第17話:あの女が帰って来たらしい~レオナルド視点~
部屋で本を読んでいると、メイドが呼びに来た。どうやら昼食の時間の様だ。食堂に向かうと、笑顔の母上が目に入った。
「レオナルド、聞いてちょうだい。お母様の親友が見つかったのよ。娘がいるのですって。きっとあなたと同じ歳くらいね。レオナルド、今まで寂しい思いをさせてしまい、ごめんなさい。これからは、お母様もレオナルドにしっかり目を向けるからね」
そう言ってほほ笑んでいる。この人、何を言っているのだろう。今更目を向けられても…それに僕より、シャリーとかいう女の方が大切なくせに…
「今更目を向けて頂かなくても結構です。もう僕は9歳ですから。それから、いちいち僕にくっ付かないで下さい」
母上は軽くあしらい、さっさと食事を済ませた。悲しそうな顔をしている母上が目に入ったが、正直何とも思わない。そう、僕は完全に心を閉ざしてしまったのだ。
そして翌日、父上が帰って来た。
久しぶりに3人で夕食を食べる。
「それで、シャリーの様子は?」
「ああ、元気そうだよ。どうやら村の人たちに助けてもらいながら生活をしていたらしい。それからシャリー嬢の娘だが、オリビア殿下と言うらしい」
「オリビアですって…それって、オーフェン様とシャリーに子供が生まれたら、付けたいと言っていた名前じゃない」
「そうらしいね。オーフェンはすっかりオリビア殿下に夢中で、すぐに抱きかかえて離さないよ。私もオリビア殿下と話しをしたが、とてもいい子だった。髪と瞳の色はオーフェン似だが、顔の作りはシャリー嬢…いいや、シャリー王妃によく似ている、かなりの美人だな」
「まあ、そうなのね。私も早くシャリーとオリビアちゃんに会いたいわ。そうだわ、レオナルド、あなた、オリビアちゃんのお友達になってあげたらどう?だって、急にこの国に来たのだもの。きっと戸惑う事も多いと思うの」
「どうして僕が、その女の子供の友達にならないといけないのですか?とにかく、僕に面倒ごとを振るのはやめて下さい」
酷い事を言っているのはわかっている。でも、どうしても口が勝手に動くのだ。案の定、母上は悲しそうな顔をしていた。
「そうだな、レオナルドにはあまり合わないタイプの子かもしれないね。レオナルド、今まで寂しい思いをさせて悪かったね。これからは、私もずっと家にいるから。そうだ、また王宮に一緒に行こう」
「父上、気を使ってもらわなくても結構です。それでは僕はこれで」
さっさと食事を済ませ、自室に戻った。正直もうどうでもいい。1つ言える事は、もうシャリーとかいう女に振り回されたくないという事だ。もちろん、その女の娘にも!とにかく、その女に会わないようにしないと。
そう思っていたのだが…
「あなた、シャリーにはいつになったら会えるの?」
「それが、オーフェンが完全に病んでしまっていてね。“シャリーが逃げないように、しばらくは部屋に閉じ込めておく”と言って、部屋に鍵を掛け、メイドすら近づけないようにしているんだ。そのせいで、オリビア殿下も母親と会えずに、寂しい思いをしているらしい」
「そんな…オリビアちゃんにとって、シャリーは唯一頼れる存在なのに。そもそも急にこの国に連れてこられて、“あなたは王女です。これからは王女として生活しなさい“と言われ、ただでさえ戸惑っているオリビアちゃんに、母親まで取り上げるだなんて!オーフェン様は何を考えているの?」
「そうだね…オリビア殿下も時折寂しそうにしているよ。それでも、メイドたちの前では気丈に振舞っている様で、メイド長のクリアがオリビア殿下の事を随分と心配していた。オリビア殿下は非常に優秀な様でね、教えて事を次から次へと物凄い速さで吸収していくようなんだ。どうやらシャリー王妃が、オリビア殿下にマナーや勉強を叩き込んでいたらしい」
「シャリーはきっと、国に戻った時にオリビアちゃんが苦労しないように考えていたのね。シャリーらしいわ。それなら、せめてオリビアちゃんに会えないかしら?」
「それも厳しいね。オーフェンはオリビア殿下を溺愛している。シャリー王妃同様、王宮内から出さない様にしているよ。オーフェンは優秀でシャリー王妃によく似たオリビア殿下を、次期国王にしたい様でね。“絶対にオリビアを嫁には出さない!特に男になんて会わせてたまるか!”と言っているんだよ…本当に困った男だ。ただ、オリビア殿下は今まで平民として自由に生きて来たからね、外に出たいみたいで、うずうずしているよ。本当に可哀そうで…まるで狭い鳥かごに入れられた鳥の様だ」
シャリーとかいう女、閉じ込められていて娘にすら会えないのか。いい気味だ、散々僕たち家族に迷惑を掛けたんだ。狭い部屋の中で、反省しろ。娘だって、今まで自由に生きていたのだから、王宮の限られたスペースで、一生生きればいいんだ。
それに、どうやら国王は娘を男に会わせる事を嫌っている様だ。それなら、僕がオリビアとかいう女の友達役を押し付けられることもなさそうだな。あんな女の子供なんて、見たくもない。




