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僕の婚約者は王妃様より母上へ話があった様で、ガーネット伯爵家のご令嬢と婚約が決まった。
そして兄上はアウイナイト公爵令嬢と婚約を結んだ。
アウイナイト公爵令嬢は兄上より4つ年上だけれど、他に近しい年頃のご令嬢の中で身分が釣り合う高位貴族の間でご令嬢はいなくて、身分を調整しアウイナイト公爵令嬢が選ばれた。
兄上はロードクロサイト公爵令嬢の髪色も気に入らなかった様でその事も話していたのが聞こえた。
しかしアウイナイト公爵令嬢の年齢が自分より上で気に食わないと兄上が毛嫌いし、アウイナイト公爵令嬢と上手くいっていないらしい。
かく言う僕も、婚約者であるアーリン・ガーネット伯爵令嬢と良好な関係とは言えない。
今日もアーリン嬢が会いに来てくれて、ガゼボでお茶をしているのだけど、彼女との会話はどこか息苦しい。
アーリン嬢はとても穏やかで可愛らしいご令嬢なのだけど、彼女の言葉は少し痛いものがある。
「アルヴィス殿下、剣術を始めたのですか?」
「ええ、始めたばかりですが…」
護衛の騎士が教えてくれている話をして、まだ始めたばかりで体力を付けているところだと話すとアーリン嬢は扇を広げながら口元を隠した。
「ジェイク殿下は、剣を持って直ぐに実戦形式で訓練されてると伺いましたわ」
「兄上は剣をとっても素晴らしいと聞いております」
「流石ジェイク殿下ですわ!アルヴィス殿下には到底無理だと思いますから無理をなさらないでくださいね」
とても穏やかに優しい口調だけれど、僕への嘲笑が混じっているのが分かってしまう。
アーリン嬢は兄上を慕っている様で、事ある事に僕と兄上を比較し、僕が下だと蔑みながら僕が落ち込むと嬉しそうな顔をする。
王太子であるジェイク兄上はとても優秀な人だ。
僕は文武のどちらでも兄上より勝るものは無いし、勝る気も無い。勝るものが火種になると教わって生きてきたから。
それでもアーリン嬢の様に、兄上と比較され劣っていると言われるのは…少し辛い。
アーリン嬢は王妃様から言われた婚約者だから、僕から苦言を呈してもアーリン嬢の後ろには王妃様がいてその苦言にはなんの意味もない。
何より、1度アーリン嬢に言ったことがある。
「その様に言われると悲しい」と。
するとアーリン嬢は泣いて怒った。僕がアーリン嬢の言葉を歪曲していると。
全ては僕の為に言っている事なのに!と怒鳴った。
そしてその後、母上と王妃様に呼ばれアーリン嬢が泣いて私に暴言を吐かれたと訴えていると。アーリン嬢に、謝罪する様にと。
母上にも王妃様にも言われ後日、僕は不服に思いながらも、王妃様に言われた手前アーリン嬢に謝罪をしたらアーリン嬢は優しい慈愛に満ちた笑顔で「許します」と言った。
まだ、僕が拙いから仕方が無いと。
この瞬間、この婚約は王妃様に管理されたもので、何があってもアーリン嬢には敵わない事を知った。
そしてアーリン嬢は僕の自尊心を損なう役目なのだろうと。僕が惨めな第二王子のままいる様に、と牽制されているのかもしれないってそんな卑屈な考えしか思い浮かばなくなった。
…………………
そしてアーリン嬢と婚約して2年が経った。
変わらずアーリン嬢は兄上を慕っていて、僕はこの2年で社交界でも無能のレッテルが貼られる王子になった。
麗しいピンクの髪を靡かせて、柔く微笑むアーリン嬢は誰が見ても可愛らしく庇護用を誘う。
そんな彼女が僕の話題になると、困った様に「誰にでも苦手な事はありますから。私はアルヴィス殿下がいて下さるだけで良いのです」と言うと、何とも健気に映るだろう。
そんな感じに僕は剣も、勉学も駄目な出来損ないだと、噂される様になった。
…事実、その通りなのだろう。
そしてアーリン嬢と話せば話すだけ僕の自尊心はすり減っていく。
「あら、アルヴィス殿下はそんな事も出来ませんのね。でも、仕方ありませんわね」
「アルヴィス殿下にも、出来そうな事を探してみましたの!刺繍など如何?あぁ、女がやるものくらいしか出来ないのでは無いかと思いまして…」
「アルヴィス殿下はまるでお姫様の様ですわね」
「誰もが何も出来ないアルヴィス殿下を厭っておりますわ」
「皆がアルヴィス殿下をなんて呼んでいるかご存知ですか?姫王子ですって」
「王家の色を宿しながらこんなにも何も出来なくて、なんて恥ずかしいのでしょう」
「王子と言う肩書きがあって良かったですわね!おかげで何も出来なくても生きていけますものね」
「私はアルヴィス殿下が無能と呼ばれていても大丈夫ですわ。それにしても、私以外アルヴィス殿下と話すのも嫌な様ですわね」
こんな言葉をこの2年間ずっと聞いてきた。
たまに兄上とローラ・アウイナイト公爵令嬢と僕とアーリン嬢の、4人でお茶会をした事もある。
「流石ジェイク殿下ですわ!アルヴィス殿下にはそんな事出来ませんもの!」
アーリン嬢は頬を染めて目を輝かせ兄上を誉めそやす。
兄上はその言葉を聞き何度も頷いて
「私と比べるなどアルヴィスが可哀想と言うものだ。アルヴィスもアーリン嬢に恥じぬ様に、励むといい」と言っていた。
僕とアウイナイト公爵令嬢はまるで空気で、兄上とアーリン嬢が婚約者同士の様な雰囲気で、ひたすらにアーリン嬢が兄上を褒める為に僕が比較して貶されていくお茶会だった。
アウイナイト公爵令嬢はまるで興味無さそうにお茶を飲むだけ。
アウイナイト公爵家の特徴である淡い青の髪と瞳で、この茶番に付き合うつもりは無いと言う顔をしている。
苦痛な時間が流れて、何とかやり過ごそうと飲んだお茶は何の味も感じられなかった。