡の両津港周辺の港町は建物が多くいわゆる繁華街となっている。路上停車や路上駐車したままの車両はそれなりにある。
(問題はどれをピッキングするか。エンジンキーがあるタイプでなければ)
小太郎は運転免許を持っていないが、運転経験だけはある。無免許運転をバレなようにやって練習を重ねていたのだ。
問題は運転技術というより、車両そのものである。佐渡に来る際は電車での移動であったため車両は持ち合わせていない。
(原付があるが……遅い、万が一逃げる時にあれではな。あのバイクは……普通自動二輪だがそれなりに馬力がありそうだ)
路上駐車してあるバイクへと近付くが、鍵穴が見当たらない。
(案の定、スマートキーか! 直接差し込むエンジンキータイプがないと)
しばし5分ほど周囲のコインパーキングや路上停車や路上駐車のバイクを吟味すると。
(あれはどうだ?)
少し古いモデルのバイクで、それを見た小太郎の第一印象は「ヒーローが乗ってそう」という感覚だった。バイクのフレームは分厚く、しかしスタイリッシュで誰でも「かっこいい」と思う造形だった。
(見た目いいですなぁ。黒色というのもヨシ、なかなかのマシン……あとはうるさすぎないバイクなら……コイツを盗るか)
小太郎が周囲を見渡し誰かに見られていないか確認する。通行人は居るが、自分には目を向けていないし、視線は違う方へと向いていた。それを確認すると小太郎はそそくさとピッキングを始めた。さほど時間をかけずに開錠し、すぐさまバイクに乗りエンジンを点ける。
(暴走族みたいなうるささではない、これなら問題なし。よし、早々に乗って立ち去ろう)
佐渡流竜理教総本山のある大佐渡山脈方面へ向かうべくバイクを発車した瞬間。
「おい、俺のバイクじゃねえか!」
思わず振り返る。あろうことかバイクの持ち主に見られてしまった。だがそれだけではない。
「お前ら追うぞ!」
「捕まえてオリに送るぞ!」
「武器持ってこい!」
持ち主の仲間と思われる者達が路上駐車していた車やバイクに乗りはじめる。いずれも佐渡流竜理教の信者のものだからか、竜や魚のステッカーなどの装飾が付いていた。
「クソ、地元民か!!」
一気にバイクを加速させて小太郎は港町からの脱出を始める。
(あいつらここの連中か。だとしたら佐渡流竜理教でござるな! しかもかなり好戦的な……いわゆる自警団、実働部隊に当たる連中と見るのが妥当ですな。警察はなにやってんだか)
「逃がすな!」
「ざけんな本土民がぁあああ!」
怒号を上げながらバイクと軽トラ集団が追って来る。ミラーで確認できる限り後方を確認すると、軽トラ2台、バイクが4台で追って来ている。
(この先を曲がれば国道350か!)
交差点が近くなると速度を落としつつバイクを傾け、出来るだけ速く曲がった。
(あとは真っ直ぐ国道を道なりに進めば……)
そう思ったのも束の間、前方からも後方と同様に佐渡流竜理教の意匠がある軽トラが、40mほど先の交差点を塞いだ。
「後ろとは別のか!」
挟み撃ちである。これをハリウッド映画みたく避けれるほどのバイク技術は小太郎にはない。
よって、小太郎は上陸早々安易で大雑把な方法をとったことで詰んだ。
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(うん、こうなるな。車両盗るのはなしですな。そもそも盗るのはご先祖の罪を繰り返すだけではないか)
両津港の駐車場で小太郎は一通りのイメージトレーニングをしてそう呟く。
(忍びの一族らしく忍ばねば。さて、手っ取り早いのは佐渡流竜理教信者になり切ること。親父殿からは佐渡では信者であれば誰からでも足を借りられるそうな。ならば、どうやって信者になり切るか)
小太郎の荷物に佐渡流竜理教の宗教衣装はない。というより、そういったものは市販で売っているものではない。
(とはいえ、信者の皆さんは普段からずっと正装なわけではないですしなぁ。なら口八丁でいけるかもしれませんな)
そう決めると早速周囲を見渡して自分を総本山まで連れて行ってくれそうな人を探す。
(さて、人当たりの良さそうな男性を見つけましたな。まずあの人に頼みましょうか)
自身の観察眼を信じ、小太郎は声をかけてみた。




