第74話:全てバレていた様です【前編】
ゆっくり私の方にやって来たレオナルド様、すっとしゃがみ込むと、そのまま両方の頬をバチンと叩かれた。
「痛い、何をするのよ!」
「何をするのよ!じゃないだろう?オリビア、君はここで何をしているのだい?」
「な…何って、メアリーと一緒に、卒業式の打ち上げを…」
シドロモドロになりながら、そう伝えた。
「こんなところで打ち上げかい?あんなガラの悪そうな男を連れて打ち上げだなんて、そんな悪い子には、厳しいお仕置きが必要だね」
怖い…怖いわ…
「あの…ごめんなさい」
小さな声で謝罪した。さて、どうやってごまかそうかしら?正直に話す事なんて出来ないし…
「はぁ~、オリビア、君がメアリー嬢に騙されて、僕に黙ってたった1人で国を出ようとしていた事、知っていたよ。そしてメアリー嬢が、この場で君を殺そうとしていたこともね」
ため息を付きながら、そう呟くレオナルド様。メアリーも目を見開いて固まっている。
「え…どういう事?」
全く状況が分からずに、キョロキョロと周りを見渡した。
「いいよ、すべて話してあげる。あれは僕たちの婚約披露パーティーの日だった。
~約1年前(レオナルド視点)~
王宮でオリビアの誕生日パーティーを終え、両親と一緒に家路に着いた。さすがに今日は疲れたな。ゆっくり休もう。そう思っていた時だった。母上に呼び出されたのだ。
「レオナルド、疲れているところ呼び出してごめんなさい。でも、どうしても気になった事があって。これ、見てくれる?」
母上が渡してきたのは、メアリー嬢がオリビアの誕生日プレゼントに渡した、ブローチだ。これの一体何がおかしいんだ。もしかして、変な機械が付いているのか?そう思ったのだが、そんなものが付いている気配はない。
「母上、このブローチが一体どうしたのですか?」
「これだけ見ても分からないわよね。それじゃあ、このイラストと比べてみて頂戴」
母上がどこかの家紋の様なイラストを2枚出してきた。すると父上が
「この家紋は…」
と固まっている。一体どうしたのだろう。そういえばこのブローチには、母上が見せてくれた2つの家紋が、折り重なるように描かれている。
「母上、この家紋がこのブローチに描かれていますね。この家紋はどこの家紋ですか?見た事がないのですが」
「1つは、ヴァーズ侯爵家、シャリーの実家の家紋よ。もう1つは…ディスウォンド侯爵家、シャリーの両親と弟を殺し、シャリーを隣国に追いやったアイーシャの実家でもある侯爵家の家紋なの…」
何だって?という事は…
「わざわざディスウォンド侯爵家の家紋を刻んでくるなんて…まさか彼女は!それにしても、よく気が付いたね」
「ええ、私、家紋を覚えるのが得意だったでしょう。だからオリビアちゃんの胸にこのブローチを見つけた時、寒気がしたわ」
だから母上は、あえてオリビアからこのブローチを預かったという訳か。
「父上、という事はシャリー嬢は!」
「まだ確定は出来ない。でも、アイーシャには子供がいなかったはずだ。ただ…アイーシャの兄でもある、侯爵令息は既に結婚していて、子供がいたはずだ。確か名前は…」
「メアリー…メアリーですわ。子供が生まれた時、私、お披露目の席に参加していましたの」
「メアリーだって!それじゃあ、彼女は…」
「でも、メアリー嬢は1~2歳年上のはずよ」
「年齢なんて、なんとでもごまかせる。確か侯爵令息は、父親と妹と共に、処刑されている。そして、その妻と子供は…」
「妻と子供はどうなったのですか?そういえば、その後の話は貴族界でもタブーになっていて、話には上がらないわ。確か実家でもあるモレッド侯爵家は、娘が帰ってくる事を許さなかったと聞いたわ」
「許さなかったのじゃない…帰れない様に、陛下が圧力をかけたんだ。あいつ、シャリー王妃を奪われた事を相当根に持っていてね。アイーシャと関係があると言うだけで、兄の嫁と子供を、縁もゆかりもない隣国に無一文で追放したんだ…」
「何ですって!そんな酷い事を!でも、あの人ならやりそうね…」
母上が遠い目をしている…確かにあの国王ならやりそうだ。
「もしその娘がメアリー嬢なら、もしかしてオリビアに危害を加えるために近づいた可能性があります!とにかく、一刻も早くオリビアをあの女から引き離さないと!」
「待て、レオナルド、まだそうと決まった訳ではない。とにかく、すぐに調査を開始しよう。それから、ジュノーズ侯爵家にスパイを送り込もう。本当に彼女がアイーシャの兄の子供なのかどうか、検証が必要だ。いいな、くれぐれも暴走するなよ」




