スケベ死霊軍団問題は解決した…やっぱり圭子さんは素敵な姉御だ!
3人のヲタク死霊。
これは『ひだまり』に巣くうヲタクたちの派閥のリーダーであった。
太っていて長髪にバンダナを巻き黒縁の眼鏡でTシャツを着たデブやはりTシャツの裾をジーパンに入れていて、丸めたポスターが突き出ているリュックを背負い両手には同人誌などが詰まった紙袋を下げている典型的なヲタクが出川哲郎の様な聞き苦しい声で自己紹介した。
「あの…拙者、ヲタ素浪人、暗黒の才蔵でござる…。」
景行が無表情の圭子さんに耳打ちした。
「圭子、奴らは死んでからそれまでの、生きていた頃のしがらみが嫌で好きな名前を名乗っているんだ。
そして話し方が…なんというか…それは見逃してやってくれ…。」
無表情の圭子さんが静かに頷いた。
暗黒の才蔵はしどろもどろになりながら圭子さんに挨拶をした。
「あの…圭子殿…此度は拙者たちを新しい『ひだまり』に向かい入れていただいて光栄至極に存ずる。
謹んでお礼を…。」
「まだ私は認めた訳じゃないよ!
このスケベ死霊ども!」
無表情だった圭子さんの顔が悪鬼へと変貌して一喝した。
3人のスケベ死霊がひっ!と小さく悲鳴を上げて固まった。
圭子さんの悪鬼顔を初めて見た俺は恐怖のあまり少しちびってしまった。
怖い怖い怖い!激辛焼きそばを食べた時の四郎の悪鬼顔のゆうに3・8倍はある怖い顔だった。
「圭子…ちょっと落ち着いて彼らの話を聞こうじゃないか…。」
明石が必死にとりなそうと圭子さんに声を掛けた。
「なによ!あんた達だって今まで共犯だったじゃないのよ!
…まぁ、話を聞くだけ聞いてやるわ。
でも、話次第じゃ、こいつら全員食い殺すよ…。」
圭子さんの声を聞いて俺は本格的にちびりそうになった。
そう、悪鬼はその気になれば実体がない死霊でも武器は効かないが直接噛みついたり引っかいたりして引き裂き、食い殺して無に出来ることだって出来ると、はなちゃんが言っていた。
死霊屋敷の地下にいた市蔵も何人もの死霊を食い殺してきた。
はなちゃんはその念動力で市蔵を地下に封じ続けていたのだ。
圭子さんの顔は徐々に人間に戻り、暗黒の才蔵はポケットからくしゃくしゃのハンカチを出して汗をぬぐいながらおどおどと話し始めた。
「確かに拙者たちは死してスケベ死霊となり申した。
生前も拙者たちの趣味嗜好を周りから認められず、からかわれウザがられ辛い目に遭い申したが、ここ『ひだまり』でやっと安住の地を得た思いでござる。
もう町中に出て意志が弱い奴らに憑りついて拙者たちの欲を満たすために利用しないと固く心に誓ったのでござる。
どうか『ひだまり』に、新しい『ひだまり』に拙者たちも連れて行って欲しいのでござる。
平に、平にお願いするでござる。」
そう言って暗黒の才蔵はあたまをさげ、他の2人も頭を下げた。
圭子さんはスケベヲタクリーダーたちをじっと見ていた。
「…ふん、どうやら改心はしているみたいだけどね…その隣!」
圭子さんに指名されて暗黒の才蔵の隣にいた、下駄を履いて腰に手拭いを下げ、古びた学生服を着た筋張った男が顔を上げた。
旧い時代の学生がかぶる角帽を取って頭を下げた。
「あの…吾輩は稲妻五郎であります。
吾輩たちは決して加奈様達に危害を加える気はありませぬ。
ただ美しい加奈様達を賛美して静かに鑑賞したいだけで有りまして…微力ながら加奈様達を、勿論圭子様達もお守りしたいと思っているのであります…。
どうか、新しい『ひだまり』に吾輩たちも連れて行ってくださると…。」
「ふん、あんた達に守られなくとも私達は充分に強いんだよ。
でも、『ひだまり』では大人しく加奈達を鑑賞すると言う訳だね。」
「その通りでござる圭子殿。
拙者が最初に『ひだまり』のスケベヲタク死霊連盟のリーダーになり、後から入って来た稲妻五郎のスケベヲタク連合親衛隊とかなり激しい抗争を繰り広げましたが、今回お互いに和解が成立して、もう一つの派閥、端っ子大連合と共に『ひだまり』に平和なスケベヲタクパラダイスを…。」
「その通り、吾輩たちは暗黒の才蔵たちとそして吾輩の横のシュタールの端っ子大連合メンバー達とも和解して平和なスケベヲタクパラダイスを…。」
「スケベヲタクパラダイスなんて私は知ったこっちゃねえけど、あんたたちは街に出て人間に悪さをするようにそそのかさないと言う事は約束できるんだね!」
3人のスケベヲタクリーダーが直立不動になり、はい!と声を上げた。
「ふ~ん、どうなんだろうか…吾輩と言う奴の隣!」
次に圭子さんは稲妻五郎の隣、まだ15~16歳に見える細くて気弱そうな、白いÝシャツに地味なグレーのスラックスのスケベ死霊を指名した。
「あの…あのあの…僕は…彗星のシュタールと言います…あの…端っ子大連合のリーダーで…あの…ここをみつけてから…あの…僕の人生は酷い事ばかりだったんですけど…僕をいじめた奴らに復讐しようと機会を窺っていたらここを見つけて…あの…素敵な女性たちがいて…仲間も初めて出来て…あの…。」
「なんかまだるっこしいわね~。
あんたまだ全然若いじゃないのよ。
どうしてその若さで死霊になっちゃったの?」
圭子さんが尋ねると彗星のシュタールの顔がゆでだこのように赤くなり俯きながらぽつぽつと話し始めた。
「あの…僕…学校でいじめにあっていて…その…ずっと我慢していたんですけど…あの…僕だけじゃなくて僕の弟まで標的にされそうになって…あの…いじめている奴らに弟には手を出さないように頼みに行ったら…その…お前が自殺したら弟には手を出さないでやると言われて…その…首を吊って…。」
圭子さんの顔が歪んだ。
「…それは…酷いわね…それでその彗星の…なんだっけ?」
「彗星のシュタールです…僕はあの…小説家になろうとしていて…その小説の主人公の名前なんですけど…首を吊ってから…弟が僕を見つけて泣きながら…凄い騒ぎになってママもパパも凄く泣いて…それを見て僕は奴らに復讐しようと思って…怨霊になろうと思って…そしたらここを見つけたら皆が僕に話しかけてくれたんです…そしたらみんなも辛い目に遭っていて…僕はここで生まれて初めて仲間が出来たんです!
誰も僕をバカにしないんです!
僕に良くスカートの中を見える所を譲ってくれたりしたんです!
皆良い奴らなんです!」
圭子さんはじっと彗星のシュタールを見つめていた。
リリーが圭子さんに話しかけた。
「ねえ、圭子さん、あの彗星の…シュ…。」
「彗星のシュタールです。」
「ああ、ごめんごめん。
シュタール君が言っている事は本当の事よ。
他の2人も生前は辛い目になっていたみたいね。
あの稲妻五郎は一番古いヲタクの先駆けみたいな存在で周りからかなりバカにされていたんだけど、ダンプに轢かれそうになった子供を助けようとして飛び出して子供の身代わりに死んだわよ。
私には見えるわ。
はなちゃんほどじゃないけどね。
そして暗黒の才蔵、彼は子供の頃から難病でね、親に甘やかされて育ったけど、ある時難病治療には物凄いお金が掛かっていて、親や妹はそんな事を暗黒の才蔵に決して悟られないようにしていたんだけど、家族はかなり困窮していて妹が高校に進学できそうにない事を知ってしまって申し訳なさのあまり自殺したわ。
自殺を選んだ事は認める事は出来ないけど、どうやら、悪い奴らじゃないみたいね。
みんな辛い人生を送って死んだ後も行き場が無くてうろうろしていて『ひだまり』に安住の地を見つけたようね。」
圭子さんが両手を組んでその上に顔を乗せ、一時期大流行したアニメの眼鏡の司令官の様な姿勢で3人を見つめていた。
「…あんた達、スカートの中を覗くだけなのね?」
「はい!拙者たちは大人しくスカートの中を鑑賞させて頂くだけでござる!」
「吾輩たちは美を!加奈様達の美を!美しくエロチックでありながら上品な足を鑑賞させていただくだけで幸せなんです!」
「僕は生まれて初めて出来た仲間達と和気あいあいとスカートの中を見るだけで幸せなんです!」
他の場所で普通の人間が言ったら周りから寄ってたかってぶん殴られて警察か病院に連れて行かれそうなことを3人は熱く叫んだ。
「ふん、ところでヲタクと言えばロリコンと言うイメージ有るけど、司や忍や小さい子供に変な事はしないんでしょうね?」
「拙者たちはあくまでも正当派ロリでござる!
年端の行かない子供には決して手を出したりしないでござる!
遠くから眺めてその健やかな成長する美を愛で、幸せを祈るだけでござる!」
「もしもロリ道を踏み外した不逞の輩が居たら吾輩たちは直ちに糾弾して追い出すつもりですぞ!」
「僕だって!
子供に変な事をする奴は許さないよ!」
「道を踏み外した奴がいたら問答無用で私が始末するからね…まぁ…あんたらが『ひだまり』にいる事で街の犯罪が減るならね~。」
3人の緊張が少しだけ緩み、俺達も希望が見えてきた感じがした。
「本当に覗くだけね?
触ったり匂いを嗅いだり舐めたり…。」
「しませんしません!
はっきりとマスターたちと盟約を交わしました!
そして集客にも最大限協力いたします!
新しい地で街をうろつく奴らも説得して『ひだまり』に連れて来て更生させます!」
圭子さんはため息をついた。
「じゃあ、仕方ないね新しい『ひだまり』に来ても良いよ。
許してあげる。
ただ、あまり私のスカートの中をしつこく覗いたら駄目だよ…それからなるべく私が歩く時は前を遮ってね。」
「…それは…拙者たちが行っても良いと言う事でござるか?」
「ああ、しょうがないね。
あんた達が来ても良いよ。
ただし、加奈達には絶対ばれないようにしなよ!」
「はい!命に代えても吾輩たちはばれないようにします!
ありがとうございます!」
「かたじけのうござる!」
「どうもありがとう!」
スケベ死霊リーダーたちは飛び跳ねて互いの体に抱きついて喜び、俺達はホッと胸を撫で下ろした。
「やれやれ、これで新しい『ひだまり』も安泰だな。」
喜朗が言い、俺達も頷いた。
リリーがにやにやしながら3人に尋ねた。
「あんた達、よかったわね~!
ところでさ、アイドルグループとかで「推し」っているじゃない?
あんたたちの推しって誰なの?」
3人は考え込んだ。
「拙者はやはり…加奈殿が…でもメンバーの中では真鈴殿もジンコ殿も人気が上がってきておりますの。」
「吾輩たちでも、やはりそんな感じだが、やはり吾輩はジンコ様…う~ん真鈴様も捨てがたいし…。」
「へぇ~人気が拮抗しているみたいね~!」
リリーが面白そうに笑いながら、ずっと俯いている彗星のシュタールに尋ねた。
「彗星…のシュタール君の推しは誰なの?」
「僕は…僕の一番の推しは…一番は…圭子さんです!」
俺達は圭子さんも含めてコーヒーを吹いた。
シュタール!彗星のシュタール!お前!空気読めよ!
圭子さんの旦那の明石もいる目の前でなんて事をぉ!
圭子さんが慌てふためき真っ赤な顔をして悲鳴のような声で尋ねた。
「ちょっとシュタール君!
あんたそう言う趣味なのぉ?
私は娘持ちで人妻なのよ!
歳だって加奈達より10歳も年上だし!」
「圭子さんは!圭子さんはただ一人学校で僕の事を心配してくれた先生にそっくりなんです!
僕は先生が大好きだったんです!
圭子さんも素敵なんです!
歳が上でも素敵なんですぅううううう!」
明石が顔に手を当てて俯いているが、どうやら笑いを押さえているようで少し安心した。
圭子さんは顔を真っ赤にして頭の天辺からぷしゅ―!と音を出しそうな感じでゆげが噴出しているように見えた。
「ま、まあ、圭子…純真な少年が憧れていると言う事でその、気持ち良く許してやれよ。
何せ相手は死霊で実体は無いしな。
俺の妻のスカートの中を覗く程度なら、それで圭子の足が美しくなるなら…今でも美しいよ!今でも美しいけどね!もっと美しくなればね!…俺は別に構わんぞ。
死霊にスカートの中を覗かれても俺はお前が好きな事に変わりないからな。」
「明石さん、ありがとうございます!」
彗星のシュタールが真っ赤に顔を紅潮させながらほぼ90度のお辞儀をした。
「ままままま…景行がそう言うのなら…相手は死霊だからね…座敷童のような存在になりつつあるし…スカートの中を見るだけだったら…それで足がきれいになるなら…ヒップアップするなら…。」
落ち着きを取り戻した圭子さんがコーヒーを飲んだ。
どうやら『ひだまり』繁盛の為のスケベ死霊軍団の存続に関しての問題は何とかクリアできたようだった。
そしてあの新しい制服姿…うひひ。
浮気じゃないよ。
だが…彗星のシュタールがとんでもない事を言い出した。
「あの!圭子さんに一生のお願いがあります!
僕と!僕と!一緒にチェキを撮ってください!」
…シュタール!彗星のシュタール!
お前本当に空気読めよ!
「あの…僕は他の皆のように人間を呼び寄せる事が苦手で絶対にチェキ撮影権は手に入らないと思うんです!
だから!だから思い出に一枚だけ圭子さんとチェキを!」
明石夫婦は顔を見合わせた。
「…どうする圭子?
まあ、圭子が良いなら俺は別に…チェキを撮るだけだろ?」
「…んもう~しょうがないわね~!
シュタール君のお願いを聞いてあげるよ!
散々辛い事を経験してきたんだからね!
喜朗おじ!
もう私の新しい制服出来てるんでしょ?」
圭子さんの声を聞いて他の2人のスケベ死霊リーダー、漆黒の才蔵と稲妻五郎も彗星のシュタールの肩を叩いて祝福していた。
こうして栄光ある最初のチェキは新しい制服を着て少し引きつった笑顔の圭子さんと信じられないくらいの笑顔の彗星のシュタールが二人でハートを形作ったポーズの物になった。
人間が見たら圭子さんの片方のハートを作った姿の隣が不自然に空いているようにしか見えないがそこには死霊の彗星のシュタールが笑顔でもう片方のハートを作り、写っているのだそうな。
続く