激烈な戦いを全員生き残る事が出来た俺達だったが…思いもよらぬ事態で重要なメンバーを失う…。
吸血鬼ですが、何か? 第8部 発覚編
俺と四郎は気絶している司と忍の体を抱いて1階に降りて来た。
下では真鈴達が待ち構えていて気絶している司と忍を見て息を呑んだ。
「ちょっと!司達大丈夫なの!」
真鈴が悲鳴のような声で尋ねた。
「安心しろ、気絶しているだけだ。
奴らの襲撃で圭子さんが2人を気絶させて2階の武器庫に隠したんだ…とりあえず暖炉の間に…。」
俺と四郎は司と忍を暖炉の間に運んだ。
幸いな事に暖炉の間は無傷だった。
俺達は司と忍をソファに横たえて今ははなちゃんの部屋となっている書斎から毛布を持って来て掛けた。
遅ればせながらパトカーのサイレンが近づいて来ていた。
真鈴達は泣きはらした顔の俺と四郎を見て尋ねる事を躊躇している。
恐る恐る加奈が尋ねた。
「それで…それで、圭子さんは…。」
四郎がゆっくりと顔を横に振った。
「…圭子さんは…助からん…今…景行が最期を…看取っている。」
真鈴達は体の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
玄関ドアの方から警官が呼びかける声が聞こえて来た。
俺達が答えないでいると拳銃を構えた数人の警官が恐る恐る暖炉の間に入って来た。
「動くな!
動くと撃つぞ!」
警官たちが震える声で俺達に叫んだ。
握ったピストルの銃口もぶるぶる震えていて照準もろくに定まっていなかった。
俺はこの情けない警官たちに何故だか無性に腹が立った。
俺はこの悲しみと怒りを何かにぶつけたかった。
俺は椅子から立ち上がり、ポケットから警察の身分証を出してそれをかざしながら警官たちに歩み寄って叫んだ。
「俺は吉岡彩斗警視正だ!
出て行け!
命令がある限りこの屋敷に入るな!
バカヤロー!」
警官達は未だに威力が無い小型リボルバーを俺に向けていた。
悪鬼をろくに殺せない弱い武器を構えている警官に俺はますます腹が立った。
「銃を下げろバカモン!
出て行け!」
警官達は互いの顔を見合わせ、俺の顔と警視正の身分証を見比べた後でピストルをホルスターに戻して敬礼して小声でわびの言葉を言いながら出て行った。
俺は椅子に戻り、腰を下ろして顔を両手で覆った。
暖炉の間で俺達は何も言えず、顔を俯けて静かに涙を流していた。
外では遅ればせながらやってきた警官達があれこれと命令を出したり報告をしたりの喧騒が聞こえて来た。
喜朗おじが立ち上がり、大きな窓のカーテンを引いて、更にシャッターを閉めると、少し喧騒が遠のいた。
「なぜ…なぜよ…私たち…全員生きて帰って来たのに…こんな…こんな…。」
ジンコが涙声で尋ねたが、誰も答える事が出来なかった。
司と忍はソファに横たわったままだ、喜朗おじが二人の呼吸を確認して無事を確かめてまた椅子に座った。
真鈴達の嗚咽が静かに聞こえてくる以外、気に障る警官達の声が小さく聞こえてくる以外、俺達は沈黙してソファに座り込んでいた。
やがて遠くからヘリコプターの音が聞こえて来た。
ヘリコプターが着陸したらしい。
そして慌ただしい足音が聞こえて来て何人かの戦闘メンバーを従えたリリーが暖炉の間に飛び込んで来た。
血の気が失せたリリーは俺達の顔を見回した。
「みんな無事なの!
……圭子さんと景行は!
どこ!」
「…うむ…リリー…圭子さんが…やられてな…。」
「…そんな…。」
「2階で景行と…最後のお別れを…。」
「…そんな…そんな!」
リリーが叫び、涙を目から溢れさせてその場に崩れるように座り込み顔を覆い突っ伏した。
「お前たち!
警官どもを敷地から追い出せ!
付近を捜索!
奴らの生き残りを探せ!
殺すな!
生け捕りにしろ!」
傷だらけの戦闘服を着こんでいる戦闘メンバーだが、リリーの命令を聞くときびきびした動作で暖炉の間を飛び出していった。
警官達は屋敷の敷地から追い出され喧騒が遠のいていった。
四郎が立ちあがり、リリーの肩に手を掛けた。
「リリー…圭子さんは…人間のままにな…それが希望だった…残念だ。」
リリーが四郎の手にしがみつき嗚咽を漏らした。
つい何時間か前にあれほど勇猛に部隊を指揮していたリリーだったが、23歳から年をとっていないリリー。
今は悲嘆にくれる若い女にしか見えなかった。
やがてもう1機ヘリの音が聞こえ、処理班が到着して護衛の遺体を収容し、襲撃してきた奴らの死体を調べ始めた。
俺達はろくに動けず、ただ明石と圭子さんのお別れが終わるのを待つしか無かった。
「ルージュリリー!
1匹見つけました!
人間です!
かなりの重傷ですがまだかろうじて生きています!」
戦闘メンバーが飛び込んでリリーに報告をした。
「体が二つに裂けていても構わん!
絶対に死なすな!
ヘリで運べ!
いいか!
情報を聞き出す!
絶対に死なすなよ!」
「はっ!」
戦闘メンバーが暖炉の間を出て行き、暫くしてからヘリが離陸する音が聞こえて来た。
「くそ、どんな拷問をしてでも情報を聞き出してやる…。」
泣きはらしたリリーの赤い目に殺気が宿った。
「しかし…どうしてここが判ったのか…。」
喜朗おじが頭を抱えて呟いた。
俺たち全員の疑問だった。
「ちきしょう…あいつ…糸を付けた者がいるとかほざいてたね…。
だけどどうやって…。」
真鈴が小声で言ったが、誰もそれに答える事が出来なかった。
やがて夜が明け始めた。
明石はまだ2階から降りてこないが、誰も呼びに行くのは遠慮した。
喜朗おじがのそのそと立ち上がり、窓のシャッターを開け、キッチンに行きコーヒーを淹れ始めた。
やがてトレイにコーヒーカップなどを乗せて喜朗おじが戻って来て皆の前にコーヒーカップを並べてコーヒーを注ぎ始めた。
「あ、くそ!」
喜朗おじが小声で罵り顔を押さえた。
明石のカップと共に置かれた圭子さん愛用のコーヒーカップにもコーヒーを注いでいたのだ。
俺たちの目から新たに涙が湧いて出て来た。
雲の間から朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえた。
何もなければのどかな朝の風景だった。
こんな事が起きなければのどかで平和な朝の景色が大きな窓の外に広がっていた。
圭子さんが作った畑が見えた。
この前芽を出したばかりの、まだ何の作物さえわからない新芽が朝露を纏ってキラキラ輝いていた。
「ひどいよ…こんなの…。」
加奈が絞り出すようなしかし小さな声をあげた。
その時、静まり返った屋敷に階段を下りてくる足音が聞こえた。
続く