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暗黒人魔と希望の聖女  作者: 宇喜多平八
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プロローグ

一次創作はたぶん初めてとなります。見切り発車です。

正直どこまで続けられるかわかりません。


今後がっつり改定するかもしれませんし、読みにくいかもしれませんが一つご容赦を。


 恵まれた人生だった、というべきなのか。


 少なくとも二〇世紀に産まれ、二一世紀を生きる人間として飢えも大病もなく、まっとうな教育を受け、ささやかに一人で生きているのだ。戦争や疫病、貧困と暴力、何れとも縁が遠い生活なのだから、これ以上望むのはいささか罰が当たるというもの。


 しかし、生きていながら生きているという感覚が全くないというのもおかしな話で。社会にあっては替えのきく歯車の一つとして社会的生物の役割を果たしてはいるものの、種の存続という動物的責務を人生これまで全く果たしていない。


 これまで女性とそう言った仲になることがなかったという事実は真実。


 一〇代の頃は受験勉強に追われた男子校の一員であるし、ほどほどの大学に合格しても顔面偏差値三五以下という自分では、甘酸っぱいモラトリアムなど無縁の青春だ。就職氷河期真っ盛りに卒業し、かろうじて得た職も糊口をしのぐのが精いっぱい。結局、恋人という存在は画面の向こう側にしか存在せずして、三〇歳(魔法使い)になった。


 その頃は怖いものなしである。生活費を削って本を読み、動画を見て、ゲームをし、ルーチン生活において明らかに不要と言える知識と、あらゆるキモさを中性脂肪のように身につけていった。異性どころか同性の友人もいないが、孤独すら超越していられた。そう、体力が急激に低下する『次の一〇年』の入口までは。


 面倒で回りくどい言い方で大変申し訳なかったが、一言でいえば現在の俺は『これからの人生に軽く失望している非モテチビ禿中年40歳独身』ということだ。


 そして目の前、一方通行の路地裏にて、自分の半分以下と思しき年齢のチンピラモドキ三匹と、それに囲まれる二〇代半ばと思しきピッチリタイトスカートのバブルオフィスレディに遭遇したのは、本当に偶然。


 チンピラモドキもバブルオフィスレディなど現代令和日本からとうに絶滅していたと思っていたが、二ホンカワウソより生存力があるのは間違いない。何しろ人類であるが故に、この国では健康で文化的な最低限度の生活を送る権利がある。


 彼らの基本的人権についてはともかく、この『イベント』に遭遇した俺に与えられるであろう選択肢は三つ。


 選択肢①『無視してイベントから隠れてやり過ごす』


 実にドライな都会の夜中の選択肢としては無難な最適解だ。脂肪で無駄に厚い胸の奥に僅かに残る義侠心に蓋をすれば。幸いにしてチンピラモドキ共はこちらを捉えていないし、自己保全の可能性は大いにあるし『君子危うきに近寄らず』とも言うし。


 選択肢②『このままイベントに近接接触しつつ声を上げる』


 チンピラモドキの人相と軽ワゴンの番号を記憶し、周囲の注意を引くために索敵範囲外から声を上げる。チンピラモドキ共は通報を恐れ、女性誘拐を諦める可能性が高い。即効性があり、良心にも自己保身的にも正しい選択だ。勿論失敗して人生強制終了の可能性もある。何しろチンピラモドキは欲望を道理に優先する生物だ。


 選択肢③『このままイベントに近接接触しつつ、携帯電話で通報する』


 警察権力に対する不信感は、両手の指の数に勝る職質経歴によって強固なものとなっているが、善良なる市民としての義務を果たさなければならない。張り巡らされた監視カメラと、小心で善良な市民すら不審者と警戒する優秀な捜査組織が、いつかはチンピラモドキを追い詰めるだろう。その過程で女性は……貴重な犠牲となるかもしれない。


 この中で非モテチビ禿中年40歳独身に許される選択肢は②か③。そして俺は手提げ鞄を置いて、くたびれた吊るしの背広の胸ポケットにあるスマートフォンに手を伸ばし、人生で初めての一一〇番をしようとして……地域清掃局が翌日回収するはずの空き缶のバスケットに蹴躓いた。


 盛大に音を立てて傾斜を転がっていく空き缶と、その上に無様に転がる俺の体。チンピラモドキ共のアクティブレーダーが一斉にこちらを向く。直線距離一〇メートル強。双方の間に霧はなく、整備された街灯がある。目と目が合う瞬間。俺の片手にスマートフォン、チンピラの片手にバタフライナイフ。驚愕と狂気が、俺と奴らの双方に宿った。


 手提げ鞄を両手に持ち、盾のように前にかざして体を屈め、俺は人生最大の肺活用で叫び声をあげる。脳内のアドレナリンが噴き出す音なき音を聞き、ギンシダの第二列のごとくチンピラモドキに突撃した。逃げ足だけは早いと言われたその短い足が空き缶を蹴り飛ばし、最初に向かってきた一匹目を跳ね飛ばし、女性と残りの二匹に向かう。


 待ち構えていた一匹が、俺を受け止めようとして腰を下げナイフをちらつかせているが、アドレナリンのおかげでまったく怖くない。使用歴一二年になるボロだが、内部に詰め込まれた書類とクリアファイルの積層複合装甲は伊達ではない。刃先さえ逸らせば貫くことはないし、俺は小柄で鞄を前にしている。案の定、二匹目はナイフを振り上げて俺に叩きつけようとする。


 予想通りナイフはベコンという音ともに鞄の皮だけを薄く切り裂き、腕を上げたままの状態で二匹目はアスファルトに背中からこけた。勢いが付いたおかげで俺はその二匹目を踏みつけながら数歩進んで止まる。そして方向転換。女性を掴んでいる三匹目に向かって突進するが、三匹目はなんと女性を俺に向かって勢いよく押し出した。


 お互いが全く考えになかった衝突。当然女性は勢いよく小柄な俺に吹き飛ばされ、体を『く』の字にして小高くなっている神社の基礎に強く打ち付ける。俺もエネルギー保存則通り、神社とは反対側にある小さい児童公園のフェンスに弾き飛ばされる。ワイヤーフェンスゆえに背中に来た衝撃は大したものではなかったが、痛いことは痛い。


 正面向けば、かの女性は頭から血を流してピクリともしていない。両腕両脚ともに完全に脱力し、意識がないことはチンピラモドキ共も理解しているようで、特に背中を押した三匹目の顔は血の気を失っている。


 呆然と突っ立っている奴らを他所に、俺はぐったりしている女性のそばに文字通り這いずりながら近寄って、頬を叩き胸に手を当てる。年頃の女性の胸に触るのはセクハラじゃないのか。『アレの視線だけでもキモいんだよね~』という会社の女性事務員達のおしゃべりが耳元で聞こえたような気がするが、今の俺は救急救命士の魂を授かっているので全く気にならない。手から伝わる一定の振動から心臓は動いているのはわかるが、後頭部に回した俺の手が血でみるみる真っ赤に染まっていく。


「きゅ、救急車を!」


 俺が振り返ってチンピラモドキ達にそう声を上げた時、俺の目に映ったのはLEDライトに照らされた、閃く『そいつ』のフルスイングだった。


 あぁ、俺は結局人生でヒーローにはなれなかったが、最期に少しはガッツは見せられたんじゃないか? 流石にもうタイムリーをかっ飛ばせるチャンスはないけどな。


 前頭部に強烈な衝撃を感じながら、俺は笑いながら目を閉じると、消えゆく意識の中でたしかに、はっきりと、その声を聴いた。


『汝、その闘魂を込めて、異世界へ』




一行の文字数を多くしたいですが、文字を小さくすると読みにくいんですよね。


メンタル豆腐なので、ご感想を投稿される場合は、一つ手心のほどをお願いいたします。

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