第75話:全てバレていた様です【後編】
それから数ヶ月かけ、調査を開始した。何分彼女に関する情報は少なく、捜査がかなり難航したのだ。それでもジュノーズ侯爵家にスパイ活動に優れたメイドを送り込み、彼女の部屋に盗聴器と盗撮機をセットした。さらに彼女がいつも身に付けているネックレスに、盗聴器を設置する事にも成功した。
その結果、やはり彼女は、元ディスウォンド侯爵令息の子供であることが判明した。さらに、僕と恋仲だと偽り、オリビアを他国に追い出す作戦まで考えているらしい。
「父上、あの女、こんなふざけた作戦を考えている様ですよ。僕からオリビアを奪おうとするなんて、許せない!早くこの女を捕まえて下さい!」
完全に頭に血が上った僕は、父上に迫った。
「落ち着け、レオナルド。計画を立てているだけでは、捕まえられない。もう少し様子を見よう。それに、お前とオリビア王女が深い絆で結ばれているなら、きっとオリビア王女はこんなバカげた作戦には乗らないはずだ。それとも、君たちの絆はその程度のものだったのかい?」
くっ!父上の言う通りだ。確かにオリビアを誘拐しようといしている訳ではないのだから、大した罪には問えないだろう。それに僕とオリビアの絆を確かめ合う、いいチャンスかもしれない。そうだ、きっとオリビアは、こんな作戦には乗らない。きっとすぐに僕に相談してくるだろう。
「分かりました、オリビアの反応も気になるところですし、このまま泳がせましょう」
父上に意見に同意した。
「ただ、この件は私から陛下と王妃様には報告しておこう。レオナルド、君も一緒に来なさい。とにかく、本当にオリビア殿下が、あの女の話に乗ってこの国を離れるかどうか、もし離れる事を決意したら、その時あの女を捕まえたらいいではないか。レオナルドとオリビア殿下は、深い絆で結ばれているのだろう?きっとオリビア殿下は、国を出たりしないよ」
そう言って僕の肩を叩く父上。
「分かってますよ、僕はオリビアを信じます」
後日、両親と一緒に王宮に向かうと、早速陛下と王妃様に報告をした。
「私の可愛いオリビアに、なんて酷い事をしようとしているんだ、この女は!やっぱりあの時、ディスウォンド侯爵家の血は根絶やしにしておけばよかった!」
案の定、頭に血が上った国王が怒り狂っている。そんな中、冷静に呟いたのは王妃様だ。
「子供を抱えながら、知らない国で生きるという事は、想像を絶する程大変な事なの。私はたまたま親切な人に、生きる術を教わったから、なんとか生活が出来たわ。それでも、侯爵令嬢として生きていた私にとって、本当に苦労の連続だった。時にはもう生きる事を諦めようかと思った事もあった。それでも、この子だけは…オリビアだけはとの思いで、必死に生きたわ。だから私、元ディスウォンド侯爵令息夫人の気持ちは、痛いほどわかるの。きっと彼女も、地獄の様な生活の中、必死に娘を育て上げてきたと思う。本当に並大抵な事ではなかったと思うわ。その証拠に、彼女が7歳の時に、病気で命を落としているのでしょう…そんな母親の姿を見た子供が、この国に…あなたや私に恨みを抱く事は、当然ではないのかしら?」
彼女も10年もの間、たった1人で必死にオリビアを育ててきたのだ。その言葉は、非常に重みがある。ただ嫉妬深い国王とは、訳が違うな。
「もしあの時、陛下が国外追放にしなければ、夫人はもちろん、メアリー嬢もそれなりの生活を送っていた事でしょう。罪もない夫人やメアリー嬢を苦しめたのは、間違いなく私達です」
父上がポツリと呟いた。国王も何か思う事があるのか、考え込んでいる。
「だからと言って、オリビアに何かしようだなんて…」
「陛下、大丈夫ですよ。オリビアは僕が守りますから。オリビアの事は、常に監視していますので」
「別にレオナルドに守ってもらわんでもいい!それで、これからどうするつもりなんだ?このまま、メアリーとか言う女を野放しにしておくのか?」
「今の状況では、こっちも動きようがありませんからね。まあ、オリビア王女に直接危害を加える様でしたら容赦しませんが、そんな感じではなさそうですし…」
「確かに、かつてアイーシャがシャリーにした様な方法で、オリビアちゃんを追い出す様ね。オリビアちゃんがその話に乗るかどうかがカギだけれど…」
チラリと僕の方を見る母上。
「とにかく、様子を見ましょう。それから念のため、オリビアには影の護衛を付けましょう。オリビアがどんな判断を下すか、僕は見守りたいと思います。もし、僕を裏切ったらその時は…」
「おい、レオナルド、オリビアに酷い事をするなよ。ただ…あの子はシャリーの子だからな…」
王妃様をジト目で睨む国王。父上と母上も、王妃様を残念な目で見ている。
「確かにあの子は私の子供だけれど、私みたいにバカではないはずよ!そうよ、きっと大丈夫だわ」
王妃様が慌てている。これからオリビアを見守ると言う方向で、話はまとまったのだった。
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「まさかこうも簡単に僕を捨てて、国を出る事を選ぶなんて、がっかりだよ…でも、それだけオリビアに対する愛情表現が少なかったという事だよね」
ニヤリと笑ったレオナルド様。その顔、怖いわ…
「それから、君が国を出るために準備したカバンと服には、居場所を特定できる機械と、盗聴器が付いていたんだ。知っていたかい?」
「まあ、いつの間に…」
「この場所にも先回りして皆で待っていたんだよ。君が思っている以上に、僕たちは全てを知っていたんだ。僕はいつ君が僕に相談してくれるのかずっと待っていたのに…君って子は!」
再び両頬をパチンと叩かれた。痛いけれど、さすがに反論できない。
「レオナルド、暴力は止めなさい。それにしても、まさかここまで王妃様と同じ様に、国を出る事を選ぶだなんて、血は争えないね」
「本当ね、シャリーもこうやって国を出て行ったのね。でも、アイーシャはシャリーを殺さなかったから、その点はアイーシャに感謝ね」
「何が感謝だ!そのせいで私は、10年もの間、シャリーを探し求めたんだぞ。それにオリビアの大切な幼少期も、一緒にいられなかったし!」
「オリビア、私もそれとなく止めたのだけれど、気が付かなかったかしら?あなたには私と同じ道は歩んで欲しくなかったの…あなた、これからある意味大変よ」
チラリとお母様がレオナルド様を見た。確かにこの後、大変そうだ。私は怖くて、レオナルド様を見る事が出来なかった。




