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ガンギマリズム2 竜脈の巫女  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「佐渡流竜理教」
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1.新学期の始まり

4月8日、朝。

新学期が始まり、少年少女学徒の者らは喜怒哀楽様々な表情を見せて通学路を往く。

その中には、決して明るいとは言えぬ薄暗い真顔で歩く辰上漆紀(たつがみ ななき)が居た。黒い制服姿の彼は、通学路を黙々と歩き学校の校門前まで着く。

武蔵多摩高等学校。それが漆紀の通う高校の名前であった。東京都立川市西部の多摩川に近い位置にある高校で、東京都内の数多ある高校の中でギリギリ進学校と呼べるレベルに入っている。酷い言い方をすると生徒と教員など学校全体をひっくるめて、凡人と不良の境界線を反復横跳びしているおかしな空気感とテンションの学校なのだ。

そんな高校ゆえか、当の生徒からは「なんちゃって進学校」などとも揶揄されている。

昇降口から校内に入り、教室へと向かう。厳密に言えば新学期は既に一昨日から始まっており、漆紀は新たな教室の割り振りに慣れつつあった。

教室に入ると朝の部活動で人が出払っていて少なく、文化部に属する者しか教室には居なかった。春休み中に何度も手を借りた下田七海の姿を探すが、教室にはいない。

(下田は運動部だったな……何部だっけ? 陸上だったか、バレーだったか……他人の部活動まで覚えてねぇな)

そんなもんである。

周囲を見渡すと、ふとある一人が目に入る。春休み中に漆紀を大きく助けた者の一人が教室に居た。

「お、平野。おはよう」

「おお、実に会うのは久しいでござるな辰上氏」

平野小太郎(ひらの こたろう)、ICCきっての情報役であり、丸眼鏡をかけた自他ともに認めるキモオタであり、萩原組について漆紀へアレコレ情報を教えた男である。

「相変わらずキモオタ口調で安心したぜ。目が覚めた」

「いやー朝からそちらこそ辛辣ですなぁ。ま、キモ―ニングコールは拙者に任せとけ!」

いにしえのオタクの口調を恥もせず堂々と話す平野を見るたび「それはそれで立派だ」と漆紀はしみじみ思う。

「ところで辰上氏、春休み中は随分大変な目に遭ったようですな、まあ気に病まず。拙者も春休み中に秘蔵のエイチなフィギュアを」

「あー、その辺にしとけキモすぎだ。さすがに朝から下を話すな」

「これは失敬。さて、拙者は今日の授業範囲の対策があるので挨拶はこれにて」

(こいつはこいつで、どこまでもキモオタな自分に振り切ってて良いよな……)

そんな事を思いながら、漆紀は自分の席に座って机にカバンを置く。

(太田は……死んじまったんだもんな。俺が巻き込んで……萩原組の組長や若頭を殺して、他の組員も大勢殺して、組は崩壊するだろう。俺はこれで、太田の命に報いれたんだろうか?)

太田介助はもういない。教室が違うでもなく、亡くなったが為に、クラス分けの名簿からも名前を消された。

(他の連中は、太田が死んだのは知らないみたいだな)

介助について、学校から説明はなかった。学校が一切関わっていない所で勝手に亡くなったため、同級生の精神衛生も鑑みたのか、学校側は介助がどうなったかを一切話していない。

だが、学校が介助の死について一切取り扱わない理由はもっと別にある。

それは、生徒達の年間での死亡率の高さだ。それは武蔵多摩高校が殺伐としていて死にやすいというワケではない。この世界の日本では全国的に見て、1校あたりの年間死者数は平均20人である。1校の高校生の人数は平均1000人程度のため、1年間で1校の生徒は2%死に消える。

一人一人にお別れの会を行う場合は別だ。学校でのお別れの会と言っても、存外細かい経費がかさむ。そして武蔵多摩高校は公立のため、私立校のように学校側が自由に使える資金は潤沢とは言い難い。

ゆえに、学校はお別れの会などやらない。生徒が一人死ぬ度にお別れの会をやっていては経費がかさむばかりで、年度の予算が危うい。

(でもまあ、死んだって直球にお知らせされちまったら、気持ち悪い空気になるしな。何の知らせもなく、生きてるけど引っ越したんじゃね? なんて説が出る程度に留めりゃ、空気は悪くならないか)

漆紀は介助が言っていた言葉が頭から離れずにいた。

(あいつが嫌ってた状況には、なってなくてよかった。俺はちゃんとやりきったんだ)

_____________________


昼休みのこと。高校2年生になった漆紀は、新学期開始から間もなく6時限目まである授業の日々が始まった。

昼休みには普段の高校の風景が見られ、殺伐とした春休みを過ごした漆紀には天国にも思える世界が広がっている。

昼休みゆえか各教室のスピーカーからは放送委員が生徒の要望に応えて音楽を流し、各自弁当を持参する者や近くのコンビニで買った昼食を食べる者、校内にあるパン売店でパンを買った者も居た。

かく言う漆紀は弁当を持参していた。朝起きて適当に残り物の野菜と肉を炒めたものと、白米を詰めたシンプルなものである。

教室の自分の席で黙々と食べる漆紀だが、そこに横槍が入る。

「辰上ぃ、今日も布教にきたぞーい!」

布教、などと宗教めいた事を漆紀に言ったのは悪い意味で前髪がざんばら髪な男子であった。漆紀と同じくICC(陰キャコミュニティー)に属するこの男の名は。

「飽きねぇなあ烏丸。まーた、クソを持って来やがって」

男の名は烏丸蒼白からすま そうはく。恐らくはゲーマーの部類に入るほどゲームをやっている人間だが、そのジャンルがあまりに破滅的であったのだ。

彼はいわゆるクソゲーと呼ばれる理不尽且つつまらない、娯楽ではなく苦痛と呼ぶに値するゲームをわざわざ収集して遊ぶ事をしていた。

「布教だよ布教。新学期だし宣伝くらいしてもいいだろうが」

「よくねーよ。何が楽しくてクソゲーやるんだよお前は……」

「マウント取るのと、リアル実績の為に決まってんだろ。何言ってんだオメェ? さあ、お前もクソゲーになるんだよ!」

「人をクソゲーにするな」

「あー忘れるとこだった。辰上ぃ、確かキューブ全面揃えるとか抜かしてたよなぁ? あれどうなった?」

「飽きた」

「即答かよ! なんだよ、そこは渋るとこだろお前ぇ!」

漆紀と蒼白がそうこう話していると、教室全体に対して強烈な横槍が入った。

「みっなさあぁぁーん!! 主らの説教のお時間ですよおぉぉーおお!!」

教室の戸を盛大に開きつつそう言ったのは、修道服を着た女子生徒であった。しかし、彼女はキリスト教徒ではない。修道服の様式はキリスト教に似ているが、決定的に違うのは意匠である。

修道服の胸部には大きな十字の刺繍がされていた。しかしキリスト教ではないと断言できるのは、その十字が竜で成されているからだ。それに加え、その女子生徒はなまじスタイルが良く容姿が優れ、豊満な胸板によって竜の十字が強調される。こういうシンプルにスタイルが良すぎる女性は、カルト宗教勧誘では重宝される。

「うわー、モノホンの布教活動家が来ちまったよ」

蒼白は冗談めいて茶化すが、漆紀はため息を吐いた。

「アレ、名前なんだっけ?」

カルト宗教に類する竜理教の女子生徒を見て、漆紀が蒼白に尋ねるが。

「あれは竜蛇彩那たつへび あやなさんですな、辰上氏」

割って出て答えたのは今朝話した小太郎であった。

「うげ、キモオタ平野だぁ……」

蒼白がわざとらしくリアクションすると、小太郎は竜理教の説教を始めた彩那に負けず劣らぬ饒舌を発揮し始める。

「ちなみに彼女の洗礼名は青竜(せいりゅう)ですな、んで拙者の観察眼からすれば、あの背丈と姿勢からすれば……ハァハァ、ば、バストはH、ヒップは70cm代後半でしょうなはぁはぁ」

変態だ。

「き、キモすぎっ……笑えねぇ」

蒼白は名は体を表すと言わんばかりに顔面が蒼白になり、漆紀はあまりに慣れた光景である。どこから小太郎が様々な情報を手に入れるのか漆紀は想像つかないが、小太郎の変態眼には呆れざるを得なかった。

「お、相変わらずキモオタ発揮してんなぁ平野!」

久しぶりに小太郎のキモオタムーブを見たのか七海が更なる横槍を入れて会話に入って来る。

「お、おお下田嬢。久しく……おお」

「ナチュラルにアタシのカラダ見てスタイル予想するな、アタシにまでキモオタ発揮するな」

「おお、失敬失敬。それより……毎度毎度勧誘とは本当に飽きませぬなぁ、竜蛇嬢は」

小太郎が急に尤もな指摘をするが、事実その意見には漆紀も蒼白も七海も頷く。

「であるから、佐渡流竜理は罪の中に金たる竜脈を見い出したのです」

一通り説教を終えたのか、ノルマ達成の実感を得るなり竜蛇彩那は教室から立ち去ろうとするが。

「あっ……」

彩那が立ち去る様子を眺めていた漆紀だったが、偶然彩那と目が合ってしまった。彩那は何を思ったのか、頬を少し上げて妖しげに笑みを見せた。

「あいつもよく飽きねぇよなぁ。アイツの説教から竜理教に入るヤツなんか居ねぇのに」

蒼白が呆れた様子でそう零すと、七海が何か思い付いた様子で「あっ」と一言漏らす。

「どうした下田?」

「アタシ思い付いたんだけどさ、もしもさ……冷やかしで入信するとか言ったらどうなるんだろ……冷やかしたくない? 冷やかしたくない?」

「下田嬢、それはやめなされ。冷やかしと口で言おうと、竜理教は入信の言葉を聞けばしつこく追及するものですぞ」

冷やかしチキンレースを開始しようと画策した七海だが、これは小太郎の尤もな諫言により阻止される。竜理教の話題になり、漆紀はふと思った事を口にする。

「竜理教ねぇ……思えば、俺らって竜理教が実際どうヤバいかあんまり知らないな。社会の授業じゃヤバい集団だってのは習ったけど、具体的にどれだけ犯罪行為に走ってるとか知らないよな」

「最近はメディアが取り上げる程の一大事を起こしてませぬからなぁ、竜理教」

「それそれ。アタシもテレビ見てるけど、最近は精々ヤクザがどうこうばっかりだ。あとは、学徒会で時々デカい学生運動やってるってーニュースくらい?」

その後は各々、取るに足らぬ思いを駄弁るのみであった。しかし、クラスどころかICCのメンバー間においても、太田介助の話題は一向に上がらなかった。

漆紀は今亡き介助の想いを尊重したい。死んだとしても最初から居なかったかの様には扱わないでくれ、それが介助が漆紀へ吐露した心境であったのだ。

(今日は切り出せなかったけど、放課後に他のICCの皆も集めて話そう……俺がやった事は隠すけど、太田が死んだことだけは言わなきゃ)

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