俺、生まれ変わったら【毛糸】になってました…
……俺は、毛糸。
アクリル-100%、超極太サイズ、全長78メートルの、レインボーカラー。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、寒がりの男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、毛糸になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
寒がりの俺にマフラーを編んでプレゼントしてくれた女子がいて、一目ぼれしたのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…マフラーの暖かさだけは忘れられなかった。
マフラーを愛用していた事と、編んだ女子と縁が結べなかった悲しみだけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――うわぁ…難しすぎじゃん!!!
俺は、初々しい女子中学生に買われた。
見た目の良い先輩男子に夢中な、ピュアな女子だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
不器用な女子は手際が悪くてイライラするし、手汗で毛糸が湿って地味にダメージを与えてくるのだ。
うまくいかない部分ですぐに躓き、怒り出しては乱暴に編んで引きちぎる…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……見た目はどうであれ、完成して意中の男子の下に行くことができれば…それだけで御の字だ。
―――こんなもの!!
愛しの先輩に「こんなキモイのいらねぇ…」と鼻で笑われて、泣きながら怒る女子がいた。
怒り心頭で、ただただ一心不乱に、汚く仕上がった俺をほどいていった。
俺は願わずにはいられなかった。
「せめて、このままゴミ箱に突っ込むのだけはやめてくれよ…」
そう願ったのには、理由があった。
俺は今、昔愛して止まなかったマフラーと同じ色で同じ太さをしていて…忍びなかったのだ。
俺がマフラーを愛し続けたように、俺も誰かに愛されたかった。
一時とはいえ誰かから向けられた愛情に…すがり続けた事が、心をえぐり続けている。
……俺は結局、誰からも必要とされないのだろうか?誰かに、必要とされたい。
―――ジュンちゃん、この毛糸、おばあちゃんがもらって良いかい?
女子の祖母が、俺をもらってくれた。
俺はバザーで販売される、しおりの一部になれるらしい。
本に挟まれて誰かのそばで長く暮らす…、それもまたいいものだ。
俺の願いは…叶わない。
しおりは一切売れず、無料で配られることになった。
無理やり押し付けられたしおりは、ことごとくゴミ箱に突っ込まれていく。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
こちらのお話とわずかにリンクしております(*'ω'*)
https://ncode.syosetu.com/n5491ip/
なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
マイページはこちらです(*'▽'*)
https://mypage.syosetu.com/874484/
生まれ変わりシリーズはこちらです(≧▽≦)
https://ncode.syosetu.com/s7352h/