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この話には虐待の描写が入りますのでご注意ください

その離れは今まで放置されていたのか、余り綺麗ではなかったけれど、屋敷に来たメイドが僕は寝ているだけだから大丈夫だと言う。


付いてきたメイドは2人だけで、初めて見るメイド達だった。

今までそばにいた使用人達は誰1人いなくて、この屋敷にメイド2人と僕、2.3人程度の護衛がいるみたいだ。



このメイド達との離れで過ごした日々は一生涯忘れられない地獄のような日々だった。



この2人のメイドはアーリン嬢の様でいて、アーリン嬢より残酷だった。



「アルヴィス殿下は体調が悪いので、こんな食事でいいですよね?」

そう言って渡して来た食事は、今までにない位粗末なもので、薄く色がついて具は全くないスープに硬くなったパンが付いていた。

僕はお腹が減っていて、これ以外に食べる物が無いと分かっていたからスプーンで掬って食べていると彼女達は、僕を見てくすくす嗤う。


「あんな粗末な物でも必死になって食べるなんて」

メイドの1人のベラが座ってる僕を見下しながら笑っていて、もう1人のメイドのアマンダは僕の髪を触って鼻で嗤う。


「本当に!こんなのが王子ですって?笑っちゃう」

「あーぁ、ジェイク殿下の所に配属されたかったのに!それでゆくゆくは見初められてぇって夢見てたのに、こんな所に配属だなんてガッカリだわ」

アマンダは僕の髪のひと房を引っ張っり、痛みで顔を引き攣らせた僕をみて溜飲を下げたようだった。



「殿下はまるでお姫様ですわね、姫王子と呼ばれてるのご存知ですか?」

ベラがアマンダとは反対側から僕の髪を触る。

僕の髪は妖精が好きな色素の薄いプラチナブロンドで、加護が与えられるかもしれないという理由で伸ばす様にと王妃様に言われていた。


だから僕の髪は腰まであるのだけれど、それが理由で姫王子と呼ばれているとベラは言う。

姫王子とは…前にアーリン嬢が言っていたのを思い出した。


「姫王子様はここで白馬の王子を待ってるのですか?」

アマンダは馬鹿にしたように言って、ベラは「仮にも王子なのに王子を待つなんて…婚約者のガーネット伯爵令嬢が可哀想ですね」と気持ち悪いものを見る目で僕を見た。


「顔は綺麗なのに本当に勿体ないわぁ、でも無能で無価値ならゴミみたいなものよね」

「こんなのが王族だなんてきっとジェイク殿下は辛い思いをされてるわね」

「あーん!私がお慰めしたいわぁ」


アーリン嬢の時は彼女が帰れば辛い時間は終わったけれど、傍付きのベラとアマンダは僕の専属メイドでアーリン嬢の様に帰ったりせず王城に住んでいる。

そのため辛い時間はアーリン嬢の時より長く僕の心はどんどんすり減っていく。



一度、初めの頃に僕が反抗した事があった。

僕の髪を触りながら、まるで姫君だと。

男の癖に気持ち悪いと言われた時、触らないでと髪を触る手を払った。


反抗された彼女達は烈火の如く怒り、僕の髪を思い切り引っ張りながらベッドから引きづりおろし、服を無理やり脱がせ僕の背中に爪をたてたり、叩いたりしてきた。

ガリッと嫌な音がして鋭い痛みが走り、痛い!止めてと言うと「辞めて欲しいなら、謝らないと。幼子でも分かりますよ」と、ベラは楽しそうに言う。


悔しさとか痛みとか色々な感情がぐちゃぐちゃになって涙が目の縁に溜まった。

それから震える声で「ごめん」と言うとアマンダは「ごめんなさいですよね?」と言った。


痛みから解放されたくて「ごめん…なさい…」と言うとやっと満足したのか僕から離れて

「お姫様は素直に大人しくしていてくださいね」と嘲笑った。


彼女達は僕を嬲る事に愉悦を覚えて、この閉鎖された空間での暇を潰していた。

何故僕はこんな事を言われなければいけないのか、僕が無能で出来損ないの欠陥のある人間だからなのか、この時の僕にはもう正常な判断が出来なくなってきていた。



ベラとアマンダは気に入らない事があると僕に暴力をふるうことが増えた。

単純に僕を見ているとイライラすると言ってビンタされた事もあるし、この屋敷で働いてる事を王宮のメイドに馬鹿にされたと頭から食事を掛けられたこともある。


痛いし、悔しいし腹ただしく悲しく辛い気持ちも徐々に萎れていった。多分慣れてしまったのかもしれない。


バチンッと音がして、叩かれたと分かって頬に痛みが走るけど前より痛くなくなった気がする。


そんな僕の反応が彼女達には気にいらない様で、より一層の恐ろしい事をしてきた。

僕の手を縛り伝書鳩達に与える生き餌の虫が入った入れ物を僕に掛けてきた。

余りの気持ち悪さに絶叫する僕を見て2人はお腹を抱えながら笑っていた。


他にも虫が平気なアマンダがベラに押さえつけられた僕の口に虫を入れてきて吐いて汚してしまったから、吐いた場所に頭をつけて謝らせられ、そのまま僕が自分で掃除をしなければいけなかった。


それに窓辺に何度か遊びに来ていた鳥を見て心を休めていたのを知った2人は、護衛騎士に言って僕は泣きながら止めるように懇願した。

それでも護衛騎士とベラ達は笑いながら僕の目の前で鳥を撃ち落とし、その日の夜ご飯は鳥の丸焼きが弓矢が刺さった状態で出てきた。

僕が嗚咽を漏らして泣いているのを見た2人は、最高に楽しいと涙を流すほどに笑う。



こんな生活が続き、僕の精神状態は限界に近かった。

早く母上の元に行きたかった。


離宮に来て3ヶ月くらい経った頃

ある日の昼間に離宮に来てからまともに世話をうけていなかったのに、急にベラが桶にお湯を持ってきた。

「お姫様、身体と髪を拭きましょうね」

確かに自分で体を拭いたりしていたけどいつも冷たい水だったからお湯で拭いて貰えるなら嬉しい。

自分で拭いていても背中とか上手く拭けない事が多かったから。


ただ、ずっと体調が良くなくて熱も少し出ていたからか、身体が重くのろのろとボタンを外していたら、ベラが服を脱ぐのを手伝ってくれた。

この2人からの親切に僕は少し不気味に思いながら、身体がサッパリする事が嬉しくて、その不気味さを見なかったことにした。


たまのご褒美かもしれないと。

それが間違いだったのに、本当に僕は間抜けで無能で馬鹿でしょうもない人間だった。



身体を拭こうとするベラと、何故か僕の腕を押さえて動けなくするアマンダに僕は2人が何をしようとしてるのかサッパリ分からなかった。

困惑した僕を2人はくすくす嗤いながら僕の裸の上半身を触り始めた。

「あら、やっぱり胸はないのですね」

「姫って呼ばれてもやっぱり身体は男だものね」

「うふふ、男の人でもここを触られると気持ちいいのかしら?」


最初何をしてるか分からなかったけど、執拗に僕の胸を触ってきて、よく分からないけどぞわぞわして気持ち悪い。やめて欲しくて身を捩るけど、怠い身体は力が入らなくてアマンダの手から逃れる事もできない。

「やめっ…!」


「あらあら、アルヴィス様気持ちいいのですか?お顔が赤くなってますよ」

「やだ!男なのに気持ち悪いわ」

気持ち悪い!って言いながら笑ってる2人は僕を全然解放してくれはしなくて。

僕は恥ずかしさとか、気持ち悪さとか不快感とか色々がゴチャゴチャな気持ちで泣きそうになる。

まだ、13歳の子供とは言え男なのに女性2人に良いようにされてる自分が惨めで恥ずかしい。

涙が溢れると2人は一層楽しそうに笑っている。



コンコン—軽いノック音が聞こえて来て、部屋はシンっと静まり返る。

ベラは僕が助けを求めるとマズいと思ったのか口を塞いだが僕が声を出すまでも無くドアが開いた。


助けてもらえると思ったのに入ってきたのはアーリン嬢で、アーリン嬢は僕たちを見て、何か虫とか汚い物を見るように顔を歪ませて扇で口元を隠した。


それでもアーリン嬢はもしかしたら助けてくれるかもしれないと一縷の望みをかけて彼女を見ると、アーリン嬢は「汚らわしい…」と呟いた。

その汚いものを見る目は僕だけを見ていた。

この静かな部屋にはその呟きがハッキリと聞こえて、誰も助けてくれない事を悟る。


「アルヴィス殿下…そう言った事がお好きでしたのね」

汚物でも見るような冷たい目でアーリン嬢に見られ、僕は精一杯横に首を振るけど、アーリン嬢はどうでも良さそうな顔をしてた。


顔面蒼白な顔をしている2人は固まっていたけど

「貴女達アルヴィス殿下にそんな事させられているの?」とアーリン嬢がベラやアマンダに向けて声を掛けると、2人は怯えたような表情から助けが来たかのように顔を輝かせ黙って何度も頷いた。


アーリン嬢はため息をついて、外にいた護衛1人に声を掛けた。その時は助けてくれたんだと、安堵から涙が止まらなくてぽろぽろとこぼれ落ちる。

それなのに


「貴方、アルヴィス殿下がお相手して欲しいそうよ」

と、護衛に言い放った。


部屋に入ってくるなり、そんなことを言われた護衛は目を瞬かせていたけど僕を見て何故か喉をゴクリと鳴らしたのが部屋に響いた。


相手とは…?何を言ってるか分からないけど、でも護衛の僕を見る目は飢えた獣の様で、怖くておぞましくて拒絶のため首を振る。

違うのだと、僕はそんな事言っていないと。

でもベラに口を抑えられていた僕の口からは言葉としての音はならなかった。


「ははっ…王族から求められたら断れませんよ」

上着の釦をプチプチと外す仕草に、全身の毛穴が粟立つ。護衛は舌なめずりをして、僕の身体に手を伸ばしてさっきのベラの様に上半身に手を這わせた。

「体は男ですが、顔は女みたいで可愛いですもんねぇ。少し痩せすぎですが…まぁ良いでしょう。こんな、趣味があったとは」


全身に得体の知れない魔物が蠢いている様に感じてしまう。

僕はボロボロと身体を捩らせたり泣きながら首を振って拒否を示すも何の意味も無くて、ベラ達はくすくす笑っているしアーリン嬢は気持ち悪いものを見てるように蔑んだ目を僕に向けているし、護衛は血走った様な目をしていて息も荒い。僕はどうしていいのか自分でも分からなかった。

こんな時どうしたらいいのか、どうするべきなのかそんな事も考えられないくらい頭の中が恐怖で支配されていた。


護衛がふと僕の上半身から手を離して、興奮したように僕の膝を撫で始めた。

そしてそのまま太ももへと手を這わせている時、何処を触ろうとしているのか気付いて僕は全身の血の気が引いた。どうにかしたくて、火事場の馬鹿力で形振りかわまず必死に身を捩ってアマンダから手を振りほどいて、何とかしなくては!と近くにあった食事用フォークをその護衛の手に向けて勢い良く刺す。

でも途端に鋭い痛みが襲ってきて太ももが熱くて痺れるように痛んだ。


その時、僕は護衛に向かって刺した筈が、自分の太ももにフォークを突き立てていたことに気付いた。

それでも僕の行動に驚いた護衛は驚いたのか慌てて僕の上から飛び降りた。


アマンダやベラも驚いてどうしたらいいのかと、慌てているのが何となく分かった。

でも僕は痛みでそれどころじゃなかった。


そんな時アーリン嬢だけがいつも通りで、目の前で僕が痛みに呻いているのすらどうでも良さそうな口調で

「アルヴィス殿下、今日はお話があって来たんですの。私達の婚約は今日で破棄されました。ですから今後、私と会っても馴れ馴れしく声を掛けて来ないでくださいませね」


そう言った後「そこの貴女、医官を呼んできなさい。アルヴィス殿下は気が狂い自ら自傷されたと」とベラに声を掛ける。

その言葉でベラは目を輝かせこくりと頷き足早に部屋を出た。

「貴方も、もう行っていいわ。殿下に言い寄られて大変でしたわね」と護衛に言うと護衛は何度も頷き部屋から出ていった。



その後少しして医官が到着した時にはアーリン嬢は僕の傷口をハンカチで抑え涙を流しながら医官に「早く治してください。側妃様が亡くなられてから殿下は可笑しくて…」と訴えかけた。


医官によって処置を施されている最中、僕はいつの間にか気を失っていたらしく気が付いたら部屋には誰もいなかった。


元々の身体の怠さのせいか、それとも傷のせいか朝より熱が出ていても目を瞑るのが怖くて寝ることが出来ない。


ベラ達にされた事、護衛にされた事等が頭の中でぐるぐる回って気持ち悪くて何度も吐いてしまった。

目を瞑ると思い出すし、目を瞑っている間にまた来たらと思うと恐怖から自分を刺したフォークを離すことが出来なかった。


医官が太ももからフォークを抜く時でさえ手が離せなかった。医官は仕方なしに僕の手の上からフォークを抜く事にしたくらいだし、気絶した後もずっと握っていたという事は離さないように握りしめていたのだと思う。


男なのに良いようにされている自分、王族なのになんの力も無く人間としての尊厳も失われつつある自分が本当に情けなくて惨めで、ベラ達の言うようなゴミのような存在に思えて消えてしまいたい。

それなのに自分で命を絶つのが怖くて何も出来なくて。

ただ、ベットの中で傷を庇いながら丸くなってただただ泣いていた。




初めて自分にフォークを刺した日から一月ほど経った。

あの日からたまにベラ達が護衛の男とか、よく分からない男を数回連れてきてあの日の様な事をしようとしてきた。


僕はフォークをお守りのように握り締めていて、男やベラ達が近づいて来る度に自分の足を刺した。


そうすると男やベラ達は僕に近寄るのを辞めて「気が狂っている」と言い近寄らなかったから。

皆僕が足を刺す事に気が狂ってると言いながら笑っていて、この自傷行為がベラ達の退屈をしのがせている事に気づいた。


でも気が狂ってるのは間違ってない。もう無理だ。

僕は間違いなく気が狂ってる。

周りでは母上が亡くなってしまったから気が狂ってしまったと言われる様になった。

そうじゃない、そうじゃないんだ。

母上のせいじゃない。僕が耐えられないだけなんだ。


そしてアーリン嬢…いやガーネット伯爵令嬢との婚約破棄については僕の気が狂った事、そして男達を部屋に呼び付け淫らな事をしていて、女より男が好きだから恩のあるガーネット伯爵令嬢との婚約を破棄したと言われているそうだ。


アマンダはあの日以来ガーネット伯爵令嬢の事をとても崇拝しているみたいで、うっとりとした顔で伝えてきた。


それでも、僕にはもう、どうでもよかった。

全てに疲れてしまったから。

僕の評判なんて元より底辺で、生きているのも辛い。

でも自分で死ぬ勇気が無いからただ生きているだけだ。


日々の寝不足も、そして味のない薄いスープのようなご飯であっても食べても吐いてしまいすっかりやつれてしまった。今の僕はまるで老婆の様な姿だった。


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