18.交戦、佐渡流竜理教の実戦部隊
同刻、琴浦にて。
「ダメですねぇ。上陸早々、首尾は下々……どの方も竜王様の所在を言えぬとは。ここは特別口が堅く信仰も強い信者が多いようですねぇ」
本家竜理教の魔法使いである宮田とネルは琴浦の住民から竜王の所在を聞き出そうとしていた。そのなりゆきで琴浦の住人、つまり佐渡流竜理教の信者と戦いとなった。
琴浦の住人が宮田とネルの問いかけに対してすぐさま拳を振るってきたのだ。それをきっかけに住人達が次々に武器を手に家から出て来るなり、血走った眼で宮田とネルに襲い掛かったのだ。
宮田とネルは応戦し、住民達を殺害。一部息のある住民もあるが応急処置も行ってないためそう長くはない。
「宮田先生、こんなに事を荒立てて良かったんですか? こんな何十人も傷めつけて聞き出すのは危ないのでは……」
「拙僧らが問いかけた結果、本家だ本家だと騒がれましたからねぇ。かなり情報網と本家を見抜く情報共有が徹底されてますねぇ。ま、なりゆきというものですね。それに、我々が佐渡の者に行うのは全て征伐ですよ? 彼らは我々の教義と異なる癖に竜理教を名乗っている。これほどの侮辱はないでしょう」
「宮田先生、時々大雑把な時ありますよね。征伐ですか………」
ネルは敬愛する師の柔軟かつ前向きな考え方に相槌を打つが、当の宮田は表情を曇らせ始める。
「宮田先生?」
「誰かが聞き耳を立てているようですねえ。しかし随分と息が上がっておられる様子で」
「て、敵ですか!?」
ネルが身構えて周囲を見渡すが、宮田は「慌てない」と注意喚起しつつもネルの手を引いて路上駐車されている車の陰に隠れる。
「向こうから息遣いが聞こえましたからねぇ。こういう時は、まず物陰にかくれるのが最優先ですよネル。いいですね?」
「私には息遣いとか聞こえないですけど」
「拙僧は犬の化石も持って来たのでねえ。聴覚や嗅覚の強化ですよネル」
宮田とネルは本家竜理教の魔法使いである。化石を通して魔法を使うのが、竜理教の基本的な魔法スタイルなのである。
「ん~……宮田先生、それなら敵はどこなんですか?」
「坂を上った先、あの赤い屋根の家の陰に居ますね。高所に陣取るのは戦術の基本ですよ」
「よし、ではまず牽制に」
ネルが魔法を行使しようと思い立った瞬間、青白い閃光が自動車に向かって迸りミラーにぶつかった。
衝撃でミラーが吹き飛び、地面に落ちるなり坂を転がっていく。
「宮田先生、あのミラー表面が黒焦げに……」
ネルが言い終えた瞬間に、爆発音が周囲一帯に響き渡った。
「うわぁ!? なんですか今の!」
「声を抑えなさいネル。ミラーを落とした攻撃……あれは当たったら人体が灰になるか全身発火で大火傷ってところですかねぇ」
冷静に宮田はそう分析するが、ふと宮田は首を傾げる。
「おかしいですね、敵の息遣いが遠ざかった……移動していますね」
「い、移動ですか?」
「我々も動きましょう、ここに留まるのは危険です」
宮田が先導して路地へと入っていく。ネルは敵の位置が全くわからず心の落ち着きがどうにも得れなかった。
「かなり離れましたが、安心はできません。ネル、あなたは近距離で真価を発揮する魔法使いですよ。こういう場合はどうします?」
「逃げます、相性が悪いです。宮田先生にとっても相性が悪いかと」
「そうですねぇ。こういう手合いは戦えませんねぇ。逃げましょう」
宮田とネルは路地を進んでそのまま琴浦から逃げようとするが、家屋の屋根が青白い閃光がぶつかった衝撃で崩れ落ち、前方の路地が塞がれてしまう。
「先生、退路が!?」
「慌てない。よく周囲を見なさい。敵はどうやら狙ってやってるわけではないようですよ」
琴浦集落の各地から瓦屋根や建物ごと崩れる豪快な崩壊音と落雷の如き爆発音が聞こえてくる。
「無作為に撃ってますね、先生」
「そうです。無作為に家の屋根を撃ち退路を塞いでいますねぇ。そして道に出ようものなら我々は狙い撃ちされます。困ったものですねぇ」
「感心してる場合じゃないですよ! どうするんですか先生!?」
(あまりに大胆すぎる手段……大きすぎる損害賠償や人的被害を考えると、並の人間では怖くてここまで出来ないはずですが……まさか相手は、大抗争時代に戦ってた人間ですかねぇ? だとしたら厄介極まりない。なんでもやって来る掟破りが相手では、分が悪すぎます)
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琴浦集落の高台にて。
琴浦集落は小さい集落だが、この地域の小高い場所の茂みに宗一は隠れていた。高所の茂みから宮田とネルへ一方的な攻撃を加えていく。
(どうだ?)
さて、息子を奪還すべく佐渡島にやって来た辰上宗一は竜理教信者の宮田とネルを琴浦にて発見した。
そもそも宮田とネルを本家竜理教の人間だと断定した理由は何故か。
宗一は最初様子を伺っていたが、周囲に倒れる現地住民に対し救急車を呼ぶわけでもなく立ち話をする私服姿の宮田とネルが異様に見えた。
そこから導き出される答えは、彼らが佐渡流竜理教の敵対勢力であること。すなわち、本家竜理教の人間であると宗一は結論付けた。
(これだけ屋根を壊しても炙り出せないとはな。道にも出ない……仕方ない、接近するか)
宗一が愛銃・稲黒の銃口を下げようとするが。
「んっ!?」
集落から人影の動きが見え、すぐさま宗一は再び稲黒を構えてスコープを覗き込む。
本家竜理教の男が両手を上げて道路に出て来たのだ。
(投降する気か……それか俺の居場所を突き止めるためだけに投降するフリか……フリだな。奴ら竜理教は諦めが悪いクソ野郎どもだ)
そう心中でゴキブリ駆除でもするかの様な思いを抱くと、宗一は沈黙を続けた。
「降参しますよ、撃たないでください。我々はもう帰ります、あなたとは戦いません。邪魔もしません」
宮田は敵意がない事を訴えかけるが、宗一は溜息を吐いて呆れ返る。
(降参なら相方の女の方も両手を上げて出るべきだろ。完全に俺の居場所を掴もうとしてるのバレバレだ。よし、移動して別の角度から撃って殺すか。んで、女の方を捕まえて情報を吐かせるのがベストだな)
宗一が移動しようと思い、しゃがんだ姿勢のままゆっくりと移動を始めたが。
「んッ!?」
背後から僅かに足音が聞こえ、宗一は斜めに身を反らしつつ振り向く。
「このッ!!」
宗一が懸念していたもう片方の敵、ネルが宗一の背後から襲い掛かってきたのだ。
しかし宗一とネルの距離はまだ5mほどあり、宗一は不可解だと感じた。
ネルの両手には何の得物もなく、彼女は右手を開いたまま宗一に向けて振るっているだけだ。
とはいえ油断はなく、宗一は寸分の躊躇もなく猟銃をネルに向けようと動くが。
「ぐっ!? なんだ、これは!!」
宗一の猟銃が見えない「何か」に掴まれたのだ。ネル本人が直接猟銃を掴んだわけではない。猟銃を持っているのはあくまで宗一自身の手だ。
「ダイノニクェス!」
ネルの一声と共に、宗一の握る稲黒は大きな力で無理矢理地べたに叩き落とされた。それだけに留まらず、猟銃を叩き落とした何かの力は宗一を後ろへと押し飛ばした。
「うぐあぁあああ!!」
高台からそのまま体勢を崩し、近くの家屋の屋根に落ちて背を打ってしまう。幸い高台と家屋の高低差は2m程度だったため、骨が折れた時の感覚は一切なかった。
(骨は無事、とにかく離れねば!)
宗一が背にじんじんと広がる鈍い痛みに耐えて立ち上がり、真横に飛び退いてネルからの攻撃を避ける。
(俺の愛銃が……クソ!)
ネルも屋根に飛び移って来て、宗一を早く倒さんと息巻いている。
「おい待てガキ。お前佐渡流竜理教信者じゃないんだろ。だったら俺とは敵じゃない、お互い退かないか?」
いかにして宗一の居場所を突き止めたのか気になるが、その疑問を押し殺して宗一はダメ元で本題を問い質す。
「愚問……あなたこそ投降してください。銃より、私のダイノニクェスの方が速い」
「お前らの目的は……まあ、竜王だろうな。察しが付く」
「なっ!? 竜王様の所在を知っているのですか。なら話して下さい!」
「さて、どうしてやろうかなぁ……お前達は竜王の所在を知らなそうだな」
宗一がそう見切りを付けると、腰に入れた拳銃に手をかけるが。
「やめておいた方が良いと思いますよ? もう2対1ですからねぇ」
宮田が宗一の5m後方に立っていたのだ。
「どうやって上がってきた? それに、このガキはどうやって俺の居場所を……」
「それは言えませんねぇ。ただ、拙僧が屋根に上ったのは単に手前の腕力です。掴める所を掴んで登ったまで」
「そうか。お前ら竜理教の魔法使いだろう? ガキ、さっきのお前のダイノなんとかも竜魔法だろう?」
「先生、コイツ竜魔法を!」
「落ち着きなさいネル。あなたは冷静なようでこういう時に落ち着きがない」
ネルに欠点を指摘して自覚と学習を促しつつも、宮田は宗一へと向き直す。
「竜魔法を知っているようですが、我々竜理教信者というわけではない……あなた、何者です?」
「俺の質問に応えろ、俺には時間がない。お前らも時間がないだろ、そのうち佐渡流竜理教の実戦部隊が異常に気付いてこっちに来る」
本家竜理教が宮田やネルのような魔法使いの実戦部隊を持っていると同様に、佐渡流竜理教にも非常時の実戦部隊がある。
とはいえ佐渡流竜理教は魔法使いの数は少なく、魔法使いの人数は本家竜理教が圧倒的に勝る。では佐渡流竜理教の実戦部隊とはどのように構成されているのか。
「あなたに質問の権限があるとでも?」
宮田がそう返した時、宗一が何かを答える間もなく異常が起こった。宮田の足元辺りの屋根に何か小さいものが「パキっ」と音を立てて当たった。
音のした屋根の部分を見ると、そこは円形の痕を中心に亀裂が入っていた。
「銃撃っ!? 宮田先生!」
先程屋根にぶつかったのは銃弾であり、琴浦集落にかけつけた佐渡流竜理教信者が狙撃したのだろう。最初の一発を皮切りに二発、三発と次々に屋根に居る三人に向けて銃弾が放たれる。
「一度退きますよネル。物量は彼らが上です」
宮田がそう言って屋根から降りると、ネルも潔く宗一の事を諦めて宮田の指示通り撤退に移る。
(発砲音が聞こえなかった。エアライフルか? それか消音器)
そう思考しつつ宗一は拳銃を引き抜いてすぐさま屋根の低い位置の端にぶら下がってから地上へと着地する。
「追え、逃がすな! 家族を殺した連中だ、絶対に逃がすな!」
琴浦集落の高台、その茂みの方から佐渡流竜理教の信者達が怒号をこちらに向けて放って来る。
(あの銀髪染めとツレのガキは無視だ。実戦部隊をどう切り抜けるか……)
集落の建物の陰に隠れつつ宗一は佐渡流竜理教の実戦部隊の様子を伺う。
(さっき俺が家屋を壊しまくったから、隠れられる物陰が減ってる。クソ、屋根から降りてはまずかったか。高所確保は戦闘の基本だろうに……歳か? カンが鈍ったのか?)
宗一は少なからず自分の老いを感じてしまい嫌気が差すが、一憂に暮れる時間も余裕もない。
(いや、佐渡の実戦部隊は屋根よりも高い……集落の高台の茂みに居る。屋根の上は遮蔽物がないから危険だ。これで良い)
そう結論づけるが、問題解決したわけではない。実戦部隊は高台から狙撃してくるだけではなく、琴浦集落へと直接下って来る者も居るだろう。
(といっても、佐渡流竜理教は宗教団体だ。全員が自衛隊や警察官経験者じゃない、ほとんどは一般人だ。訓練されまくった米兵とか特殊部隊と戦うワケじゃないんだ、練度と射撃精度は低い)
「どこだぁー! 今すぐ両手を上げて出てこい! そうすれば撃たないぞ!!」
怒気混じり故に言葉に一切の信頼性と信憑性がなく、宗一は迎撃すると決めた。
(戦う事はできる。いくつかの家屋の屋根を壊したが、それでもこの集落は一塊になっているから路地が入り組んでる……ちょっとした迷路、良いフィールドだ。ゲリラ戦を仕掛けるには充分だ)
腹が定まると、宗一は迷わず冷静に行動を始めた。




