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15.清流の儀

同刻、佐渡島南西岸 琴浦洞窟にて。

「おい、こんな死に装束みてぇな白い服着せてどうする気だ!」

小さいボートに乗せられ海辺の洞窟に連れられた漆紀は、同乗している彩那に焦った様子で問いかける。水中に入るということで、周囲には万が一に漆紀と彩那が溺れても助けられるよう、佐渡流竜理教の信者十名がそれぞれボートに乗って同伴していた。

「ここで身を清めます。この琴浦竜宮殿の海水は浅めで澄んでいてエメラルドグリーンに輝いております。昔から佐渡流竜理教ではここも身を清める場所に使われてます。あと、それは白装束ではなく行衣と言います」

そう説明する彩那も行衣を着ていた。

「それで、ここに飛び込むのか? 何分水に浸かってりゃ良いんだよ」

「8分ほどは」

「8分も着衣泳か。キリスト色があると思いきや神道じみたり、お前ら宗教のオードブルか?」

「さあ、一緒に入りましょう。」

彩那が漆紀の手を取ると、思い切って飛び込んだ、

「ぶはっ!? 冷たっ! おい、いきなり道連れにするんじゃねえ!」

漆紀は海水に身を浸し濡れつつ彩那の手を解いて文句を言う。

「でもいい場所でしょう? この琴浦竜宮殿は本当に綺麗な場所です……」

そう答えた彩那であるが、漆紀は彼女を見るなり目を逸らした。海水に濡れた彼女の頭髪と表情、濡れた服によって見えるボディラインも相まって煽情的かつ挑発的に見えた。

「俺は風邪ひかないかどうかが心配になるな。海に浸かったことないし、こういうの雑菌とか病気の危険はないのかよ」

「海を汚染水かなんかと勘違いしてませんか竜王様。病気にはなりませんよ。まあ、ひょっとしたら毒クラゲがしれっと居るかもしれませんが……」

「おいおい勘弁してくれ!」

彩那から目を逸らそうと洞窟の壁面上部を見ていたが、クラゲが周囲にいないかと心配になり海中へと視線を移す。

今の漆紀にはムラサメの力がない。故に毒を受ければ治らぬし、激痛に悶絶して最悪死ぬことになる。

「竜王様、もしよければ8分経つまで私の方を見てください」

「それはそれで目に毒すぎる。お前自分の見た目が良いコトに自覚あるだろ? 悪いがハニトラやロマンス詐欺での宗教勧誘はゴメンだ」

「まぁーたそんな事を言う……私と目を合わせてください、ほら、しっかり!」

彩那が漆紀の両頬に触れると、己の顔と真正面に向き合うように向けた。

「なら一旦、佐渡流竜理教の使命とは切り離して話します。私自身のために、竜王様を探してたし求めてたんです」

「なんで竜王様とやらが竜蛇の為になるんだ? 理由がわからん、それだけじゃ電波女だぞ」

明確な説明を求めると、彩那は漆紀の耳元まで顔を近づけた。周囲の船で二人を見守る信者達には小声で彩那は心の声を漏らした。

「小さい頃、佐渡流竜理教の昔話を聞いた時……ふと思ったんです。私を佐渡流竜理教の司祭という使命から解放できるのは、きっと竜王様という存在しか居ないのだと。竜王様を迎えた時……きっと私は自由になれるはずなんだ、って」

漆紀は彩那の話を信じ切るワケではないだろうが、少しだけ理解が出来た。彼女は佐渡流竜理教の司教家の生まれである。将来的に己が司教をやることが決まっているのだ。

彩那ほど強制された進路ではないが、漆紀も現状自分の将来に対して詰まっている節があった。夜露死苦隊・萩原組との戦いを経て無気力さは以前より薄らいだものの、人生の目標が一切なく実家の便利屋を継ぐ程度しか自分の将来が思い描けないのだ。

詰まり方は違うとはいえ、漆紀も彩那も将来の他の道が詰まっているのは同じであろう。

「将来、か。お前は自由になるって目標はあるけど、そのあとなんもないだろ? 俺も無いんだ。夢とか、生涯やりたい事とか」

「竜王様……」

漆紀には大した夢はないし目標はない。それを自覚し声に出したことで、ふと思った。

(便利屋継ぐか、じゃなきゃ……本当にこいつらの竜王様とかいう神輿になるか? いっそカルトのトップってのも将来としては悪くないんじゃないか。衣食住は困らないし、信者達を従えて……いや、自由がなくなるな。佐渡から一生出れなくなるかも。それは嫌だ)

少しでも佐渡流竜理教の竜王の座に「いいな」と思った自分が居て呆れ返ってしまう。

「俺は竜王とかいうのにはなりたくない。自由がなくなるんだろ? もう二度と東京とか大阪とか観光地にも行けないんだろ?」

「それは……はい」

「ずりーなぁ。俺だって人間なのによぉ、お前ら信者だけ自由に遊んだり好きなもの食えるのに俺だけずっと佐渡島に居ろってかぁ」

かなり嫌味ったらしく漆紀がそう言うと、彩那は露骨に不機嫌になった。

「ん~……それを言いますかそれを」

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