第13話:お母様が懐妊したそうです
「殿下、そろそろお部屋にお戻りください。レオナルド様も、もうすぐお父上がお迎えにいらっしゃいますよ」
木の下から騎士が叫んでいる。
「もう戻らないといけないのね。まだまだ話したりないわ。レオナルド様、また王宮に遊びに来てくれるかしら?」
「ああ、オリビア殿下がそれを望むなら」
少し恥ずかしそうにそう言ったレオナルド様。
「ねえ、私たちはもう友達なのだから、私の事はオリビアと呼んで。私もレオナルドと呼びたいところだけれど、生憎周りがうるさいから、様付けで呼ぶわね。それじゃあ、木から降りましょうか。降り方、分かる?」
「僕は、運動神経はいいんだよ。こんなの、簡単に降りられるよ」
そう言うと、スルスルと気を降りて行った。私だって、余裕で降りられるわ。
レオナルド様に続いて、私も木から降りようとした。すると、なぜかレオナルド様が、下で私を受け止めようとしている。
「私は1人で降りられるわ。木登りは得意なのだから」
「万が一オリビアが落ちて怪我でもしたら大変だろう。君は王女なのだよ。自分の置かれている状況を、もう少し考えるべきだ。それに、ドレスで木登りもどうかと思うし」
「もう、レオナルド様は口うるさいわね。まるでクリア見たい」
頬をプクっと膨らませて、抗議をした。
「君は見ていて飽きないね。明日また来るよ」
「それじゃあ、午前中は色々とレッスンがあるから、昼からこの場所に来てくれる?」
「ああ、わかったよ」
「ありがとう、それじゃあね、レオナルド様」
レオナルド様の頬に口づけをした。すると
「き…君は何を考えているんだ。く…口づけをするなんて、ふしだらにもほどがある!!」
レオナルド様が真っ赤な顔をして怒っている。
「あら、いつも私は、お父様に口づけをしているし、お父様もしてくれるわ。そういえば、お友達にしたことはなかったわね。ごめんなさい、最近お友達と接してなかったら、接し方を忘れてしまったわ」
ペロリと舌を出し、反省する。
「と…とにかく、僕以外の男性に…いいや、女性にも口づけをしてはいけないよ。わかったね!」
ん?僕以外?
「お父様にもダメ?」
「…陛下は…極力しない方がいいと思う…」
「わかったわ、それじゃあまた明日ね」
なぜか真っ赤な顔をして俯いているレオナルド様に手を振り、そのまま屋敷を目指す。すると…
「オリビア」
この声は、お父様だ。声の方を振り向くと、やっぱりお父様がいた。
「お父様」
ギューッとお父様に抱き着く。
「オリビア、頭に葉っぱが付いているよ。どこに行っていたのだい?」
「ちょっとお外で遊んでいましたの」
「そうか、あまり危ない事はしてはいけないよ。君は私の大切な宝物なのだから。さあ、おいで、夕食にしよう」
私の頬に口づけをすると、2人で手を繋いで食堂へと向かう。あっ、早速お父様に口づけをされてしまったわ。でも…これは仕方ないわよね。
その後、2人で食事をとる。
「オリビア、今日は何をしていたんだい?」
「えっと、今日は午前中レッスンを行い、昼からは裏庭の方に行っていましたわ」
「そうか、裏庭は特に楽しいところもないだろう。いいかい?あまり山の方には行ってはいけないよ。それから、間違っても王宮から抜け出そうなんて考えてはダメだ。もし抜け出したら、次は1週間、あのお部屋に入ってもらうからね」
あのお部屋とは、暗くて狭くて、何にもない退屈な部屋の事だ。
「あの部屋は嫌ですわ。でも、どうして王宮の外に行ってはいけないのですか?私も外の世界を見たいですわ」
「オリビアは美しいからね。悪い虫でも付いたら大変だ。それに、外には野蛮な人間も沢山いる。私はもう二度と、大切な人を失いたくはないんだよ…わかってくれ、オリビア」
切なそうに呟くお父様。そんな顔をされたら、これ以上は何も言えない。
「わかりましたわ。でも…もう少し大きくなったら、街に出してくださいね」
「ああ…わかっているよ。そうそう、お母様の事だが、実はお腹に赤ちゃんが出来たんだよ」
え…赤ちゃんが!
「それって、私に弟か妹が出来るという事ですよね。まあ、嬉しいわ。私、弟か妹が欲しいとずっと思っていましたの。それで、いつ生まれるのですか?」
「今妊娠3ヶ月だから、後7ヶ月後くらいかな。今はまだつわりが続いて苦しそうだから部屋にいるが、もうしばらくしたらお母様も部屋から出られるだろう」
どうやらお母様が妊娠したことで、お父様の気持ちも少し落ち着いた様だ。あと少しで、お母様にまた会えるのね。それに私に弟か妹が出来るなんて!増々楽しみになってきたわ。
「オリビアが喜んでくれてよかったよ。オリビア、こっちにおいで」
なぜかお父様が私を呼び寄せた。
「私は君が生まれてから9年もの間、君の成長を見守る事が出来なかった。それでも、誰よりも君を愛しているし、大切に思っている。だから、弟や妹が出来ても、私の愛情が変わる事はない。その事だけは、分かっておいてほしい」
真っすぐ私を見つめ、そう伝えたお父様。
「ええ、分かっていますわ。お父様、大好きです」
ギューッとお父様に抱き着いた。お父様も私を強く抱きしめてくれる。お父様が私を大切に思ってくれている事は、知っている。だから私は弟妹が出来たからって、お父様を取られるのではないかという心配はしていない。でも、お父様は違った様だ。
こうやって私を気に掛けてくれるお父様が、私は大好きだ。
「さあ、オリビア、食事の続きをしよう。そうだ、今日は私が食べさせてあげよう。膝においで」
なぜか私を膝に座らせたお父様。
「お父様、私はもう10歳なのですよ。1人で食べられますわ」
「わかっている。でも…食べさせたいんだ。これも親孝行だと思って」
「分かりましたわ。それじゃあ、私はお父様に食べさせてあげますわ」
こうして、親子で食べさせ合いっこをした。
お父様の愛情は、少し歪んだところがあるが、それでも私を大切にしてくれるお父様が私は大好きだ。これからもずっと、お父様の傍にいたい。強くそう思ったのだった。




