第29話:入学式を迎えました
あっという間に2ヶ月がすぎ、いよいよ今日は入学式の日だ。初めて制服というものに袖を通した。
あまり派手すぎるといけないという事で、髪飾りは付けずにシンプルにハーフアップに結んでもらう。
よし、準備完了だ。
この国に来て以来、王宮の門へと向かう。門の前にはお父様とお母様、シャルルも待っていてくれていた。
「オリビア、その制服とっても素敵だわ。気をつけて行ってくるのよ」
「ありがとうございます、お母様」
「あねうえ、がんばって」
「ありがとう、シャルル」
お母様に抱っこされているシャルルを、ギューッと抱きしめる。すると、頬に口づけをしてくれた。なんて可愛いの!あっ、でも…
キョロキョロと周りを見る。よかったわ、レオナルド様はいない。
私はこの2ヶ月間、レオナルド様以外の人に抱き着いたり口づけをしたり、手を繋いだりしてはいけないと、徹底的に叩き込まれた。ついでに殿方には笑顔を向けてはいけない、必要以上に話してはいけないとも教え込まれている。
別に話すくらいならいいのでは…と思ったのだが、貴族の中には私を無理やり手に入れて、王家との関係を持ちたいと考える人もいるそうだ。とにかく、この国の殿方はとても危険らしい。そうレオナルド様に教えられたのだ。
レオナルド様曰く、”オリビアは世間知らずだから、僕の言う事を聞いた方がいい。オリビアの評判が下がれば、陛下や王妃様の評判をも下げる事になるんだ”との事。両親の評判を下げる訳にはいかないので、レオナルド様の言う事を聞こうと思っている。
さて、最後はお父様に挨拶をしないと。そう思ってお父様を見る。すると、なぜかものすごく悲しそうな顔をしている。そして
「オリビア、やっぱり学院に行くのかい?心配だ。そうだ、これを」
私をギューギュー抱きしめた後、胸にブローチを付けてくれた。私の瞳の色に合わせた、真っ赤なブローチだ。
「もう、お父様ったら。今日は半日で帰ってきますわ。それにこの派手なブローチはさすがに目立ちますわ」
そう言って取ろうとしたのだが…
「これは付けておきなさい。いいかい、君は私の娘なんだ。いつ何時悪い奴がオリビアを襲うか分からない。あぁ、やっぱり心配だ。私も付いていこう」
私の手を取り、お父様が馬車に乗り込もうとしている。
「あなた、いい加減にしてください。それにこのブローチ、撮影機能が付いた物でしょう。本当にあなたは。護衛騎士もいるし、貴族学院はセキュリティーがしっかりしているから、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。あなただって、そんな事は知っているでしょう」
お母様がすかさずお父様を馬車から降ろし、そのままシャルルを抱かせた。
「オリビア、心配性なお父様でごめんなさいね。急に王女になったあなたには、今まで不自由な生活をさせてしまったわ。だからせめて学院に在学中は、自由に過ごして欲しいの。このブローチも回収するわね」
そう言うと、胸に付けられたブローチを取り外したお母様。
「シャリー、それはオリビアを見守る為の大切な…」
「あなた、私だけでなくオリビアまでも監視するおつもりですか?あまりオリビアのプライベートに踏み込むと、そのうち嫌われてしまいますよ」
「オリビアが、私を嫌う…そんな…」
シャルルを抱きながら、フラフラと頭を抱えて倒れそうになっているお父様。
「もう、お母様ったら。私はお父様を嫌いにはなりませんわ。ただ…もう少し私を信じて下さると嬉しいです。それでは行ってきます」
お父様の頬に口づけをして、馬車に乗り込んだ。確かにお母様の言う通り、恋人から監視されるならまだしも、お父様に監視されるのはちょっとね…
ゆっくり走り出す馬車の窓を開け、両親とシャルルに手を振る。お父様が何かを叫びながら追いかけてくるが、お母様が必死に止めている。シャルルが生まれてからも、相変わらず私への愛情表現は変わらない。いや…むしろ激しくなったような…
それだけお父様が私を大切にしてくれていると言う事だろう。
なんだか朝から疲れたわ。それにしても、やっぱり立派な馬車ね。私1人しか乗っていないのに、6人くらい乗れそうだわ。
ふと窓の外を見る。
「わぁぁ、街ってこんな風になっていたのね。素敵だわ」
今までは丘の上から街を眺めていた。でも、今は眺めていた街を通っている。あっ、あれはケーキ屋さんかしら?あれは洋服屋さんね。凄いわ、この街にはたくさんのお店が並んでいるのね。それも人もすごいし!
初めて見る街並みに、食い入るように見つめ続けたのだった。




