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第62話:私はどうしてこんなに弱いのでしょう

卒業前パーティー当日、今日もいつもの様に青色のドレスを身にまとい、準備を整える。あと2ヶ月もすれば、卒業する。


大丈夫、2ヶ月後にはメアリーとレオナルド様は、ほとんど関りが無くなるはずだ。そうよ、後2ヶ月の辛抱よ。


この2週間…というよりも宿泊研修以降自分の醜い感情を必死に抑えて生活をして来た。どうして私はこんなに醜い感情を抱いているのかしら?もしこんな醜い姿をレオナルド様が知ったら…考えただけで、恐怖で体が震える。


私にとってレオナルド様は、いなくてはならない大切な存在。そんなレオナルド様を失ったら、私はどうやって生きていけばいいの?


「殿下、出来ましたよ。先ほどから浮かない顔をされてどうされたのですか?」


心配そうに話しかけてきたのは、最近私の専属メイドになったリリアだ。まさか入ったばかりのリリアに心配をかけるだなんて…


「何でもないわ。そろそろ行くわね…」


リリアに笑いかけ、そのまま部屋から出て行こうとした。すると…


「殿下…あの…あまり思い詰めないで下さいね。何かあれば、陛下や王妃様、それにレオナルド様に必ずご相談ください!今の殿下を見ていると…かつての王妃様を見ている様で…」


「お母様を?」


「はい、実は私は、かつて侯爵家でシャリーお嬢様の専属メイドをやっておりました。ヴァーズ侯爵と夫人が事故死…いいえ、殺害されてからも、お嬢様のお世話係として、王宮で働く事になったのです。でもお嬢様がこの国を出て行ってしまってからは、ショックでメイドの仕事を休んでおりました。あの時のお嬢様の顔と、今の殿下の顔がなぜか重なってしまって…」


悲しそうに俯くリリア。まさか彼女がお母様の専属メイドだったなんて。


「ありがとう、リリア。でも、本当に大丈夫よ。もし何かあったら、皆に相談するから。決して勝手な行動はしないから、安心して」


極力笑顔を作り、リリアに伝えた。


「そうですか…それならよろしいのですが…」


「それじゃあ、行ってくるわね」


元気よく部屋から出ていく。すると、レオンルド様が待ってくれていた。


「今日のオリビアも本当に美しいよ。さあ、会場に行こうか」


私のおでこに口づけをしたレオナルド様が、そのまま馬車へと誘導してくれた。そして、学院へと向かう。


「オリビア、最近本当に元気がないけれど、大丈夫かい?」


ふいにレオナルド様がそんな事を呟いた。


「レオナルド様ったら、心配性なのだから。本当に何でもないのよ。ほら、卒業がもうすぐ迫っているでしょう。なんだか寂しくって…」


レオナルド様にだけは、私の気持ちに気づいて欲しくない。そんな思いで、必死にそう伝えた。


「…そうか…そうだね。でも、卒業して1ヶ月後には、僕たちの結婚式があるんだよ。だから、そんなにも悲しい顔をしないでくれ。メアリー嬢も君が望むなら、我が家に遊びに来てくれてもいいし」


メアリー…その名前に、反応してしまう。


「…ええ、そうするわ。色々とありがとう」


とにかく、後2ヶ月の辛抱だ。そう自分に言い聞かせて、学院のホールへと向かった。


ホールに着くと、既にたくさんの貴族やその家族が来ている。お父様とお母様、レオナルド様のご両親の姿もある。


「今年は1年生も参加しているから、すごい人だね。とにかく、僕から離れてはいけないよ」


いつもの様に、レオナルド様はそう言うと、私の手をぎゅっと握った。


しばらくすると、パーティースタートだ。話をしている人、料理を食べている人、ダンスを踊っている人、色々な人がいる。


私達も色々な貴族に捕まり、話しに花を咲かせた。


「オリビア、少し疲れただろう。休憩するかい?」


人が去ったところで、レオナルド様が気遣ってくれた。


「私はまだ大丈夫よ。そうだわ、一緒にダンスを踊りましょう」


ホールの真ん中では、楽しそうにダンスを踊っている人たちがいる。


「そうだね、踊ろうか」


嬉しそうに私の手を取ったレオナルド様と一緒に、ホールの真ん中にやって来て、音楽に合わせて踊った。やっぱりレオナルド様は踊りやすいわ。


「オリビアは、相変わらずダンスが上手だね。とても踊りやすいよ」


「あら、レオナルド様のリードが上手いのですわ」


こうやってレオナルド様と踊っていると、心が少し軽くなる。このまま穏やかな気持ちで過ごせたら…そう思いながら、2曲を踊り切った。


すると…


「レオナルド様、私とも踊って頂けますか?」


私達の元にやって来たのは、なんとメアリーだ。どうしてメアリーがレオナルド様にダンスに誘うの?もしかしてメアリーは…そんな余計な事を考えてしまう。


「ごめんね、メアリー嬢。僕はオリビア以外の女性とは、踊らないんだよ」


すかさず断るレオナルド様。


「あら、別にダンスはパートナー意外と踊っても問題はありませんわよ。ねえ、オリビア、私がレオナルド様と踊っても問題ないわよね」


笑顔で私に話しを振って来たメアリー。ここでダメだなんて言ったら、嫉妬深い女と思われてしまう。でも、正直レオナルド様とメアリーが踊るだなんて、絶対にイヤ…どうしよう…


悩んだ末…


「…私は構わないわ。隅で待っているから、踊ってきたらどう?」


気が付くと、そんな言葉が口から出ていた。イヤ…踊らないで…お願い、レオナルド様、断って!心の中で、悲痛な叫びが響きわたる。


「ほら、オリビアもそう言っているし、踊りましょう。それじゃあオリビア、レオナルド様、借りるわね」


「オリビア、必ず僕の見える範囲にいるんだよ。わかったね」


そう言って2人はホールの真ん中に行ってしまった。音楽に合わせて踊る2人。レオナルド様の軽やかなステップに完璧に付いて行くメアリー。時折楽しそうに微笑み合う2人の顔。見たくない、見たくないのに視線をそらすことが出来ない。


いつしか周りも2人に視線を送っている。そして音楽が終わると同時に、大きな拍手が沸き上がった。恥ずかしそうに頭を下げる2人。その姿は、まるで恋人同士の様だった。


私はただただ、幸せそうに微笑む2人を見つめ続ける事しかできなかったのだった。

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