あの子供殺しの外道の裁判が行われることが決まった…はなちゃんの違和感…そして俺達はクラのお見舞いに行く事になった。
スケベヲタク死霊リーダー達はぺこぺこと頭を下げて個室から出て行った。
店の方から歓声が聞こえて来た。
恐らくほかのスケベヲタク死霊達もかたずを飲んで結果を待っていたのだろう。
俺達はやれやれと苦笑いを浮かべた。
圭子さんがチェキを手に持ってひらひらさせた。
「やれやれ、こんな物で喜ぶんだからね~!
まぁ、司と忍が新しく通う小学校も歩いて30分以上は掛かるし、田舎で人通りが少ないから少しでもスケベ犯罪に巻き込まれる恐れはなくなったと言う訳ね…しかし、この地域はどうなるんだろう?
ここのスケベ死霊も全部あっちに行くんでしょう?」
なるほど、圭子さんの言う事も一理ある。
リリーが圭子さんからチェキを手に取って行った。
「この地域からスケベ死霊がごっそりいなくなるから、暫くの間は大丈夫だと思うわよ。
でも、ここでアルバイトをすると下半身が強く美しくなるのか…私もやってみようかな~?」
リリーがあの制服で!
俺の下半身が怪しくなりそうだ、鼻血が出るかも知れない。
「リリー、スカートの中を覗かれるのは大丈夫なのか?」
四郎がおずおずと言った。
「何よ四郎、相手は死霊じゃないのよ~!
実体は無いし別に見せたって減るもんじゃないしね~!
でも、スコルピオの女性メンバーを時々送り込もうかしら?
敏捷で強靭で美しい足を手に入れてヒップアップも出来るなら、うちの戦力アップにもなるしね~!
たぶん便秘とかの解消も出来るかも知れないわね~!」
喜朗おじが満面の笑みを浮かべた。
「リリー!
それはグッドアイディアだと思うぞ!
新しい店は広いから人手が足りなくなりそうなんだ。
『ひだまり』は下手に何も知らない人間のアルバイトを雇う訳にも行かないしな。
スコルピオの方から応援してくれれば助かるな!」
「じゃあ、試しに何人か週一ぐらいのシフトで入れてあげようか?
特殊トレーニングと言う事でね。」
「おお!
これはいくつかのサイズの制服を作るか!
うちは大歓迎だぞ!
勿論日給は弾むぞ!」
明石も微笑んでコーヒーを飲んだ。
「そうしてくれればホールの方の人手不足は解消できるかもな。
後はキッチンだな、当面忙しい時は圭子が入ると言っていたが…。」
明石の言う通りだ。
ここよりずっと広い新しい『ひだまり』でテラスも含めた客席が埋まるととても人手が足りないと心配していたのだ。
リリーも含めたスコルピオ女性メンバーがホールに入ってくれれば問題は解消だ。
だがしかし、キッチンはとても一人では賄いきれない。
せめてそこそこ料理が出来る人間がもう一人いれば…。
明石がリリーに尋ねた。
「ところでリリー、クラの様子はどうなんだ?」
「そうね、クラは可哀想な事をしたわ。
幸い身体の怪我はもうすぐ完治して後遺症の心配も無さそうなんだけど…心に深い傷を負っているようなのよ、かなり今もナーバスになっているわ。
クラはただでさえ辛い出来事の連続パンチの連打を浴びたような物だしね。
今は神奈川の保養所でリハビリもかねて生活しているわ。
岩井テレサの応援で来た特殊な部隊で心のケアに秀でたメンバーが面倒を見てるみたいね。」
「リリー、その特殊な部隊とはそんなに凄いのか?」
「そうよ四郎、入隊資格が半端じゃないわよ。
全員が歳古りた悪鬼で最低でも戦闘経験が300年以上、様々な経験が問われて入隊審査の体力テストもかなり脱落者が出るし、入隊してからも熾烈な訓練と世界中を飛び回って戦闘を続けている、精鋭中の精鋭だそうよ。
岩井テレサの組織の切り札みたいな存在ね。
この特殊な隊には固有の名称は無いの。
ただ単に『レジメント』日本語で連隊って呼ばれているわ。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「ここで入隊資格があるのは辛うじて景行だけど、入隊試験が物凄いらしいわ。
面接でも色々と質問が飛んで即座に答えられないとね。
科学的な知識や考古学的な知識からや哲学的な事まで質問されて色々な知識が求められるそうよ。」
「それは凄いな…到底受かる自信はないぞ、俺は遠慮しておくよ。」
「景行は四郎と共にワイバーン戦力の要だからここにいてもらわないと困るよ。」
俺が慌てて言うと明石は苦笑いを浮かべた。
「安心しろよ彩斗。
俺はここがホームでワイバーンはファミリーだからな。」
リリーが微笑みを浮かべた。
「そうね、ところでもう少ししたらクラのお見舞いに行かないかと岩井テレサも言っていたわよ。」
「うん、是非行きたいな。」
俺たち全員が行きたがった。
あの、純情そうなクラ。
樹海の地下に潜入して1人生き残ったクラ。
樹海の地下の戦闘では最先頭に敵に突っ込んで奮戦したクラ。
自分のチームのヤクルスと両親、そして、地下に一緒に潜入したカスカベルのメンバーを失ったクラ。
そして全くクラの責任ではないのだが樹海地下に潜入した時に『糸』をつけられてしまったクラ。
クラが受けた心の傷は想像出来ないほど深刻だろう。
「それじゃ、岩井テレサと話してスケジュールを調整するわ。
私、スコルピオが待機の日に入ったからこれで失礼するわね。
喜朗おじ。本当にホールの応援考えておいてよ。
私、何人かに声を掛けて見るわ。」
「リリー、助かるよ。
お願いするね。」
リリーは去り、俺達も死霊屋敷に戻り、新しい『ひだまり』の開店準備の為に椅子や棚などを揃えたり、明石一家や喜朗おじと加奈の新居の工事、そして待望のプールの工事を監督した。
夕方になり、一息ついた俺達は夕食の準備をする者以外、俺とジンコと加奈と明石とはなちゃんでテレビをつけて情報収集をしていた。
警察では機動隊を蹴散らせて大量虐殺をした挙句に封鎖を破ったアレクニド、未だに警察では謎の宗教集団と呼んでいたが、の残党のほとんど全てを確保、と言うよりも追い詰められて自殺をしたとの発表があり、国民は落ち着いて元の生活に戻るようにと呼びかけていた。
「逃げた奴らはクラの糸が付いた場所を襲って皆返り討ちに遭ったのじゃがな。」
はなちゃんがテレビを見ながら片手を上げた。
「そうね、はなちゃん、でも、警察で本当の事は言えないからね~!
あら?
あの外道、刑事裁判にかけられるようね。
あの歳で異例中の異例とは言えるけどやらかした事を考えればしょうがないわよね。」
テレビでブルーシートで遮られた向こう側に片足が義足でおぼつかない足取りながらあの子供殺しの外道が通り過ぎて行く映像を見てジンコがため息をついた。
「おや?なんじゃ?
あれはあの小屋で子供殺しをした外道なんじゃろか?」
「そうよはなちゃん、ブルーシートで目隠ししてるけどあの向こう側にあの外道が歩いている筈よ。」
「なんじゃろか?
感じが変わったと言うか?
奴は本当に人間だったのか?
変わったからじゃろか?」
はなちゃんの言葉を聞いて明石がテレビの画面を見つめた。
「俺には判らないな…。」
「う~ん、わらわは何か…奴に変な感じがするじゃの。」
「はなちゃん、脅かさないで欲しいですぅ~!
加奈はこの前はなちゃんがクラを見た時の事を思い出したですぅ!」
確かにはなちゃんがあの外道をブルーシート越しに見た時の違和感が不吉に思えた。
ジンコは画面を見ながら呟いた。
「私にも何にも判らないけど…ちょっと探る必要があるかもね…。」
「確かにそうかもな…。
時間がある時に奴がいる場所をはなちゃんを連れて遠くからでも良いから見てみるか?」
明石が提案をして俺達は頷いた。
奴は厳重に収監されているし片足を切断して義足だからあまり心配はしていなかったが、この前のクラの糸の事も有るし、はなちゃんの印象を無下には出来なかった。
「公判を開くならせめて私達で傍聴券を取ると言う事も出来るわよ。
何人かで並んでね。
そして、最小限の武装も出来ない状態だけど、傍聴席からたぶん仕切り越しに奴を見る事は出来るわ。」
「そうだねジンコ、奴が何を言うのか訊いてみたいのは確かだよ。」
「私、パパにスケジュールを聞いて見るわ。
公判前に検察調べなどをしたはずだからね。」
ジンコの父親は次期検事総長とも言われている有名な検事でこの事件の担当をしている事を思い出した。
その後夕食になり、あの子供殺しの外道の話題が出た。
実際に奴を見た真鈴が食いついてきた。
「あのくそ野郎が何をどうやっても改心更生の望みなんて無いと思うけど、奴をもう一度見てみたいわね。」
「真鈴、私があいつを探る段取りを手配して見るわ。」
夕食後に電話が来た。
リリーからで、来週に岩井テレサがクラが収容されている保養所に行くのでワイバーンも一緒にどうぞと言う内容だった。
大勢で押しかけるのもと思ったが、全員がクラに会いたがっていたので、来週全員でクラが収容されている神奈川県の保養所にお邪魔する事になった。
続く