「わたしメリーさん。電話が繋がらないの。」
「わたしメリーさん。電話が繋がらないの。」
「はぁ」
待ち合わせの時間まで近所の寂れた商店街で時間を潰していたら、金髪の女の子が携帯電話を片手に項垂れている女の子に話しかけられた。
「わたしメリーさん。auユーザーなの。」
「電話貸そうか?」
「わたしメリーさん。人間の電話借りれないの。」
「なんだそれは」
メリーさんという名前、喋り方、人間というフレーズに都市伝説が脳裏によぎるが、そんなことあるはずがないと考えを改める。
「わたしメリーさん。いまここにいるの。」
そういってメリーさんはドコモの携帯ショップを指さす。
「買い替えたい?」
メリーさんはこくりと頷く。
「わたしメリーさん。電話が繋がらないと驚かせられないの。」
そう言いながらメリーさんはいきなり背後から腰に抱きついてきた
「………………急に後ろから抱きつかれると驚くよ」
「わたしメリーさん。あなた驚いてないの、少しうれしそうなの。」
「そんなにわかりやすいかな」
「わたしメリーさん。驚きを糧に生きるの、貴方もわかりやすいの。」
「……そうなんだ」
少女について深く考えるべきではないということだけは理解った。
「わたしメリーさん。おなかすいたの。」
しかし腹ペコの少女を一人放置するのは寝覚めが悪い。
「わたしメリーさん。一人だと携帯ショップは入れないの。」
「限定的な制限だなぁ」
「わたしメリーさん。お母さん呼んでって言われたの。」
「現実的な理由だった」
チラチラと伺いながら会話を続けようとするメリーさんに絆されてしまったのだろうか、携帯ショップに連れていくのも吝かではないと思い始めた。それに善行は積んでおくに限る。
「買い換えるお金はある?」
「わたしメリーさん。コールセンターで働いているの。」
「コールセンター」
メリーさんは肩から斜めがけしたポシェットを叩いてドヤ顔している。
「わたしメリーさん。コールセンターは履歴書いらないの。」
「へえー」
「わたしメリーさん。携帯の契約に貴方の名前を貸してほしい。」
「あぁそれで声掛けたんだ」
「わたしメリーさん。あなたお人好し。」
「ははっ、よく言われるよ」
「わたしメリーさん。手伝ってくれたら待ってる人追い返してあげる。」
「――――――そんなこともわかるんだ」
「わたしメリーさん。あなた幽霊みたいな顔してる。」
「……友だちが夜逃げしたんだ。それで、」
「わたしメリーさん。その辺の事情は興味無いの。」
「あっ、そうですか……」
「わたしメリーさん。いまあなたの前にいるの。」
どうする?という顔で問いかけてくるメリーさんに一も二もなく頷いた。
――――――――――――――――――――――少女との逃亡生活は驚きの連続で、メリーさんの胃袋を偶然掴んでしまったのは別のお話。
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