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14.準備開始の小太郎、佐渡島到着の宗一と世理架

午後10時頃、平野宅。

平野小太郎は自室の作業机で装備を整えていた。

彼は風魔忍者の家系の一つである風祭(かざまつり)の者である。現代忍者といても、恰好よく飛び跳ねて手裏剣を投げたりするのではない。

迷彩柄の服を用意し、非常食を用意し、武器や小道具を揃える。とはいえ、軽装で身軽であることこそ忍者の鉄則であるのは現代でも変わらない。

「マガジンに損傷なし。煤もなし。バネの損傷なし……」

自作の自動拳銃の整備をしていた。昔から平野家は独自で得物の製作を行っており、特に銃火器に関しては工場も持たず作るため長年試行錯誤を重ねた。

そうして平野家では自動拳銃の自作が可能となった。

小太郎が手入れする自動拳銃も設計図を基に作ったものだ。しかし一部の部品などは小太郎のアレンジが加わっており、撃った時の反動軽減が成されている。

「銃弾の方も損傷なし、熱による湾曲や大幅な伸び縮みもなし……」

現代忍者は手裏剣の代わりに拳銃を使う。真っ黒な忍び装束ではなく、暗い緑の迷彩柄の衣服を纏う。時代劇に出るステレオタイプな忍者像に従う意味などないのだ。

「拳銃はもう良いですなぁ。お次は、っと」

小太郎は粉末の入ったボール状の袋を取り出し机に置く。

「うーん、損傷なし。我ながら綺麗な玉形の煙玉が出来ましたなぁ」

手製の煙幕手榴弾である。軍隊が使うような正規品の煙幕手榴弾には持続性で劣るが、爆発すると一瞬でその場に粉末を撒き散らし舞わせることで数秒だけ煙に巻くことができる。

そうして独り言を挟みながら装備を整えつつ、小太郎は頭の中で漆紀について考えを巡らした。

(春休み、唐突に辰上氏が萩原組の事務所の情報を求めた。それどころか屋敷の情報まで……)

春休み中、暴力団などと一切縁などないはずの漆紀が萩原組についての情報を小太郎に求めたのだ。

理由はどうあれ小太郎は仲間内や学校内の者で情報を求める者がいれば情報を提供するという課題を自分に課している。これは現代忍者として己の情報収集能力を高めるためにあるが、それは本題ではない。

本題は漆紀が暴力団・萩原組の事務所と屋敷の情報を求めた不審さにあった。

漆紀に聞かれた後日、小太郎は萩原組の事務所と屋敷に実際に行ってみようかとも考えたが、直接出向くと要らぬ因縁をつけられる危険性を考慮して間接的に情報を集めることにした。

その中で得られた情報は、あの春休み中に夜露死苦隊という暴走族と暴力団・萩原組が崩壊したこと。

それだけでは足らず小太郎は街に居た元・夜露死苦隊構成員に金を握らせ情報を聞き出した。彼らからは「萩原組のおっさん達が大勢死んだ。殺ったのは敵対組織でもなく、便利屋のガキだ。流石にそろそろサツも現場を押さえてるだろうが、なぜか事件化してねぇ」との言葉を聞いた。

(便利屋のガキ……それだと辰上氏が犯人だろうとも思いますが、それは絶対にあり得ないでござる……拙者のように訓練してるわけでもない単なる一般人の少年が、銃火器を持った暴力団員を何十人と殺せるハズがない。訓練している拙者でもアクション映画の暗殺者よろしく、事務所と屋敷に居る暴力団員を何十人も殺して生還するなど不可能)

状況的には漆紀が萩原組や夜露死苦隊と一悶着あって全て解決しようと漆紀が凶行に出た疑いがある。

しかし小太郎が今まで生きてきた経験上、現実的にそのような事は不可能なのだ。

(夜露死苦隊と萩原組崩壊の件、そしてこの度の失踪……辰上氏は一体?)

その真相を知る為にも、小太郎は漆紀を見つけ出す必要があった。

_____________________


翌朝、午前9時。新潟県佐渡市 両津港付近のパーキングにて。

「じゃあ、俺は早速漆紀を探しに行く」

佐渡島へとやってきた宗一が、白バンの運転席から降りて世理架にそう言うが。

「待て待て。無線がしっかり繋がるかテストぐらいしてから行くんだ。アンテナはしっかり立てておくよ」

世理架が助手席から降りると、白バンの屋根に付けてあるアンテナを立てて展開する。

携帯電話ではなくわざわざ無線機で連絡を取るのは、この佐渡島は佐渡流竜理教が支配する島であるからだ。基地局も佐渡流竜理教の信者が管理しているため、一般的な携帯電話での通話では通話内容が盗み聞きされる恐れがある。

佐渡流竜理教に動きを掴まれないようにするため、無線傍受が比較的されにくいデジタル無線機での連絡となる。それでも海外の軍隊や日本の自衛隊が使うような機密性の高い無線通信と比べれば気休め程度でしかない。

漆紀の捜索・救出が長引けば宗一が佐渡流竜理教に捕捉される危険性がある。

「これでよし。展開と収納は前世代の機材と変らないものだね」

「そうだ、ガソリン代や食事代は先に渡しておく。これでやりくりしてくれ」

そう言うと宗一が世理架に万札を数枚渡す。

「わたしも何万か持って来たんだがな。ありがたいが、まさか一日中ガソリンをフカしてるわけにもいくまい。常時万全に無線連絡を受け付けてやりたいところだが……無線をする時間帯を決めよう」

すると宗一はメモとボールペンを取り出してそそくさと書いて世理架に渡す。

「こういう時間帯ならどうだ?」

「いいね。お昼時や夕食時に休みを設けてくれてるのは、君の良心の成長が見える。仮眠の時間もある。よし、いいだろう。便利屋を経営出来てるだけあって休みは心得たか」

世理架の賛辞に別段気を留めず宗一は無線機を一つ手に取る。それを見ると世理架も車のエンジンを点けると、車に取り付けてある無線装置を操作する。

「こんなもんだね。そっちの無線機からわたしの声は聞こえてる?」

「ああ、無線機からもしっかり声が出ている。よし、これなら大丈夫だ。車の予備キー失くすなよ?」

宗一は猟師の服装・装備でこの佐渡に来ている。ベストや帽子も猟師が着るオレンジ色のものであるが、唯一普通の猟師と違うのは一番下に防弾ベストを着込んでいる点だろう。

日清戦争からの骨董品である猟銃「稲黒」と、大きな発砲音が出ないエアライフル銃をショルダータイプのロングホルスターに入れ、更にそれを布で包む。

「これで銃は見えない。街中で銃丸出しは捕まるからな」

「君ぃ、それでは万が一の時にすぐ銃を出せないだろう」

「いいや、これがある」

宗一がベストの内側から大抗争時代に使っていた拳銃を1丁取り出す。

「それ、古くないかい?」

「メンテナンスは怠らずやってる」

「職質されたら終わりだよ。この港周辺を抜けるまでは送ろうか?」

「ああ、頼む。GPS情報を見る限り、漆紀は両津港にはいない。佐渡島南西部に居るが……」

宗一はスマホの画面を見つつ眉間に皺を寄せる。

「それは君の息子の位置ではなく、あくまで息子のスマホの位置だよ。そこに本当に彼がいる保証はない。まあ、手荷物を預かってるなら彼の行方を知る者くらいは居るだろう」

「なら行動開始だ。早々に漆紀を助け出す。行こう」

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