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吸血鬼ですが、何か? 第8部 発覚編  作者: とみなが けい
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…俺達はただスケベ死霊の加圧トレーニングで真鈴達の足がきれいになって敏捷性が上がった証言が欲しかっただけだったんだよね…。

「あんたたちどうしたの?

 彩斗君を胴上げとかしてさ~。」


突然圭子さんの声が聞こえて四郎達の手が止まり、落下した俺は後頭部を射撃台に当ててあまりの痛みに頭を手で押さえ、悲鳴を上げて床を転げまわった。


「いや、全員生還のお祝いで彩斗リーダーを讃えてたんだよ。

 なあ、四郎、喜朗おじ。」

「うむ、男同士で密かに祝おうと思ってな、彩斗、脳は大丈夫か?

 彩斗の脳は粗末な造りだから頑丈だとは思うが。」

「見たところたんこぶが出来ただけだな。

 とりあえず冷やそう。」

「ところで圭子、どうしたんだ?」


圭子さんがSR25を抱えている。


「寝る前にもう一度これの手入れをしようと思ってね。

 この大口径ライフルが無かったら司と忍も危なかったからね。

 命の恩人みたいな物だから。」

「圭子、それは良い心がけだな。

 そのライフルは構造上汚れやすいのが欠点なんだ。

 ボルトに発射ガスを直接吹き付ける方式だから今までのレミントンやサヴェージとは大違いだな。

 どれ、俺もまた手入れを手伝おう。

 汚れに気を付けるポイントを教えてやるぞ。」


景行が圭子さんのSR25を持って作業台の方に連れて行き、この隙に出て行くように俺と四郎と喜朗おじに目配せをした。

まだ頭がフラフラする俺の両脇を四郎と喜朗が支えて俺たちは暖炉の間に戻った。

真鈴達はそれぞれの部屋に戻ろうとしている所だった。


「あら?彩斗どうしたの?」

「大丈夫?」

「足がふらふらしてるわよ?」


真鈴が口々に俺を心配してくれた。

俺はソファに座らされて喜朗おじがキッチンに氷を取りに行った。


「なに、少し射撃台に頭をぶつけただけだよ。

 俺は大丈夫さ。

 ところでね、その内もしかして新しいメンバーが入ったり、岩井テレサに見せるかもと思って俺達の事を動画にしようと思うんだよ。

 簡単なメンバー紹介と活動報告みたいな物だけどね。

 まぁ、厳重に管理して外に情報が漏れないようにはするけど。

 そこで真鈴とジンコ、加奈にメンバー紹介のインタビューするのを撮らせてもらいたいんだけどね。

 明日撮ろうと思っているんだけど、いいだろう?」


真鈴達が顔を見合わせた。


「ちょっと何それ~?

 私達の動画を撮るの?

 まあ、別に良いけどね。」

「それは良かった!

 じゃあ、明日の朝起きたら頼むよ。」

「朝のトレーニングは?」


四郎がゴホンと咳払いをした。


「うむ、あの激戦を戦ったのだから特別に休みにしよう。

 こちらの方が急ぐからな。」

「え~、良いのそれで。」

「うむ、トレーニングしたい者は各自自主的にすれば良いだろう。

 われも早起きしてコースにテープを張るのも休みたいからな。」

「まぁ、四郎がそうしたいなら…1日ぐらい良いか?

 今日もあの騒ぎで朝のトレーニングしなかったけどね。

 圭子さんの動画も撮るの?

 じゃあ、圭子さんにも言っておくわ。」


真鈴達は納得したようでそれぞれの部屋に戻り、俺もたんこぶを冷やしながら眠りについた。


翌朝、俺はこの屋敷で初めて四郎のたらいとすりこぎと罵倒の声で無く、6時にセットした目覚まし時計で起きた。

後頭部に鈍痛が残ったが、まぁ、大丈夫だろう。

顔を洗い階段を下りてゆくと暖炉の間が少し騒がしかった。


何だろうと覗いてみると…真鈴達がビシッと決めた服装で互いに入念にメイクをしていた。

加奈などはどこから持って来たのかショートヘアの上にウィッグをかぶせてツインテールにしていて、普段は化粧っけが無くナチュラルイメージなのだが、ジンコと真鈴がやや過剰にメイクをしていた。

来ている服まで普段のラフなジャケットとTシャツ、ジーンズでは無くジンコか真鈴から借りたのかエレガントなワンピースを着ている。


加奈だけでなく、真鈴やジンコ、そして圭子さんまで別人のように着飾ってやや派手なメイクをしていた。

真鈴は頭の横のガーゼをはがし、上手く髪の毛をセットして傷を隠していた。

動画に映ると言うだけでこれだけ気合が入るのだろうか…女心が良く判らなかった。 

やはり着飾って気合が入った圭子さんがはなちゃんに頼んで念動力で照明機材のセッティングに余念が無かった。

どこにあったのか、三脚に乗った撮影用のライトが3つ、そして暖炉の間の隅にレフ板が何枚か置いてあった。

思い出した。

圭子さんはこの手の動画造りに目が無いのだ。

そう言えば前に、第5部21話の時、明石にやり過ぎなメイクをして真鈴の為に戦国時代などの事を説明する動画を映画監督の様に張り切って撮っていたな。


「あら彩斗おはよう!

 そろそろみんなの準備が終わるわよ。

 朝食食べると服が汚れるかメイクをし直さないといけないから先にインタビューの動画を撮っちゃおうよ。」

「あ…うん、そうだね。」

「みんな、コーヒーとビスケットで我慢してね、ルージュはまだやらないでおいてよ。」


圭子さんが言って真鈴達がは~いと答えた。


俺がキッチンに行くとコーヒーを淹れていた喜朗おじが俺に近寄り苦い顔をした。


「彩斗、なんか凄い騒ぎになっているぞ。

 圭子さんなんか暖炉の間に照明機材まで持ち込んでセッティングを始めているんだ。

 本格的なマイクや音声機材が無いとか嘆いていたな。

 ただ圭子さんにスケベ死霊の事を認めさせるために真鈴達の足が美しく引き締まり敏捷になったと言う証言が欲しいだけだったんだろう?」


四郎と明石もコーヒーを飲みながら頭を抱えていた。


「なんと言うか…われ達はちょっとしたことで凄い騒ぎになってしまう事が多いな…。」

「四郎、多いどころの騒ぎでは無いぞ多すぎると思うな…。」

「うん、そうだな、どうして俺達はこうなってしまうんだろうか…。」


警視身分証のじゃんけん騒ぎの時に先頭に立って大騒ぎしていた明石と喜朗おじも頭を抱えて苦い顔をしている。

いや、君たち全員がすぐにムキになってしまうんだよ、と言いたくなったが俺は我慢した。

確かに俺達は何の事は無い些細な事でもムキになり本気になり騒ぎになってしまう。

司と忍がキッチンに目を擦りながらやって来た。


「おはようみんな~。

 お腹空いたんだけどママがもう少し待てってさ~。」

「今日は学校少し遅くなるように連絡しとくからって~。」


喜朗おじがパンを一枚ずつトーストしてバターとジャムを塗り、牛乳を温めてこれで少し我慢して待ちなさいと司達に出してやった。

その後喜朗おじがトレイにコーヒーとビスケットを乗せて暖炉の間に持って行くと入れ替わりに圭子さんがやって来た。


「彩斗、暖炉の間のセッティングはもうすぐ終わるわよ。」

「…ああ、はい、圭子さんありがとう。」

「いやいや、大丈夫よ。

 それで彩斗、台本はどこなの?」

「…え?台本ですか?

 あの…簡単な紹介とインタビューのやり取りを撮るだけの予定だったから台本なんて…。」

「…かぁあああ!

 彩斗!

 ぶっつけ本番でやるつもりなの?

 皆、素人なのよ!

 せめてどういう質問するかとか事前に用意しなきゃ駄目じゃないのよ~!」

「はぁ…すいません…。」

「しょうがないわね~!

 じゃあ、質問の箇条書きでも書いておいてよ。

 演出の方は私が何とかしておくわ。

 リアルな反応を瞬時に撮るしか無いわね。

 それと、私の方でカメラを2台用意してあるからマルチカメラシステムで行くわよ。

 彩斗の方はスマホで彼女たちをフォローし続けておいてね。

 私のカメラの方は一つが三脚固定でフィクス撮影、もう一つは私が持って臨機応変なカットを撮り続けるわ。

 私の2台のカメラでメインとサブ、彩斗のスマホは補助に使うからあとでコピーさせてね。

 彩斗、早く質問を書いてね。」


そこまで言うと圭子さんはああ忙しいと言いながら暖炉の間に走って行った。

キッチンに残された俺と四郎と明石はため息をついた。

加奈がキッチンに走って来た。

改めてみるとまるで別人だった。

本格的なお化粧をしたエレガントな加奈が言った。


「彩斗、圭子さんが押してるから早く書けって~。」

「…押してるって?」

「なんか急いでいると言う意味だって~。」


そう言い残すと加奈は暖炉の間に走って行った。


「しかし…加奈はああすると特別な可愛さがあるな…。」

「うむ、われもそう思うぞ。

 景行、圭子さんに頼んで少し加奈にもメイクを教えたらどうだ?」


明石と四郎の会話を聞いた俺は全くその通りだと思った。

今まで見た事が無い加奈の新しい魅力だった。

とにかく急いで質問を書かねば。


質問の箇条書きを書いた俺は明石や四郎達と暖炉の間に行って驚いた。

かなり本格的に照明がセットされていて、質問者である俺が座るパイプ椅子の前にソファが置いてあり、コーヒーやビスケットが乗ったテーブルが片付けられていて、傍らに立っている喜朗おじが何とカチンコを持っていた。


「喜朗おじ…それは…。」

「ああ、今日の朝早く圭子さんから言われてどうにか作ったぞ。

 ペンキが乾いて幸いだったな。」

「はい!撮影始めるわよ!

 最初は加奈からにするわよ!

 加奈、照明の具合を見るからソファに座って。

 あ!景行と四郎はそこのレフ版を持って加奈に反射光が当たるようにしてよ!」


圭子さんがてきぱきを指示を出し、俺達は動いた。

圭子さんが三脚に据えたカメラのファインダーを覗き込んだ。


「う~ん、後ろの本棚が少し邪魔ね~。

 景行、四郎、少し笑ってくれる?

 ちがうちがう!あんた達が笑ってどうするのよ!

 少し逃げてっていう意味よ!

 ちがうってば!あんたたちが逃げてどうするのよ!

 カメラの映る範囲から本棚を少しずらして移動させてっていう意味なのよ!

 使えないスタッフねぇ~!」


圭子さんが俺達にはよく意味が判らない業界用語で指示を出し、やっと満足したらしい。


「これで良しっと。

 彩斗、質問の箇条書きを見せて。

 私も少し頭に入れておかないとね…なにこれ?

 なんか足の質問が多いわね、確かに加奈や真鈴やジンコの足は綺麗だけどさ~。

 ヒップアップ?何だこれ?まあ良いわ。

 しかし、ほほほ、朝早くからの撮影にして良かったわ~!

 彩斗、今日から入り口ゲートの工事が始まるんでしょ?

 朝早くで正解ね。

 鳥のさえずりがちょうどよく聞こえるわ~!

 加奈!顔が固いわよ~!

 ちょっとリラックスして~!」


確かに圭子さんが言う通りに鳥のさえずりがほど良く聞こえている以外、静かな物だった。


「ほほ!その調子よ!

 加奈、可愛いわよ~!

 女の私でも惚れちゃいそうよ~!

 さあ、彩斗最初は自己紹介から…ん?

 何あれ?」


圭子さんの言葉を聞いて加奈が満更でも無い素敵な笑顔を浮かべ、それは確かに俺達が今まで見た事が無い新しい加奈だった。

その時、鳥のさえずりを遮るようにカラスの群れのガアガア叫ぶ聞き苦しい声が聞こえて来た。


「なによもぅ~!雰囲気ぶち壊しだわ~!

 はなちゃん、あのカラス達何とかしてよ~!」

「判ったじゃの!

 かぁあああ!」


カラス達のガアガア叫ぶ声がグエッ!と変わり消え失せた。


「はなちゃん…まさかカラス達を…。」

「心配無いぞ彩斗、殺しちゃおらんじゃの!

 遠くに弾き飛ばしただけじゃの!」

「さすがにはなちゃんね!

 じゃあ、撮影を始めるわよ!」


暖炉の間の空気が張りつめた。


「よ~い!…スタート!」


喜朗おじがカメラの前でカチンコを叩いて撮影が始まった。

途中、加奈や真鈴ジンコや俺が噛んでしまったり、四郎や景行がレフ版をずらしてしまったり喜朗おじが尻をテーブルにぶつけて大きな音がしたりで撮影を中断したり、さんざん演技指導していた癖に圭子さん自身のインタビューでは固くなりしどろもどろになったりしながらも何とか無事に撮影は終えた。


俺達は慌ただしく朝食を済ませ、圭子さんは司と忍を乗せたレガシーで学校に向かい、真鈴とジンコはボルボで大学に、加奈と喜朗おじはRX7で『ひだまり』に、残った俺達は入り口ゲートの工事を監督したり、プール建設や明石や喜朗おじの家の建築の件で業者と打ち合わせをしたりと忙しい時間を過ごした。

午後遅くには警備の警官達も引き上げた。

警察庁でも警戒を解いた様だった。

テレビでは相変わらずアレクニドの事件を流し続けていた。









続く


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