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吸血鬼ですが、何か? 第8部 発覚編  作者: とみなが けい
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保養所で昼食をとる俺達…岩井テレサの『助ける』と言う言葉の重みを思い知った。

「皆さん、お昼ご飯はまだでしょ?

 ここのカフェテリアは来訪者も利用できるスペースがあるのよ。

 良かったら食べて行ってね。

 ワイバーンの食事は私がおごるわ。

 それと…ジンコさん、良かったら月の調査をしている施設を見学する?

 スペースが狭いから少人数しか入る事が出来ないけれど、2~3人位なら大丈夫よ。

 私も今日はずっとそこにいるわ。」

 

ジンコは紅潮した顔をした。


「ええ!良いんですか!

 ぜひ見学したいです!

 真鈴!一緒に行こうよ!」

「そうね!ジンコ!

 あのテレサさん!

 私も一緒に見に行って良いですか?」


真鈴も顔を紅潮させている。


「もちろんよ!

 研究施設はここの山頂部分に有るわ。

 じゃあ、カフェテリアで食事が終わったら近くの職員に声を掛けて。

 それじゃあ皆さんごゆっくりお過ごしくださいね。

 ジンコさん、真鈴さん、後でね。」


岩井テレサは俺達に丁寧な挨拶をして去って行った。

リリーはこの施設の事も色々知っているようで席を立つと俺達をカフェテリアに連れて行ってくれた。


やはり海が見渡せる大きな窓に囲まれた広い場所に俺達は感心の声を上げた。


「うふふ、ここはねえ、実は食事がとても美味しいのよ。」


リリーは席に着いて俺達にメニューを渡した。

ランチタイムなので数種類のコースと言うか定食タイプのメニューだった。

メニューにはAとHの表記がしてある。

これは何だと聞いたらリリーは人間用のHと別物用のAだと答えたどうやら大食らい悪鬼用にボリュームが違うようだ。

見本の料理を写した写真はどれもおいしそうだった。

リリー、四郎と明石と喜朗おじ、圭子さんはAのメニューを頼んだ。


俺達はオーダーをした後で窓から見える景色を楽しんだ。

ガラスで仕切った向こう側は入所者が食事をするスペースのようで何人かの者達が食事をしていた。


俺はクラがあの若い女性職員と食事をしているのを見つけた。

若い女性職員も休憩中なのだろうか。

皆にも知らせようとしたが、クラと若い女性職員が仲が良さそうに食事をしているのを見て、加奈が失望するのでは無いかと思ってやめた。


ジンコが感心した声で言った。


「それにしてもここは凄いのね。

 月を調査する施設もあるなんて。」

「そうだねジンコ、さっきちらりと小さな天文台みたいなのが見えたけど、あれがそうなのかな?」


加奈が答えるとリリーが微笑んだ。


「あなた達、ここはかなり凄い所なのよ。

 例えばここから海まで直接アクセスできる通路とかまであるのよ。

 大型カートで地下通路を走ってすぐに船着き場まで出られるわ。

 この山の中はね全体がくり抜かれていて凄い地下施設が埋まっているのよ。」


明石が眉を上げた。


「リリー、それはまるで秘密基地みたいだな。」

「そうね景行、あまり細かくは言えないけれど…なんて言うんだろう、皆は判るかな?

 ウルトラセブンに出てくるウルトラ警備隊の地下秘密基地みたいになっているわ。

 決して大げさじゃなくてね。

 勿論、さすがに山が割れて戦闘機が発進するなんて事は無いけど。

 科学技術的にはずっと進んでいるわ。」


ウイルトラセブンを知っているワイバーンメンバーが感嘆のため息をついた。

勿論俺も再放送を見て興奮した口だ。


「それは凄いな…。」

「そうね喜朗、大規模災害の時に周辺住民を2000人ほど収容して2か月は面倒を見れる施設を作ってあるからどうしても大きくなっちゃったらしいわ。

 地上にある病院と老人ホームや孤児院を入れたらもう1000人ほど収容できるわ。

 もしワイバーンがこの近くで地震や津波に襲われそうになったらここに逃げて来てね。

 大災害の非常時には全ての避難する人に開放して受け入れられるだけ受け入れられるわよ。」

「それは凄いわね…いったいこの施設を作るのに幾らくらいかかったんだろうね…。」


真鈴が呟くとリリーは目をくるくるさせた。


「さぁ~、見当もつかないわね。

 ずっと前に私もテレサに聞いた事が有るけど、小さな国の国家予算位かな?とか言って笑っていたけどね。

 私には見当もつかない金額だろうけど、テレサはまだまだ私達は弱小な組織なのよと言っていたわ。」


俺はリリーの言葉を聞いて要塞化しつつある死霊屋敷が少し恥ずかしくなった。

何かあった時の周辺住民の保護収容なんて発想は全然なかった。

やはり岩井テレサは信頼が置ける存在だと改めて感じた。

その思想には何と言うか…愛を感じる。


「ところでリリー、あのつがいの悪鬼の釣り餌にされた女性だが、かなり立ち直っているようだな。」

「そうね四郎、あの子の名前は君島凛きみしま りんと言うのだけど、ここに収容された当時はちょっと不安定な所もあったけど、もうかなり回復しているわね…ただね…。」


四郎の問いに答えたリリーは眉を曇らせた。


「彼女も、凛もかなり立ち直ってここの職員として働き始めたんだけど…同じような苦しみをしてきた人たちのお世話をする事で少し参っているようなのよ。

 樹海の地下から助け出された信者達もここに収容されて洗脳解除と社会復帰のリハビリをして、その面倒も見ているんだけどね…この前、凛はあの人達を見ていて過去の辛い事を思い出して少し鬱っぽくなっちゃったそうよ。」

「…。」

「…。」

「…。」

「この前テレサと凛の事を話した時に、テレサは、あの子は誰か信頼できる人に預けて一般社会に出してやった方が良いかもなんて言っていたしね…。」


俺達は悪鬼に囚われて、悪鬼にされて奴隷のように扱われていた命が助かって良かった良かったと思ってそれで終わりだった。

だけど、決してそれで終わりじゃなく、その後にその人が人生を取り戻す為に色々と大変な事を乗り越えなければならないのだと痛感した。

その面倒を見るのも大変な事だと判った。


岩井テレサ達が『助ける』と言う言葉を、その言葉の重さを充分に理解したうえで言っている事に、『助ける』と言う言葉が持つ重い責任をしっかり受け止めている事に改めて頭が下がる思いだった。

俺は『助ける』と言う言葉の重みを改めて思い知った。

加奈はテーブルを見つめて複雑そうな顔をしていた。


「ただ命を助けるだけじゃ…まだまだその後が有るんだね…。」


加奈がぽつりとつぶやいた。


料理が運ばれて来た。

やはりAと表示されている食事はボリュームが人間用のHとは大違いだったが、圭子さんはきゃ~!と嬉し気に小声で叫んで料理に取り掛かっていた。

やはり、悪鬼の味覚で作った料理は物凄く美味しかった。

俺達は料理に大満足した。


「ここは美味しいものが出ないなんて言っちゃって失礼な事をしたわ~!」


満腹そうな真鈴が言い、俺達も同意見だった。

さっきクラが食べていたものは俺達と変わらない物だった。

保養所とは言え、病院食や介護職とは違い、レストランでも最高レベルと言える料理だった。


食後にジンコと真鈴は岩井テレサの月調査施設の見学に行く事になり、はしゃぎながら職員についていった。

後で真鈴のボルボで帰ってくると言う事で俺達は別行動を取る事になった。


残った俺達は保養所の広い庭を腹ごなしに散歩をしていた。

海からの風が気持ち良い。


凛が庭のベンチに腰を掛けて何か書類を読んでいた。

加奈が凛を見つけた。


「彩斗!」


加奈の声で振り向いた俺に加奈がRX7の鍵を放り投げた。


「私、真鈴やジンコとボルボで帰るわ!

 彩斗、運転して良いよ!」


そう言って加奈が凛の方へ走って行った。

皆が呆気に取られて加奈を見送った。

やれやれと思いながらも俺は海辺をRX7でドライブできることを喜んだ。

現実的に無理だけど、ユキを連れてくれば良かったと思った。

俺達はそれぞれの車に乗り込み、各自勝手なルートで死霊屋敷に帰る事にした。

俺は遠回りして、1人海辺の道をRX7で走った。

まぁ、最高の休日なのだろうな。

死霊屋敷に帰りついた時はとっくに日が暮れていた。








続く 


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