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吸血鬼ですが、何か? 第8部 発覚編  作者: とみなが けい
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岩井テレサと面会をして、アレクニド事件について判る所まで教えてくれた…月が…。

岩井テレサがテラスで待っていると聞いて俺達はまたテラスに行った。


岩井テレサがテラス席から立ち上がって丁寧に俺達にお辞儀をしてくれて、俺達は大いに恐縮した。


「ワイバーンの皆、今回は本当にご苦労様。

 そして、私達の読みが甘くて屋敷が襲撃を受けてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」

「いえ、あれは仕方ないと思います。

 こちらこそ護衛の人達が頑張って戦ってくれたからおかげで助かりました。

 護衛の方達に感謝をしてご冥福をお祈りいたします。」


俺が代表で答えると岩井テレサが恐縮した。


「いえいえ、護衛の者達はとても奮戦したけれど圭子さんを守り切れなかった。

 これは私の読みが甘かったの一言よ。

 本当にごめんなさいね。」


圭子さんが笑顔で岩井テレサに言った。


「とんでもないわテレサさん、私は悪鬼になって新しい人生が開けた感じなの。

 それに護衛の人達が居なかったら司も忍も…あんた達お礼を言いなさい。」


圭子さんが司と忍の頭を下げさせて岩井テレサにお礼を言うように促した。


「テレサさん、ありがとう。」

「テレサさん、ありがとう。」

「ほほ、可愛い娘さん達ね!

 こちらこそ、ありがとう。」


笑顔になった岩井テレサと俺達は席に座った。

やがて俺達に冷たい飲み物が運ばれて来た。


「今回はあなた達ワイバーンが参加してくれなかったらもっともっと被害者が出たと思うわ。

 共同作戦でアレクニドの都内の拠点を襲撃した対立組織も看過できないほどの被害を受けたらしいしね。

 皮肉な事にこちらの犠牲が少なくなった分、勢力の均衡が随分こちらの方に有利になったの。」


明石が尋ねた。


「その対立組織の被害はどのくらいだったのですかな…。」

「襲撃に参加した者の半分以上が、62パーセントが死亡したと言う事よ。

 かなり無茶な急襲を掛けたと思うわ。

 これでしばらくはお互いに争いを起こす余裕は無くなったわね。」


「テレサさん、あの樹海の地下には洗脳された人達が沢山いたけど、他の拠点には…やはりいたんですか?」


ジンコが尋ねると岩井テレサは苦い顔をした。


「ジンコさん、やはりかなりの数の洗脳された非武装の信者がいたわ。

 非武装で無抵抗で祈りを捧げるだけの…女子供年寄りがいたわ…沢山ね。

 でも…対立する組織は…全部…殺したそうよ…皆殺しに…。」


岩井テレサの言葉に俺達は絶句した。


「酷い…。」


辛うじて真鈴が呟いて口を押えた。


「そうね、私達の組織があの組織と相容れる事が出来ないのがこれではっきりしたわ。

 やはりあの組織は…。

 私も修行不足で嫌悪感を隠す事が出来なかったから向こうにも伝わったと思うわ。」

「そんな奴らが人類を支配すると大変な事になるな…。」

「そうね四郎、私もそう思う。

 そしてね、対立組織の結果報告を聞いた日本政府の者もね…奴らは対立組織の機嫌を損ねないようにか、いいえ、本心ではそんな洗脳された被害者達の面倒を見るのは負担だと思っていたようで、それは仕方ない事ですな、と言って薄笑いを浮かべたのよ。」


俺達は皆ショックを受けた。

ゆくゆくは人類を支配して悪鬼の世の中を作ろうとしている勢力と政府の者がそういう事で意見が一致するなんて…まるで自国民が何人死のうが自分の思いが遂げれば良いと思っている狂った独裁者と50歩100歩じゃないか…。

俺は引き続き持っていて欲しいと言われた特別捜査官警視正の身分証を遠くに見える海に投げ捨てたくなった。

こんな非情な事を許す奴らに加担したくなくなってしまった。


「私は危うく席を蹴って退出して全面的な戦いの準備をしようとさえ、一瞬思ってしまったわ…対立組織と腐った人でなしが牛耳る政府を滅ぼしてやろうとね…でも、性急にそんな事をしても私達はあまりに無力だしね。

 それに戦いを起こしたら今回の何倍、何十倍もの悲劇を引き起こしてしまう。

 だからぐっと我慢したわ。

 奴らの組織も私達と同様に政府から警察の身分証などの恩恵を受けているわ。

 あなた達も警察の身分証だからと鵜呑みにして信用しないように気を付けてね。

 私達はぐっと我慢して奴らと暫くは同じ道を歩むしかないのよ。」


岩井テレサは穏やかに諭すように俺達に話したが、その手はぎゅっと握りしめられていた。


「今はそれどころじゃない事態が起きつつあるしね…月の事を知っている?」


あ!とジンコが声を上げた。


「月の自転速度が変化して今まで私達に見せなかった月の裏側が見えつつあると言うことですか?」


「そうよ、ジンコさんでしたね。

 あなたの事は、あなたが私に聞きたい事が沢山あるとリリーから聞いているわ。

 そう、あの神秘的な、まだまだ全然解明されていない、それでいて私達の地球に最も近い場所にいる天体の事よ。

 いったい何がきっかけになってこんな事が起きたのか、誰も判らないのよ。

 ただね、私達の襲撃支援の低軌道衛星が機能不全に陥って一つが大気圏に突入した事は覚えているわね?

 そして巻き添えで、これはほぼ巻き添えだと私は思うけどカスカベルの乗せたヘリコプターがエンジン不調になって不時着した事も知っていると思うけど、私達が解析したらねあの思念の塊が確かに低軌道衛星に向けて放射されたんだけど、その軌道を計算したら、その思念の先にあったのが月だったのよ。」

「え…。」

「え…。」

「え…。」


俺達はいささかスケールが大きすぎる事態を説明されて混乱しながらじっと岩井テレサを見つめた。


「あくまでこれは仮説の域を出ないけど…あのアレクニドが放射した思念が一つの、何らかのきっかけになったのかも知れないわ。

 思念の力と言う面では私達が知っている中でも最強クラスのあの教団の悪鬼が放った思念。

 あれから月はほんの少しずつ自転速度を換えていてね。

 このままだと後10年足らずで私達は月の裏側を全部見える状態になるわ…それが何の意味を持つのか、まださっぱり判らないけれど、私達は月に注目をして調査を続けるわ。」


かつて岩井テレサが月に人類と悪鬼の存在の謎を解く何かがあるかも知れないと言っていた事を俺は思い出した。


「あの教団の事はまだまだ調査中なんだけど、やはり何年も前に狂った犯罪を犯した狂信的な団体がルーツのようだわ。

 地下で奴らが所持していたアサルトライフル。

 あれはあの狂った教団で製造しようとしていたアサルトライフルと同じものだったわ。

 信者の一人がリーダーになり替わろうと、あの太った長髪の気持ち悪い男になり替わろうとして失敗してね、何人かの信者を連れて密かに新しく教団を作ったのよ。

 そして自分は創始者と名乗ってね、勧誘と洗脳の手段はあの狂った教団よりも一枚も二枚も上手だったようね

 そして、創始者と名乗る奴はどういうきっかけか別物、悪鬼と体液交換をして別物になって無茶な合体を繰り返して強力な思念を手に入れたようだわ。

 地下の蜘蛛の化け物やワイバーンを襲撃したアリの化け物、四郎さんや明石さん、喜朗さんなら判ると思うけど、本来あそこまで変化できるようになるのは物凄い年月が必要なのよ。

 500年かかってもあそこまで変化できるのは中々、どころか殆ど居ないわ。

 しかもあの化け物たちは死んでも灰にならなかった。

 『若い者』だったのよね。

 そんな化け物を作り出したのはあの創始者と名乗る奴の思念の力かも知れないと思うわ。」

「奴らが何がきっかけか判らんが早急に事を起こして発覚が早かったから何とかなったと言う事か…。」

「そうね景行さん、奴らがもっと思慮深くて力を蓄えて機会を待っていたらどんな恐ろしい事態になったか…考えるだけで恐ろしいわ。」


はなちゃんが手を上げて岩井テレサに訪ねた。


「ところでテレサ、今回の襲撃リストにあの正体不明な者達がいる横浜の倉庫は入っていなかったじゃの。」


岩井テレサがため息をついた。


「そうよはなちゃん、あの集団は今の所正体不明なままよ。

 今回のカスカベル襲撃には関知していないと結論が出た事も有ってね、そして私達には今あそこを襲撃する余裕も無かったから。

 未だ監視中と言う所よ。」


まだまだ敵味方不明の集団がいるのだ。

今の日本には普通では存在さえ知られない様々な集団がいて裏であれこれ動いている事態に俺は悪寒が走った。

そんな思いをまったく気にしないと言うように、空では雲が徐々に姿を消し青い空が目の前に見える穏やかな海を見下ろしていた。

そして青い空にポツンと…月が浮いていた。

俺は月がじっとこちらを見つめているような気分になった。

月は現在0・03パーセントほど地球に裏側を見せているそうだ。






続く




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