遂に圭子さんにスケベ死霊の事を打ち明ける…笑顔のまま凍り付く圭子さん…怖いよ。
それから数日、俺達は忙しい時間を過ごしながら夜になるとガレージに集まりプレゼンの練習をしながら圭子さんにスケベ死霊軍団の事を説明する機会を窺っていた。
アリの怪物に壊された入り口ゲートは新しく頑丈に作り直され、業者は戦車が突っ込んできてもある程度持ちこたえると太鼓判を押した。
万が一突破された時に備えて雨風を防ぐ箱を作りその中にヲタ地雷を入れて地下にケーブルを伸ばして屋敷やガレージから入り口ゲートに向けて爆破できるようにした。
これで万が一、入り口ゲートを突破して悪鬼達がなだれ込んできてもその先陣は粉々に吹き飛び、ベアリングの雨で引き裂かれる事だろう。
新しい『ひだまり』の内装工事もほぼ終わり、2階部分にある住居部分も広い個室が3つ出来て、加奈や喜朗おじも屋敷の敷地内の家が建つまでそこにいるか時々屋敷に泊まりに行くと言う目途が立った。
鉄筋コンクリートを使う工法で明石一家の家も喜朗おじ達の家もプールも年内に完成すると言う事だ。
クリスマスまでには完成披露が出来そうで、明石と圭子さん、四郎とリリーの結婚式は1月に行う事が出来そうだ。
俺達ははなちゃんに近くに質の悪い悪鬼がいるか尋ねたが、不思議な事にアレクニド騒動の後はめっきりと質の悪い悪鬼の数が減ったようだった。
少なくともこの近辺では悪い奴がいないと言う事で、俺達は暫く悪鬼討伐を休んで訓練を続けながら捜索範囲を広げようと言う方針になった。
コーディネーターから連絡が来て警察庁の身分証明証はそのまま持っていてくれと言われた。
どうやら似たような事件が起きた時に警察単独で対処出来ないのでそのまま協力をしてくれと岩井テレサに泣きついたとの事だった。
と言う訳で今も俺は警察庁特別捜査官警視正のままだった。
9月も中旬になり、『ひだまり』が明日定休日と言う事で俺達は圭子さんにいよいよ移転が近づいた『ひだまり』の事で相談したい事が有るからと定休日の『ひだまり』に呼び出す事にした。
俺と四郎、喜朗おじと面白そうだから見物&圭子さんの説得に協力すると言うリリーが『ひだまり』に待機して何も知らない加奈に新しい制服を圭子さんに見せるからと、ちょっとリニューアルした制服姿で控えてもらう事にした。
もっと思い切ってスカートを短くして加奈達の美脚を見せたいと言い張る喜朗おじを何とか説得して、心持短めでフレアーの広がりをふやし、胸元をほんの少し広げた絶妙な制服になった。
エロい中に清楚ささえ感じる上品な制服に俺達は満足した。
そしてスケベ死霊達にも俺達が合図をするまで姿を現すなと言い含めた。
奴らは『ひだまり』の裏でじっと合図を待っていた。
やがて明石が圭子さんをレガシーに乗せて『ひだまり』に来た。
個室で緊張しながら待っている俺達の前に明石と圭子さんが現れた。
「みんな元気?
あら、リリーも来ているの?
お久しぶりね~!まだ少し暑いわね~!」
俺達は圭子さんや自分達の為に冷たい飲み物を用意した。
「あ~!
レモンスカッシュが美味しいわ~!
ところで移転に関して相談をしたいと言っていたけど…。」
口火を切る事は喜朗おじに決めてあり、細かい説明は俺がして四郎や明石、リリーが補助をすると言う段取りはつけていた。
「ゴホン、圭子さん、いよいよここも引き払って新しい『ひだまり』に移転する時が近づいているのだが…。」
「そうね。
だけど…あんな辺鄙な所で大丈夫なの?
お店自体はここより広くて素敵に思えるけど…正直に言って私は少しだけ不安に思っているのよね~。
景行は絶対大丈夫だと言ってるけどね。」
そう言って圭子さんはまたレモンスカッシュを飲んだ。
「そこなんだがな、俺達には新しい『ひだまり』も絶対に繁盛すると言う根拠があってだな、だが、その根拠に少しだけ…いやなに、実害は無いし商売繁盛以外にもすごく有益な事なんだが…何と言うか…少しだけ…その…。」
喜朗おじが口ごもってしまい、圭子さんが不思議そうな顔で喜朗おじを見つめた。
ここは俺が説明しないといけないのだろうか。
「ゴホン、ここからは俺が説明しますね。
圭子さんは経理も見ているからご存じだと思うけど、ある時からぐんぐん『ひだまり』の売り上げが上がってきたのはご存じですよね?」
「ええ、私も不思議に思ったんだけど、ある時から急に売り上げが上がって来たわよね。
お客の回転率は落ちているのに客単価が上がっているし、新規のお客が増えたしリピート率も上がっているわ。
加奈の魅力かな~?と思ったり、喜朗おじの料理は凄い美味しいからかなと思ったり、壁に飾ってある本物の武器が独特の雰囲気を作って人気が出たのかな~とか思ったけど…それだけじゃね~。」
「圭子さん、その通りです。
勿論加奈達の魅力もあるのですが、『ひだまり』が繁盛している原因は他にも有るんです。
そして、その原因こそ俺達が『ひだまり』移転を決める決定打になったと言う訳なんですよ。
だから俺達は『ひだまり』が移転しても絶対に繁盛すると、これからも安定的に『ひだまり』は繁盛すると結論を出したんです。」
「ええ?
そんなに商売繁盛の原因があるの?
凄い事じゃないのよ!
なぜ今まで私に言わなかったのよ~!
ここが繁盛しても、いつ売り上げが落ちるか結構ひやひやしていたのよ~!」
「すまんな圭子。
圭子が人間で死霊が見えないので説明してもな、と思っていたんだ。」
景行が少し言いにくそうに圭子さんに言った。
「え?死霊がらみの事なの?
それってあの、座敷童みたいな存在が居るっていう事?」
座敷童か…住み着いた家を繁栄させると言う貧乏神の反対のような存在だが、確かにあのスケベ死霊達はスケベなヲタクに姿を変えた座敷童軍団のような物じゃないだろうか。
全然可愛くないけれど…。
「そうですね圭子さん、確かに座敷童のような存在かも知れません。
ただちょっと…。」
「なあに彩斗君?
ただちょっとって、何の事?」
説明に困って口ごもる俺にリリーが助け舟を出した。
「あのね圭子さん、ちょっとビジュアル的に問題があるみたいよ。
死霊が見えるようになってからあまり時間が経っていない圭子さんが慣れる迄すこ~し時間が掛かるかもね~。
ただ、メリットはあるけど実害は無いみたいよ~。
彩斗君、商売繁盛以外のメリットも教えてあげなさいよ~。」
リリーがそう言って微笑むとアイスコーヒーを飲んだ。
「ええ、そうなのリリー?
彩斗君、その他のメリットって何?
凄く知りたいわぁ。」
「あの、色々メリットがあるのですが、大きく分けて3つあります。
1つは『ひだまり』の業績が景気や疫病などの影響を受けることなく繁盛を続ける事。」
「うん、それは非常に大事な事だね~!」
「次に、これも凄い事なんですが、あの…『ひだまり』がある地域のその…痴漢とか盗撮とか覗きとか下着泥棒とかのスケベ…そのスケベな犯罪が激減すると言う事です。
実質この地域でも8割のスケベ犯罪が減少しています。」
「……ええええ!
それって凄い事じゃないのよ!
性犯罪が8割も減るなんて!
それって本当の事なの?」
俺はパソコンを開いて犯罪統計の画面を圭子さんに見せた。
圭子さんがレモンスカッシュを飲みほして画面を見つめ、喜朗おじがお替わりのレモンスカッシュを作りに行った。
「これは…たしかに性犯罪が激減してるわね…しかも、『ひだまり』が繁盛してくる時期と一致してるわ…素晴らしいじゃないのよ!
司や忍の安全性も高くなると言う事ね!
…でも…いったいどういうからくりなの?
それって死霊が関係しているっていう事?」
「まあまあ圭子さん、それについての説明はあとで詳しくお教えします。
そして3つ目のメリットは、ゴホン!…あの、最近加奈や真鈴、ジンコの足が…ゴホン!ゴホン!凄くきれいになったと思いませんか?」
「あらなに、彩斗君、ユキちゃんと言う恋人が出来たのにスケベなのね~!
まぁ、若い男はしょうがないとは思うけどね…ん?
確かに最近、元々足がきれいな加奈達だったけど…確かに引き締まって来たけど決して変なムキムキ足でもない素敵な足になって来てるわよね~!
この前の撮影で彩斗君の質問にもあったようにきれいにヒップアップしてるしね。
私、あれから加奈達に聞いたけど特にこれと言って何もしていないと言ってたけど…。」
「そう、それも死霊がもたらしたものですよ圭子さん。」
「…え?」
「そうだぞ圭子、見た目がきれいな足になっただけじゃ無いんだ。
加奈達は俺も驚くほどの敏捷性と持久力を手に入れている。
恐らくあの足がきれいになった事と関係あると断言できるな。」
「景行…それは本当の事なの?
それって、もしかしたら私も『ひだまり』にアルバイトで入ればきれいでヒップアップして敏捷さと持久力がある足を手に入れられると言う事なの?」
「その通りなんだよ圭子。
彩斗、あれを見せてやれ。」
俺は景行に言われてジンコの足がきれいに均整がとれた足に変化した事を解析した画面を見せた。
そして、数日前に撮影したインタビューの切り抜きで加奈や真鈴、ジンコが自分でも足が細くきれいになりながら、敏捷性や持久力が付いた事を言っている画面を見せた。
「凄いわね…いったいどうして…。」
圭子さんが画面を見つめて呟いた。
『ひだまり』商売繁盛のデータと地域のスケベ犯罪激減のデータよりも食いつきが良い感じだった。
俺達は手ごたえを感じた。
俺は次にはなちゃんにインタビューした『霊体を通り抜ける時』と言う動画を見せた。
「凄いわね…つまり知らず知らずに加圧トレーニングをしていると言う事か…。」
「そうね圭子さん、岩井テレサも言っていたけれど、死霊の霊体を通り過ぎる時は細胞レベルですれ違うから外部からの圧力なんかよりも体の深い筋肉とかに作用するからそういう効果はあると言っていたわ。
つまり通販とかのトレーニングの機械とは全く別次元で効果があると言う事なのよ。」
リリー!ナイスフォロー!
「そんなに凄い事がここで起きていたなんて…要するに加奈達の足元にいる座敷童たちを通り過ぎる時に細胞レベルで…もっと早く教えてくれれば私も沢山シフトに入ったのに~!」
何も知らない圭子さんが悔しそうに叫んだ。
「うむ、そうだな圭子さん。
圭子さんが人間でいる限りは全く問題なくシフトに入れたのだが…。」
「何よ四郎?
何か問題があるの?
私が悪鬼になったからこのトレーニングの恩恵を授かれないと言う事?
悪鬼の体はこのトレーニングを受け付けないの?」
「いいや違うぞ圭子。
恐らく悪鬼の方が新陳代謝が早いし老化もしないから、加奈達よりも早く効果が出ると思うが…一つ問題があってな…。」
明石がそこまで言ってから気まずそうな顔になり俺達を見た。
喜朗が決心を固めて口を開いた。
「ゴホン!ここまで説明したからには後に引けないな。
実際に加奈がどんな風に美脚を手に入れたのか見てもらうより外はないぞ。
圭子さん、飲み物のお代りはどうかな?」
「そうね、今度は暖かい飲み物が欲しいわ。
アメリカンコーヒーが飲みたい。」
「判った。
俺達の飲み物も頼むから加奈に持って来させよう。
そうそう、今度制服もリニューアルしたんで見て欲しい…多少見辛いかも知れんが…。」
「なにそれ?
足元に座敷童が沢山いるだけでしょ?
大丈夫よ~。」
「うむ、圭子さんが言う通り確かにあいつらは座敷童になったと言うしか無いな。」
「圭子、あくまでも見た目だけの問題なんだ。
奴らに害意は無いから、奴らを見ても決して驚いたり叫んだりしないでくれ。」
「何よ皆、大丈夫よ!
それにそんなにお店に利益をもたらしてくれているんだから見えるようになった私も挨拶位はしておかないとね!
景行ったら奴らなんて呼んだら失礼じゃないのよ~!」
圭子さんが無邪気に微笑んだ。
俺達はこれからの展開がどうなるのか息を呑んで待つしか無かった。
「お待たせしました~!」
新しい制服姿の加奈がお盆に俺達の飲み物を乗せて個室に入って来た…足元に大量のスケベ死霊を引き連れながら…。
加奈の方を振り向いた圭子さんの笑顔がそのまま固まった。
死霊が全く見えない加奈は足元のスケベ死霊の体を突き抜けながら俺達の前に飲み物を置いて行った。
加奈の奇麗な足がスケベ死霊の顔を突き抜けた時、その死霊が至福の呻き声を上げ、周りのスケベ死霊が羨ましそうな呻き声を上げた。
笑顔のまま凍り付いた圭子さんの顔が加奈の後を追っていた。
「この新しい制服、凄く素敵ですぅ~!
加奈は気に入りましたよ~!
きっと真鈴やジンコも気に入ると思いますぅ~!」
加奈がスカートの端を摘まんで少し膝を負った。
上等な生地を使い、丁寧な縫製で作られたその制服は申し分ない出来だった。
それは凄く可愛らしくそして上品ささえ感じる素敵な姿だった。
加奈の下半身に群がる死霊達でよく見えなかったが。
「それじゃあごゆっくり~!
制服のお披露目も済んだから加奈はこれから出かけますよ~!」
加奈が素敵な笑顔で言い、俺達はお疲れさまでした~!と加奈を見送った。
加奈がスケベ死霊を引き連れて個室を出て行った。
圭子さんは笑顔が凍り付いたまま加奈が出て行った個室のドアを見つめていたが、やがて凍り付いた笑顔のままでアメリカンコーヒーのカップを持ち上げて一口飲んだ。
カップを持つ手が小刻みに震え、カタカタと音を立てた。
俺達は息を呑んで圭子さんを見つめた。
リリーだけがにやにやしながら圭子さんを見ていた。
やがて圭子さんの顔から笑いが消えて段々と無表情になった。
「彩斗、スケベ犯罪が減った事など説明を、早く!」
俺はひきつった顔の明石に急かされてスケベ死霊が『ひだまり』で欲求が解消されているおかげで欲求不満になったスケベ死霊達が町中をうろついて意思が弱い男をそそのかしてスケベ犯罪に走る事を抑制している事を説明した。
圭子さんは黙って無表情に俺の説明を聞いていた。
次に喜朗おじがスケベ死霊のリーダー格の者達と話し合いを持ち、行き過ぎた行為などをしない事や、積極的に客を呼び込んだスケベ死霊には加奈達の中から希望する者と一緒にチェキを撮って壁に張る事など、俺達には見えないが死霊達にはチェキに映った自分が見えるらしいのだが、そんな感じでお互いにウィンウィンの関係を持つことを決めたと説明した。
圭子さんは無表情でまたアメリカンコーヒーを飲んだ。
重苦しい無言の時間が流れた。
喜朗おじがその沈黙に耐え切れずにスケベ死霊と取り決めた細かい事の説明を始めた。
「あのね圭子さん、あいつらと色々と取り決めをしたんだよ。
長い話し合いをしてね。
店以外で加奈達にまとわりつかないとか、スカートの中に顔を突っ込んで匂いを嗅がないとか、派閥同士で争わないとか、無用なおさわり禁止だとか、お客さんのスカートは覗かないとか、自分の体液をなすり付けないとか、スカートに顔を近づけるのは最低でも6・7センチの距離を置くとか、違反した者ははなちゃんの念動力で二度とここに戻れない場所に弾き飛ばすとか、ポイントがたまった奴は特別に10秒だけ手を握っても良い事にするとか…色々と粘り強く交渉を重ねて…。」
「そのリーダー格のスケベ死霊達をここに呼びな。」
圭子さんが静かに、しかしドスが効いた声で言った。
「え?」
「え?」
「え?」
「私がそいつらを見て話して信用に足る奴らかどうか見極めるよ。
さっさとリーダー格のスケベ死霊達を呼んで来なよ。」
そう言って圭子さんがまたアメリカンコーヒーを飲んだ。
「そうよね、リーダー格のスケベ死霊どもと話して、まあ面接と言うか、する権利は圭子さんに有ると思うわよ~!」
リリーも圭子さんの後押しをした。
俺達は顔を見合わせたが、やがて喜朗おじが、そうだな、必要な事だろう、呼んで来るよと言って個室を出て行った。
やがて、喜朗おじに連れられて、おどおどして挙動不信感満載の3人のスケベ死霊がお邪魔しますと小声で言いながら個室に入って来た。
続く