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ガンギマリズム2 竜脈の巫女  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「佐渡流竜理教」
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9.豹変する彩那

午前11時。東京都立川市 市内西部 武蔵多摩高等学校。

平野小太郎は武蔵多摩高等学校に通っており、漆紀の同級生だ。高校ではキモオタ平野という悪口気味な本人公認のあだ名が通っているが、これは小太郎自身が意図してわざと誘導した状況である。

彼は単なるキモオタな高校生ではない。女性のスタイルがほぼ正確に推測して興奮するキモオタムーブは単純にキモオタ感満載で不快感があるが、技術的にそう簡単にできる芸当ではない。

(辰上氏は欠席。教師からは特にお達しなし。引っ越しでも死亡でもなさそうですなぁ……何かあったのやもしれませぬな)

授業中であるが、小太郎は漆紀の欠席に目を付けていた。これが単なる体調不良や何らかの不都合であれば昨日の焼肉の時点で連絡が来ているのだが、それがない。

(非常事態ですかな。そうなると"努め"を全うする時か)

小太郎は単なるキモオタ高校生ではない。現状はキモオタアピールのために女性相手にしか観察眼を発揮していないが、男性のスタイルや体格もほぼ正確に具体的な数値まで推測できるのだ。

この観察眼は別に天性の才能などではなく、本人が訓練の末に身に付けたものだ。自分が一介のキモオタに過ぎぬと周囲に思わせた印象操作も本人の技量によるもの。

(わが一家、風祭の努め……義を成す時か。拙者の手の届く範囲でぐらいは、善を行わねば。拙者の家系が、忍びのものなれば)

______________________


午前8時のこと。

「どこまで連れてく気だ。ここどこだよ」

漆紀は現在地がどこなのか知る由も無い。漆紀を拉致している最中の佐渡流竜理教信者二人と、その司教身分で扱われる竜蛇彩那。

この三名により漆紀は拉致されている途中だが、唐突に車から降りることになった。目隠しの布を巻かれ、周囲は見えない。

「竜王様、これ以上喋らないで下さい。また口も塞ぎますよ? とにかく、私の手を握ったまま歩いて下さい」

周囲の音から場所を特定できないかと漆紀は耳を澄ます。

風の音がする。そしてどこかの水辺なのか、ちゃぷちゃぷと水が硬いなにかに打ち付ける音が絶えず聞こえる。何より決定的だったのは、鼻をつく磯っぽい匂い。

「港か? 船に乗り換えるのかよ」

「……こっちです、竜王様」

彩那に連れられるまま漆紀は歩き続けると、唐突に港特有の音や匂いが止んだ。

「そのまま後ろに座ってください」

「もう……船の中か? お前ら本当に俺をどうする気だ。俺の何を知ってて拉致なんてやってんだ」

「あなたが竜王様だからです」

「答えになってない。俺自身に特別な力はないんだぞ。本当に間違いだ」

「そうですかねー……私がお預かりしている鉄塊の首飾り、随分と大切にされてる品のようですけど……これ明らかに〝普通の物品〟ではないですよね」

彩那はただ佐渡流竜理教の司教家というわけではない。竜脈から力を借り受けることができ、竜脈の力を持ってすれば才能が無くとも魔法が使えるし、雑多な竜だけでなく竜王かどうか特異な感覚で判別できる。

魔法が使えるのが竜脈の力ならば、彩那は魔法に纏わる物品かどうかの判断も容易に可能であるのだ。

「拉致してる上に俺から話させようとしてるが、お前から腹を割れ。お前が何するつもりか知らないし、俺が何を話せばいいかもわからないしな」

「別に話さなくていいです、竜王様。私達が望むのは、あなたを竜王様として迎え、奉ることです」

「だからそれが意味わからん。お前本気で俺ごときがそんな大層なもんだと思ってんのか? だとしたら傑作だ、すげぇ節穴だな」

漆紀が軽く笑みを浮かべて皮肉交じりに言うが、彩那は何か不意を突かれたのか答えを返さない。

「おい、いつも学校で教義説いてる口はどうした。お前随分と偉い立場みたいだけど本当に才能あんのか? お前も俺と同じで本当は大したこと……」

「私がダメだって言うんですか!!」

何か触れてはいけない琴線に触れたのか、漆紀は彩那に胸倉を掴まれ揺さぶられる。目隠しがあるため音による情報だけが頼りゆえかいつも以上に音の細かい変容も漆紀は感じていた。

先程までの冷静な彩那の声色はどこへやら、武蔵砂川駅周辺で漆紀を騙した時の助けを乞うあざとい声色とも違う、泣きじゃくる女児のそれに近かった。

「なんだ急に!? 離せよ、揺らすな!」

「司教様落ち着いてください! もう出発しますから!」

彩那に従う信者の男がそう宥めるが、なかなか彩那は手を放さない。

「あなたは"私の竜王様"なんです、そんなこと言わないでください!! そんなこと言わないで下さいお願いですから!!!」

明らかに様子がおかしい。学校での彩那の人物像から鑑みると出さないであろう心からの悲鳴。

「なんだよお前、どうかしてんぞ!」

尋常ではない彩那の痛ましい声色に、漆紀は不覚にも少しだけ心配の気持ちを抱いてしまった。

「落ち着いてください司教様! おい佐藤、ドア閉めて船を出せ! 司教様は任せろ」

「わかった!」

もう一人の信者の男が船を出航させるべく扉を閉めてエンジンをかけ始める。

彩那は漆紀から引き剥がされ、それでもなかなか落ち着かず1分ほど先程と同じ言葉を繰り返し言った。

(なんなんだよ今の……竜理教だとか、そういうののヤバさじゃねえ。今のは、竜蛇自身の……)

漆紀はこの先の自分の命運を考えると、面倒事が竜理教に関してだけではないとかすかに感じた。

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