999人パーティの999人目の俺、パーティから抜けたら急に覚醒した。
この作品は前に投稿したのを読みやすく改稿したものです。
ダンジョンへと向かう森の中で突然。
俺は男に首を掴まれこう叫ばれた。
「お前いい加減にしろよ! さっきから魔法も剣も構えねえ、お前何しにこのパーティに来てんだ!?」
何しにって……冒険しに来てるのですが。
それに一列になって999人の大所帯で歩いているんだ。
俺が魔物と戦える訳もなく、ボスが出てきても出番が回ってこないだろ。
「ずっと見てたけどよ、意識が低いんだよ。お前もう消えろ」
998人目の男はなんか怒っていた。
お前だって剣構えるだけで何もしてないだろ。
この前だって、ダンジョンに入ろうとしたら300人ぐらいしか入れなくて後は大行列が出来ていたぞ……。
そんな状況で意識も何も無くないか?
「あの、喧嘩はやめましょうよ!」
ピンク色のサイドテールをした。
エルフの女の子が今度は叫んだ。
名前は……なんだっけ、ミスティアだったっけ?
「なんだお前、こいつの肩を持つってのか?」
「これだけ人数が多いんです、退屈になるのは仕方ないと思います!」
そもそもなんで俺が999人目の最後尾を歩いているかと言うと、この列で一番弱いからだ。
……そう、このパーティは強い順で並んでいる。
当然、先頭の1人目が一番強いという事になり。
俺に対して説教しているこの男も俺より1つ強いってだけで、全体を通して見れば下から数えた方が早い。
まあいいか……元々俺1人抜けても魔王は倒せるだろう。
このまま着いていったところで、この998人目の男に説教されるのがオチだ。
俺は歩いている列から外れ、反対方向に歩いた。
後ろから罵声が聞こえたが無視無視。
どうせ俺が抜けても引き留める人なんて1人もいないだろう。
せいぜい「あれ、1人足りなくない?」で話は終わるはずだ。
「あの~!」
振り返るとさっきの女の子、ミスティアが自分の身長より、長い杖を持ちながらたどたどしい足取りで歩いてきた。
俺に何の用だろう?
……あっ、転んだ。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
ミスティアが顔を上げると、強く顔を打ったのか鼻血を垂らして泣きそうな顔をしていた。
とりあえずポケットに布があったので手渡す。
「ありがとうございます! あの、パーティ抜けちゃうんですか?」
「うん、俺がいなくても別に変わらないかなって」
「……それだったら私も特にやる事無かったので、よかったらパーティ組みませんか?」
特にやる事がないのか。
別に構わないんだけど、女の子と2人っきりってのも気まずいなあ。
とりあえず街に帰るか……。
「あのさ、とりあえず帰ろうか」
「あ、でしたら他のダンジョンへ行きませんか?」
「別にいいけど、俺でいいの?」
「はい! 私はミスティアと申します!」
「俺はアプロプリエイト、長いからアプロでいいよ」
「アプロさんですね! よろしくです!」
ミスティアは嬉しそうにピョンピョンと跳ねると、走ってダンジョンの方向を指差して歩き始めた。
「あいたーっ!!」
また転んだ、元気な子だなあ。
◇ ◇ ◇
「――着きましたねーっ!」
ミスティアに連れて来られると、そこは岩で囲まれた洞窟だった。
反響するように中から「はあ!」とか「そりゃあああ!!」と叫び声が聞こえてくる。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
中へ入ると400人ぐらいの冒険者達が、数匹の魔物達と大乱闘を繰り広げていた。
キンキンッ!!
ボワアアアッ!!
鉄がぶつかる音、火の魔法を放った音が響き渡る。
「うーんここも人が多いなあ」
「今は冒険者ブームですもんね、まともに街で働く人なんて全世界の1割ぐらいだそうですよ」
そう、ミスティアの言うとおりここ最近で冒険者の割合は非常に増えた。
なんと全世界で60億人近くの冒険者がいるらしい!
まったく、凄い時代になったもんだ……。
ちなみに若者に今何になりたい?
と、尋ねると当然返ってくるのは冒険者。
一番なりたくないのはどうやら農民だそうだ。
理由としては、畑なんてやっててつまらないとみんな口を揃えて言う。
うーん、やればわかるけど農業は冒険者より奥が深いんだけどな。
「うおお!! ボスが現れたぞ!!」
奥の方で男の叫び声が聞こえた。
数回斬り合った後、勝てないと判断したのか数百人が叫びながら、一斉に入り口の方へ逃げて行くと……。
「出してくれー!!」
あっという間に穴は塞がってしまい、俺達の逃げ場所は無くなってしまった。
「グオオオッ!!」
大きい人型の魔物が、こん棒のようなモノを振り回す。
近くにいた百人の冒険者達は吹き飛ばされてしまい。
遠くで眺めていた俺たちの方へとゆっくり向かってきた。
「ど、どうしましょう!? アプロさん!!」
慌てながら困った顔を向けるミスティア。
うーん、俺達弱いからなあ……。
かと言って、あんなに人が詰まっていたら逃げれない。
どうしようかと俺は考えていると、入り口近くにいた数人の男達が、俺とミスティアを見て驚いた顔で指を差した。
「あ、あんたその紋章! 伝説の999人パーティの人か!?」
「なんだって!」
「世界最強999人パーティの人がいるのか!?」
元です、もっと言うと最弱に近い999人目と997人目だけどな。
「あんたらなら余裕だろ! 早く被害が増える前にアイツを倒してくれ!!」
と、言われましても。
「アプロさん! こうなったら戦いましょう!!」
ミスティアはノリノリだった。
杖を構えて魔法を詠唱すると、先端から硬い玉のような物体が3発、魔物に当たった。
うーん、ここで撃つのはよくなかったかもな。
「グオオオオッ!!」
「ひええええええっ!!」
目の前の状況に驚き、ミスティアは腰を抜かす。
怒った魔物は咆哮した後、こちらに走って向かってきた。
やっぱり撃ったのはまずかったよな……完全に怒ってるし。
仕方ない、やるだけやってみるか。
駆け出しダンジョンのボスだ、ひょっとしたら俺でも勝てるかも知れない。
俺は目を閉じ、刀を抜く事だけに集中する。
……。
…………。
剣の間合い、イメージを頭の中で描き、魔物の足が触れた今――。
ズウァッン!!
「……あれ?」
……俺はゆっくりと目を開けた。
魔物の上半身が無くなっている。
俺の剣で吹き飛んでしまった……で、合っているよな?
でも俺ってこんなに強かったっけ……?
確かに魔王を倒せるほどの力を持った999人のパーティにいたが、その中でも一番弱いんだぞ、実力で言うと駆け出し冒険者よりちょっと毛が生えた程度だ。
「はっ……はわわわわっ」
凄い光景を見てしまったと言う顔でミスティアは地面にへたり込み、魚みたいに口をパクパクしていた。
俺も信じられない、これって999人目のパーティから抜けたから真の実力が解放されたんだろうか?
確かめてみる必要があるな……。
俺はパーティの参加を求める。
「あの、誰かパーティ組みませんか?」
「うおおおおおおおおっ!!」
「これが最強999人パーティの実力者なのか!?」
なんかもう、祭りのように数百人以上の騒ぎ声が聞こえた。
洞窟の中だし音が反響してうるさい。
「いやあの、パーティを」
「今のどうやったんだ!!」
「やっぱり999人のパーティメンバーは違うな!!」
もういいや勝手に登録していくか、えーっと、ゴンザレス、アルフレッド、ルイージディサヴォイアドゥーカデッリアブルッツィ。
……こいつは名前が長過ぎだろ、他の人が入らなくなるし消しておこう。
片っ端からメンバーを登録し、魔法を唱えてみると、俺のパーティカードは入りきらないほどの名前で埋まった。
この状態ならどうなる?
ブンッ、ともう一回剣を振ってみた。
ヘニャ。
なんだか……力ない音が聞こえた。
もう一回振ってみよう。
ブンッ。
ヘニャ。
ブンッ。
……ヘニャ。
1回全員とパーティ解除してみるか、俺は詠唱してから指でパーティカードをなぞると、名前は一瞬で消えていった。
よし、これで剣を振ってみよう。
ブンッ
ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!
うおっ!! びっくりした!!
「うわあアアアッ!!」
「あっ……」
俺が剣を振ったせいで、竜巻のような強い風が全方向へと舞ってしまい、爆音と同時に、俺の近くで騒いでいた人達は全員吹き飛んでしまった。
「あわわわわっ……耳がキーンッと……」
運良く飛ばされず、カタカタと手で耳を塞ぎながらへたり込んでいるミスティアを見て、俺はとりあえず再登録しておいた。
「あ……あの……」
恐る恐る聞くなよ、俺だって自分の力が信じられないんだ。
「ミスティア、どうやら俺はパーティの人数分だけ弱くなっていたらしい」
「そんな事って……!!」
「原理は俺もよくわからない」
999人のパーティを抜けた事で、998人分弱くなっていた力を取り戻した。
いや、ミスティアだけ着いてきてくれたから997人分か。
「入り口もさっきの風圧で空いたし、とりあえず外に出るか」
「はっ、はい」
あ、忘れてた。
ついでに怪我してた人達も治しておこう。
さっき剣を振ってあれぐらいの威力だったから当然――。
「キュアヒール」
洞窟全てが綠色に染まると、人々は元気な素振りをして立ち上がった。
やっぱり……とんでもない力だなこれ。
俺はチラリとミスティアを見る。
ミスティアはまだ信じられないという顔をしていた。
……でもこの力、便利だしいっか!!
俺は短絡的に考えて納得する事にした。
さてと、これからどうしようか?
俺はミスティアに行き先を尋ねる。
「さっきの999人で向かっていたダンジョンはどうでしょう? その力があれば1人で余裕だと思います!」
グッと両手を前に出して「ふふーん」とした顔で話すミスティア。
そうだな、と俺は返事をして、ムカつく男と996人が向かったダンジョンへ向かってみた。
◇ ◇ ◇
「うわああああああ!!」
999人の向かったダンジョンに着くと、ここも1人、2人と次々に逃げ出すように外から出てきていた。
一体どうしたと言うのだろう?
「10年に1匹産まれるという伝説の竜、オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤだ!」
名前長いな。
「みんな逃げろーっ!!」
元パーティメンバー達が叫んだその瞬間、爆発音と共にダンジョンから巨大な竜が飛び出した。
身長はどれくらいあるだろうか、計り知れないほど大きい!
竜の口には人間を数十人をくわえており、ペッと吐き出すと、冒険者達は雪のように地面へポタポタと落ちていく。
「あっ! お前は!!」
あの説教垂れていた男は逃げ足を止め、俺を見て立ち止まった。
「おいお前! 確か全体範囲のヒール使えたよな!? みんな手を怪我したんだ!! 魔力の続く限り癒やしてやってくれ!!」
「えっ、他のパーティメンバーも使えるだろ?」
第一、俺に頼るなよ。
「それがさっき竜にくわえられていた奴等なんだよ!!」
マジか。
俺の返事を待たずに男は勝手に詠唱を始めると、パーティカードに997人の名前が登録されてしまった。
……これはまずいな、相当弱いヒールになるぞ。
「早くしろ!! ノロマが!!」
「頼む! ヒールを!!」
「OH THIS TEAM……」
俺を頼りに、数百人の冒険者は罵声を浴びせながらヒールを要求した。
なんで文句言われながら俺がヒールしてあげなければいけないんだろう?
まあ、さっさと結果だけ見せてパーティ解除してもらうか。
「キュアヒール」
俺の手より小さい綠色の光が出た。
「なんだそのヒールはよ!!」
「こいつ後ろの列から数えた方が早い奴だろ!! 死ね!!」
「GG NEXTGAME FK:(」
勝手に入っておいてお前ら随分と言いたい放題だな、おい!
パーティカードを見るともう998人が抜けていた。
いや、ミスティアだけの名前が残っているから、997人か。
「ああああもう終わりだあ!!」
「助けてくれええ!!!」
「HELP! GM!」
大勢が悲鳴をあげたからか、竜はこちらへと気付くと、口を開いてこちらに向かってきた。
数百人はうずくまった状態でカタカタと震えるが、俺とミスティアだけは立ったまま竜を見つめていた。
なんか、今の状態なら負ける気分がしないんだよな。
「アプロさん! やっちゃってください!」
「ああ! 耳塞いでろミスティア!!」
「はい!!」
俺はブンッと剣を一振りした――。
ブオオオオオオオオオオッ!!!
爆音が響き、剣から大地を震わせるほどの突風を起こした。
「なっ……」
男が先程のミスティアのようにへたり込み、魚のように口をパクパクとしていた。
いい気味だ。
「お前……!!」
伝説とやらの竜は吹き飛び、ヒョロヒョロと遠くの海に落ちるのが見える。
先程罵声を浴びせていた数百人の奴等は信じられないと言った顔で俺を見た。
それにしても、パーティを組んだ人数によってこんなに力が変わるとはな……。
「あ、アプロさん……やっぱり凄い!! 伝説の竜を一撃で……!!」
ウサギのようにピョンピョンと跳ねながら喜ぶミスティア。
今度は俺がこの男に説教垂れる番でいいんだよな?
男は落ち着いたのか、立ち上がって俺と目を合わせて尋ねてきた。
「なんなんだお前!! その強さは!?」
「意識の違いじゃないか?」
「そんな訳ねえだろ! 詳しく教えてくれよ! 何をしたんだ!!」
「パーティ抜けたらこうなったんだ」
「どういう事なんだよ!!」
それがわかったら俺も詳しく説明出来るんだけどな。
「わからない」
「はあああ!?」
しかしそれ以上に説明がつかない。
パチッ、パチッ。
遠くから一定のリズムで拍手をしながら、1人の騎士らしき男が歩いてこちらへ向かってくる。
「さっきの竜を倒したのは君か? 凄い力だ……一体どこのパーティだい?」
金髪のくしゃくしゃに跳ねた髪を靡かせるその男は、とても格好が良かった。
これから1人旅でもするかと思った俺は、「どこにも入っていない」と伝えた。
すると、金髪の男は「なんだって」と驚いた顔で俺の両手を取る。
「君がいるなら大戦力だ! なんだったら僕と代わって1番前でもいい!!」
「いや、もうアンタのパーティはいいよ……」
「ど、どうしてだい!? このパーティは世界最強に近いパーティなんだぞ!! 富、名誉だって……何でも手に入れられるんだ、それなのに何故!?」
そうだな、それは間違い無い。
でももうこのパーティに興味もないし、入る必要もなくなった。
俺は……。
ダラダラ好きに、生きてみようと思う。
魔王はどうせこいつらが倒せるだろうしな。
「パーティ入ると俺、弱体化するんでもう関わらないでください」
「そ、そんな……!!」
そう言って金髪の男の手を振りほどき、背中を向けて俺は街へと歩を進めた。
タッタッタッ。
後を追いかける音が聞こえてくる。
「待ってくださいー! 私も、私も一緒に……あっ!!」
……ミスティアだ、大声をあげながらミスティアは転んでいた。
彼女だったら、ぜひこちらからお願いしたい。
「はい布」
「どうもです……」
フキフキと鼻から出た血を拭き取るミスティア。
「これからどこに行くんです?」
そうだな、とりあえず――。
「街で少人数のパーティでも作ろうか」
――今度は気の合う人達でな。
「はっ……はいっ!」
ミスティアは笑顔で返事をした。
じゃ、行くか。
転んだミスティアに向けて、俺は手を伸ばした。
【999人パーティの999人目の俺、パーティから抜けたら急に覚醒した。】
おわり。
長編版を作りました。
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