第16話:あの女のせいで【後編】~レオナルド視点~
おっといけない、こんなところで国王を観察している場合じゃない。急いで部屋に戻ると、父上が既に戻って来ていた。
「レオナルド、バルコニーに出ていたのかい?」
「ええ、王宮から見た外の景色が見たくて。ずっと外を見ていました」
父上たちの会話を盗み聞きしたことがバレては大変だ。極力冷静を装い、父上に伝えた。
「そうか…さあ、こっちにおいで。王宮を案内してあげよう」
父上に連れられ、王宮内を隅々まで案内してもらった。正直、王宮なんかに興味がない。それでも父上と一緒にいられる時間は、僕にとってかけがえのないものだ。でも…
父上はきっと、また近いうちにシャリーとかいう女を探すため、国を出るだろう。そう思ったら、何とも言えない気持ちになった。
家に帰り、久しぶりに3人で食事をした。食後は湯あみをし、ベッドに入る。でも…なんだか眠れない。少し体を動かすか。
そう思い、部屋から出て訓練場に向かおうと思った時だった。父上と母上の話し声が聞こえてきたのだ。
「それで、シャリーはまだ見つからないのですか?」
「ああ…手がかりもない。とにかく、もう少し範囲を広げて探そうと思っている。オーフェンも相当答えている様で、目が死んでいた」
「そりゃそうですわ。オーフェン様は、誰よりもシャリーを愛しているのですもの。シャリーだって、オーフェン様の気持ちを知っているはずなのに…どうして…ねえ、あなた。シャリーは生きているわよね。あの子、侯爵家でずっと育ったのよ。私達はドレスすら1人で着られないのに…シャリー…どうか無事でいて…」
そう呟くと、母上が泣き出してしまった。
「君の為にも、なんとかシャリー嬢を見つけ出すから、安心して欲しい。明日にでも、すぐにこの国を出るよ。セリーヌ、親友がいなくなって辛いのはわかるが、どうかレオナルドの事を、もう少し見てやって欲しい」
「私はレオナルドの事をしっかり見ているわ。あの子、とても優秀で大人びているから、大丈夫よ」
「大人びていると言っても、あの子はまだ7歳だぞ。ただでさえ父親が傍にいないんだ。母親の君が、もっとレオナルドを見てあげないと」
「分かっているわ…」
どうやら父上は、僕の事を気に掛けてくれている様だ。そしてシャリーという女は、母上の親友だった女で、侯爵令嬢だとわかった。
再び部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。そもそも、なぜ侯爵令嬢でもあるシャリーという女は、出て行ったのだろう…そのせいで、父上はずっと家にいないし、母上はその女の事ばかり心配して、僕の事を見てもくれない…
あの女さえ国を出なければ…
この日から僕は、シャリーという女を憎む様になった。あの女は、僕の家族を滅茶苦茶にした。絶対に許さない!
それにしても国王は、どうしてそんな女に執着するのだろう。
女なんて、どれも同じだ。僕は正直女になんて興味がない。それでも僕は、公爵令息だ。公爵家の為に、家柄の良い女を適当に嫁に貰い、世継ぎを産んでもらう。それが僕の仕事だ。
愛だの恋だのほど、くだらない事はない。現に国王は、シャリーとかいう女を愛したばかりに、あんなにもつらい思いをしている。いくら優秀でも女に溺れるなんて、愚かな人間がする事だ。
あの国王みたいには絶対になるものか!そう心に誓ったのだった。
そして月日は流れ、僕は9歳になった。相変わらず父上は家に帰ってこず、母上は上の空。この頃になると、僕はもう両親の愛情なんてどうでもよくなっていた。そう、僕はもう諦めたのだ。
父上も母上も国王も、ずっとシャリーという女に振りまわされればいいとさえ、考えている。そんな中、父上が血相を変えて帰って来たのだ。
「セリーヌ、シャリー嬢が見つかったぞ!!」
「シャリーが!あなた、それは本当ですか?それで、シャリーは無事なのですか?」
「ああ、エレフセリア王国の小さな村で、ひっそりと暮らしていた。娘が1人いるのだが、どうやらオーフェンの子の様なんだ。銀色の髪に赤い瞳をしていたから、間違いないだろう」
「まあ、それじゃあシャリーは、お腹に子供がいるうえで、国を出たの?きっと相当苦労したのでしょうね。ねえ、あなた、オーフェン様はこの事を知っているの?」
「いや、これから報告しに行くところだ。シャリー嬢が見つかったと聞いたら、きっとすぐにエレフセリア王国に行くと言い出すだろうからね。私も王宮に向かい次第、すぐにエレフセリア王国に向かう予定だ。向こうの国王陛下にも、あらかじめ連絡は入れてある。とにかく、準備を整えてからオーフェンに報告しないといけないと思ったんだ」
「そうだったの。あなた、一番に教えてくれてありがとう。シャリーが生きている…それも子供までいるなんて…あぁ、早く会いたいわ」
涙を流して喜ぶ母上。
アホらしい…
そう思い、僕はそのまま自室へと戻ったのだった。




