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16.宗一の尋問

午前11時頃、佐渡島南西部の吉岡にて。

『そろそろ目的地に着いたかい?』

無線機からは世理架の声がわずかにノイズ混じりに聞こえるが、発音や声の高低は確かに聞き取れるため支障はない。

宗一の視界には周囲一帯のなだらかな棚田と一軒の寺が映った。

「ああ。GPSの反応がある、明らかにここだ。寺のようだが、おそらくは佐渡流竜理教の寺院の一つだろう。尋ねてみる」

宗一は無線通信を終了すると寺の本堂ではなく、住職などが住まう庫裏へと歩を進める。

(まずはごく普通にインターホンを鳴らして様子を確かめるか)

庫裏のインターホンを鳴らすと屋内から「はい今行きまーす」と返事が聞こえ、ものの数秒で四十代ほどの僧侶の男が玄関を開けて顔を見せた。

「どなたか知りませんが用件を聞きましょう、さあ上がって下さい」

普通ならどういった用件で訪問しインターホンまで鳴らしたのか聞くものだが、この僧侶は用件すら後回しにして「上がれ」と言うのだ。

(怪しさ満点。ま、乗ってみるか)

宗一は敢えて僧侶の言う通りにそのまま玄関から上がって僧侶の後に付いて廊下を歩く。

(この建物自体に怪しい点は一切なし。さてさて、どう出て来る……)

居間に案内され、そこにはちゃぶ台があった。座布団に畳といったいかにもお寺らしい和室である。

「ここでお座りになってください、お茶を持って来ますね」

「どうも」

僧侶の男が宗一にそう言って、居間からそそくさと出て行く。

(こりゃなんか一服盛るなり凶器を取りに行ってる可能性も考慮だな)

宗一は最悪の場合そうなることまで打算すると、もう一度スマホを取り出して漆紀のスマホのGPS情報を見る。

(この建物の……北側の部分か)

宗一がそれだけ頭に入れて待っていると、今度はものの数分で僧侶の男が湯呑に入ったお茶を盆に乗せて持って来た。そして僧侶は湯呑を右手でちゃぶ台に置く。

「さて、お茶をお持ちしましたよ。それをお飲みになって、用件をお話ください」

湯呑に注がれた熱い茶を見て、宗一は軽く頷きを返してから自分の側に置かれた湯呑を受け取る。

「いやあ、連絡もない上に赤の他人の訪問ですみません。実はですね、この辺に落とし物をしてしまいましてね。それも精密機器」

宗一はそう言いつつ僧侶が出したお茶をゆっくり慎重に揺らしながら茶の色を見る。

「精密機器?」

「先日観光に来たおりに、スマホを1台落としたみたいで。歳のせいか、スマホを落とした事に気付けなかったもんでして……交番にも連絡はなかったみたいなので、この辺で聞いて回っているんですよ」

スマホを1台落としておいて気付かなかったとは無理のある話だが、宗一はこの僧侶に対して話をうまく通すことで情報を聞き出そうとは考えていないかった。

「それは大変な事で……それより、お茶が熱いうちに頂いて下さい。佐渡の名物茶なんですよ」

「住職さん。心なしか、あなたの分のお茶が私のより綺麗に見えますね。随分と新緑でフレッシュな感じの……」

「気のせいですよ」

宗一は僧侶の眼の動きを見ると、彼は何度か瞬く間に左上に視線がずれることがあった。

(クロ、クロ、クロ。こいつ完全にクロだ。さて、どう揺さぶってやるか)

そう思案する宗一だが、シンプルな案で行こうと彼は思い切り、立ち上がる。

「住職さん、スマホ……この建物にありますよね?」

「へ? え? なに言ってるんです。拾得物をネコババだなんて」

「実はGPSでこの建物にスマホがあるのはわかってるんですよ。予備のスマホでGPS情報を確認しました」

僧侶の顔色は明らかに青くなっている。宗一が短い時間に話した内容のそこかしこに心当たりがあるのだろう。

「……そんな、ありえない。ご冗談を、それよりお茶を」

「私の分のお茶が少し暗色気味なのは、フルニトラゼパム混ぜてますよね?」

「は? はぁ? 本当に何言って」

「茶番は良いんだよ、俺の息子の場所を言え」

「…………」

僧侶は無言で立ち上がると、懐に手を突っ込み。

「撃つぞ、持ってるものを捨てろ」

僧侶が懐から何かを取り出す前に、宗一が拳銃を抜いていた。

「お前ら、佐渡流竜理教だな? 俺の息子を拉致したな」

「……竜王様はこの島の希望だ。この島に住まう者達先祖代々からの悲願なのだ! 絶対に竜王様を手放すものか!」

拳銃を向けられているにも関わらず、僧侶は力強くそう言い放つ。

「その言い様だと……佐渡島の住民は漏れなく全員信者か?」

「竜王様には絶対に辿り着かせない。スマホも絶対に渡さない!」

「そうか。でも俺には時間がないんだ、息子を早く返せ!」

「断固、断ります!」

「そうかよ、これだけ言ってもお前らは親子の情を汲まないか」

宣言通り宗一は躊躇わずに僧侶を撃った。

「痛あぁぁあっ!!」

僧侶は右太ももを両手で押さえながら悶絶してのたうち回るが、出血は一切ない。

「ゴム弾だから死なないぞ。骨折ぐらいはするだろうが……早く言え、スマホは何処だ? そして俺の息子は何処にいる! 早く言え!!」

宗一が強く問い質すが、僧侶は一切口を割らない。

「信仰の深さってヤツか。カルト相手はこれだから苦手だ……じゃあ死ねよ」

宗一は容赦なく僧侶の腹や肩、脚と次々にゴム弾を撃ち込む。

「ほらとっとと話せ、ゴム弾でも撃ち続けりゃ骨折と内臓損傷で死ぬぞ」

そう言いながら宗一は何度も撃つ。撃って、撃って、撃ち続ける。

「わ、わかった! やめてくれ! 話す!」

宗一が呆れながら拳銃の引き金から指を離すと、僧侶は身を伏せたまま話した。

「スマホは隣の部屋のタンスにある……竜王様なら……ここから更に南東の琴浦に居る。今、身の清めに入っているところ」

「そうか、琴浦だな。地図でも確かに確認できる。おい、スマホの入ってるタンスがどこか案内しろ」

「あ、足が……う、動かないですよ」

「チッ……もういい寝ていろ」

悪用が問題視されているフルニトラゼパムという睡眠薬入りのお茶を宗一が僧侶に無理矢理飲ませる。湯呑に入ったそれは本来宗一に飲ませるハズであったものだが。

「ごっ……ぐゴォォオっ……すー……ぐゴオォオっ……」

宗一が見抜いた睡眠薬は拉致にも利用されるが多くは性犯罪で使われる強力なものだ。それゆえに僧侶に飲ませると気絶したかの様にそのまま眠ってしまった。

「ナメ腐りやがって、やっぱり薬盛ってたな……さて、漆紀のスマホは」

居間から出て隣の部屋のタンスを開いて見ると、確かに漆紀のスマホが置いてあった。

(まずこの建物から早々に去るか)

スマホを回収するとそそくさと建物を出て寺から立ち去り車道に出て、佐渡南東部にある琴浦へと向かう。

歩きつつも宗一は無線機を取り出して再び世理架と通信する。

「聞こえてるか」

『ああ、聞こえているよ。どうした?』

「予想通り、先程の寺に息子のスマホがあった。やはりこの佐渡島に拉致されていることは確かだ。居場所も聞き出せた、今からそこへ向かう」

『朗報だな。場所は?』

「佐渡島南東部にある琴浦という場所だ」

『琴浦か。地図にマークしておいた。すぐに回収に行けるようにしておくよ』

「わかった。また何かあったら連絡する。頼むぞ」

『任せてくれ』

それだけ言うと、宗一は早歩きでそそくさと佐渡島南西部の海岸地域・琴浦へと向かった。

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