第66話:旅立ちに向けて準備を行います
メアリーと入念な打ち合わせをした後、いつもの様にレオナルド様と一緒に帰る。極力私からレオナルド様に触れる事は控えないと!そう思っても、後少ししか一緒にいられない。そんな思いから、少しでもレオナルド様の傍にいたいという思いもある。
お母様もきっと、こんな気持ちだったのだろう。ただ、お母様と違う点、それはお母様はただの勘違いだったという事だ。私もただの勘違いであってほしい。でも…
あのレオナルド様の愛の囁きを聞いてしまった今、そんな淡い期待はもろくも崩れ去っている。レオナルド様ははっきり言って、軽々しくあの様な言葉を口にする人ではない。それは私が誰よりも知っているのだ。
せめてお母様と同じように、最後にレオナルド様が私を抱いてくれたら…そんなふしだらな感情まで生まれてしまう。でもきっと、真面目なレオナルド様はそんな事絶対にしないだろう。
家に帰っても、出るのはため息ばかり。そういえばメアリーからは、クレティーノ王国へ行くように勧めていた。あそこは我が国とは隣接していないが、この国と文化が似ている為、住みやすいらしい。
せっかくなので図書館に向かい、クレティーノ王国について調べる。ただ…私、この国の事ってあまり知らないのよね。今までどんな時でも、誰かが傍にいてくれた。そんな私が、1人きりで暮らす事なんて出来るのかしら?
「はぁ~」
ついため息が出る。
「あら?オリビア、こんなところにいたのね。あなたが恋愛小説以外の本を読むなんて、珍しいわね」
私の傍にやって来たのは、お母様だ。
「お母様、あの、これは…」
「クレティーノ王国?ここはね、自然豊かないい国よ。お母様も少しの間、滞在していたの。と言っても、エレフセリア王国に向かう途中にちょっと立ち寄っただけだけれどね」
そう言って笑っているお母様。
「ねえ、お母様は国を出るとき、どんな気持ちでしたの?不安や怖さはありませんでしたの?」
「そうね…不安だったし怖かったわ。でも私は、かなり追い詰められていたから、もう国を出る事しか頭がなかったの。もう誰も信じられなくてね…お父様やレオナルド様の両親、他にもたくさんの人が、お母様を心配してくれていたのに。あの頃の私は、本当に浅はかで完全に思考が停止いていたわ」
遠い目をするお母様。
「オリビア、あなたは独りじゃない。お父様もお母様もシャルルもいる。もちろん、レオナルド様も。あなたの周りには、大切な人が沢山いるという事、あなたの為に命を懸けて動いてくれる人がいる事、その事だけは忘れないでね。そして、自分の行動に責任を持ちなさい。あなたはペリオリズモス王国の第一王女で、ミシュラーノ公爵家の嫡男、レオナルド様の婚約者なの。オリビアは賢いから、きっとわかってくれるわよね」
お母様の言っている意味が、正直よくわからない。ただ1つわかった事は、クレティーノ王国は自然豊かでいい国という事だ。
「さあ、もうすぐ夕食よ。早く行きましょう。そういえば、そろそろあなたのウエディングドレスが出来上がる頃ね。もうすぐお嫁に行ってしまうのね…私ね、何もかも嫌になって絶望して、途中で生きる希望を失いかけた時があるの。でも、その時あなたがお腹にいる事が分かったの。大好きなオーフェン様が、私に残してくれた大切な命。この子の為に生きようって、必死に生きていたのよ。オリビア、あなたは私の生きる希望よ。どうか幸せになって」
そう言うと、お母様が私を抱きしめてくれた。お母様、ごめんなさい。私…
何とも言えない気持ちになった。このままお母様に正直に話そうかしら?でも、そんな事をしたら、レオナルド様とメアリーが大変な事になる。
やっぱり、2人の幸せのためには、私はいない方がいいのよ!
「ありがとうございます、お母様。私、必ず幸せになりますね」
そう言って、作り笑いを浮かべた。
お母様、ごめんなさい…
親不孝な娘で、本当にごめんなさい。そう何度も心の中が呟いた。
その後はいつもの様に家族と食事をした。でも、正直どんな話をしたのか、あまり覚えていない。
そして数日後、私は隠し通路の確認を行った。当日手間取ってしまったら大変だ。メアリーに教えてもらった通り、図書館の一番奥の本棚を動かすと、地下に繋がる通路が出てきた。
本当にあったのね…
地下通路が。
でも、地下通路なだけあって、真っ暗で何も見えない。これは灯りが必要ね。今日は進むのは諦め、後日また確認をしよう。
そしてまた数日後、灯りを手に、地下通路を進んだ。薄暗く気味が悪かったが、それでもうまく外に出る事が出来た。そういえばメアリーが、必要な荷物はあらかじめ通路の出口にでも置いておいた方がいいと言っていたわよね。
今のうちに、持っていくものをリストアップしておかないと。
私の気持ちとは裏腹に、どんどん準備が進んでいく。それが辛くてたまらない。それでも、自分で決めた道なのだ。もう後戻りはできない。
そう、もう前に進む以外ないのだから…




