第18話:憎んでいた女の子供なのに~レオナルド視点~
あの女が見つかってから、半年が過ぎた。どうやらまだ、あの女は部屋から出してもらえず、母上も会えていないらしい。
一生部屋に閉じ込められていればいいのに!と、僕はそう思っている。
そして僕だが、父上が家で過ごすようになってから、ちょくちょく王宮に連れて行かされるようになった。父上曰く
「レオナルドは次期公爵になるんだ。国王の補佐も公爵の大事な仕事だからな。今まで教えてあげられなかった事を、これからは私自ら教えたいと思っている」
との事。そして母上も、事あるごとに僕に絡んでくるようになった。正直迷惑以外なにものでもない。もう僕は10歳だ、今更ベッタリくっ付かれても、迷惑でしかないのだが…
まあ仕方ない、少しは相手をしてやろうと、大人な心を持って母上に対応してあげている。僕が優しくすると、母上は嬉しそうな顔をするのだ。母上の嬉しそうな顔を見るのも、悪くはないし…
今日も馬車に乗せられ、王宮に向かっている。
「レオナルド、悪いが今日は、貴族会議があるんだ。いつもの様に君も一緒に参加させたいのだが、生憎重要な会議でね。悪いが王宮で時間を潰していてくれるかい?そうそう、王宮の裏に丘があるのだが、そこから見る景色がとても綺麗なんだよ。今日は天気もいいし、景色を見に行くといい」
「分かりました」
それならどうして僕を連れてきたんだ。僕はあまり王宮になんて来たくないのに!そう思ったが、文句を言うのも面倒だったので、素直に返事をしておいた。
王宮に着くと、父上と別れ1人王宮内を歩く。そういえば、父上が王宮の裏に丘があると言っていたな。せっかくだから、行ってみるか。
そう思い、丘を目指す。すると
「殿下、危ないので降りて来てください。落ちて怪我でもされたら、どうなさるおつもりですか!」
大きな木の周りにいる数名の騎士が、木の上に向かって何か叫んでいる。一体何をしているのだ?
よく見ると、木の上の方に座っている令嬢の姿が。令嬢が木に登ったのか?それもドレスで…あり合えないだろう。あまりにも衝撃的な光景に固まってしまう。
すると、クルリとこちらを向いた令嬢。真っ赤な瞳と目が合った。赤い瞳に銀色の髪、間違いない、あの子はきっとシャリーの娘、オリビアだ!とっさに僕は背を向け、その場を離れた。でも、何を思ったのか、あの女は僕に「待って」と叫んで追いかけて来たのだ。
そしてあろう事か、僕の手を掴んだのだ。柔らかくて温かな感触が手に伝わる。とっさに令嬢が男の手を軽々しく掴んではいけないと注意した。
そんな僕の言葉を無視し、僕と友達になりたいと言って来たのだ。何なんだ、この子は!大きな瞳をクリクリさせ、僕に訴えかけてくる。そんな可愛い顔をして僕に訴えてもダメだからな!そもそもこの女は、にっくきシャリーの娘なんだ!
それでも一応王女、丁重に断りそのまま去ろうとしたのだが、再び僕の手を掴み、必死に訴えてくる。だから、軽々しく僕の手を掴まないでくれ!本当にこの子は…
結局オリビアに根負けして、少しだけ話をする事にした。それにしても、女の子がドレスで木登りなんて…そう思って注意したのだが、全く僕の言う事など聞く気配はない。
それどころか、一緒に木に登って景色を見ようと言い出したのだ。仕方なく僕も木に登る。すると、そこには美しい景色が広がっていた。父上の言った通り、ここから見る王都の街並みは本当に綺麗だ。
隣でオリビアも目を輝かせている。その時だった。オリビアが僕の名前を聞いて来たのだ。どうしよう…一瞬迷ったが「レオナルド」と名前だけ伝えた。すると、僕がミシュラーノ公爵令息と気が付いた様で、嬉しそうに話し始めた。
どうやら父上が僕の名前を話していた様だ。さらに、僕とずっと友達になりたいと思っていたらしい。そういえばこの子、王宮の外から出してもらえないうえに、母親とも引き離されていると聞いた。辛くはないのだろうか?そんな思いから
「君は、この国が嫌ではないのかい?今まで自由に母親と生きて来たのだろう。急に父親だと名乗る男が現れ、そして有無も言わさず連れてこられた。王女になる為の勉強を叩き込まれ、母親とも引き離されて…」
そう問いかけた。すると、首をコテンとかしげて、父親や祖父母、さらにメイドたちに優しくされて、自分は幸せだと言ったのだ。それも心底嬉しそうに。その笑顔を見た瞬間、何とも言えない気持ちになった。
僕は公爵令息として、何不自由ない生活を送っていた。父上は確かに傍にいなかったが、それなりに気に掛けてくれていた。母上だって、なんだかんだで傍にいてくれた。メイドも執事も、皆僕に優しくしてくれた。
それなのに僕は、ずっと自分が両親に相手になれていない不幸な少年だと思っていた。シャリーさえいなければと、会った事のない女性を恨んでいた。
でもオリビアは、急に王女にさせられ、母親から引き離されても、自分の置かれている状況に感謝し、幸せそうに笑っている。もし僕が彼女と同じ状況に置かれたら…きっと父親を恨み、今の不自由な生活を嘆くだろう…
そう考えたら、なんだか今までの自分が恥ずかしくなると同時に、オリビアの事をすごいと思った。僕も彼女の様に、前向きでいられたら、世界が変わるかもしれないとも…




