技術的な問題:脳の代替処理
続けて技術的な問題です。
かなり脳に関する用語が出ており、伝わりにくいかも知れません。
調べてて私の脳もやられました。
よろしくお願いいたします。
◇問題
「現実と仮想現実空間で時間感覚が異なる体験」を実現する技術は存在し得るか。
◇前提の話
脳にはいくつかの部分があります。
大脳、大脳皮質、小脳、脳幹、間脳……などありますが、そのうちの大脳に海馬(社長でもなければタツノオトシゴでもない)という短期記憶領域、大脳皮質に長期記憶領域があるそうです。
短期記憶領域の海馬はパソコンで言うメモリに近く、長期記憶領域の大脳皮質はハードディスクなどのストレージに近いです。ちなみに大脳皮質を含めた脳全体の記憶容量はおよそ一ペタバイト。一ギガバイトの百万倍以上の容量です。
海馬に一時的に蓄えられた記憶は、情報の取捨選択などの整理を行った結果大脳皮質へと再び電気信号で送られる仕組みになっているそうです。ほとんどの情報は海馬の時点で消えちゃうみたいですけどね。
その海馬や大脳皮質で記憶する際には電気信号ではなく、RNA(リボ核酸:細胞核の中に存在する、DNAから遺伝情報を転写された核酸)に記録しているようです。
◇情報伝達速度、処理速度の限界を突破するには
前回のお話で「ニューロンさんは電気信号をやり取りしているので、電気の伝達速度を簡単には超えられないから脳内で時間の流れは変えられない」とか「脳が受け入れられる情報量を上げられない」的なお話をしました。
また、ニューロンさんは脳細胞の一つであり、ニューロンさん同士が電気信号を伝達して並列的に情報処理していることも説明しました。ニューロンさんは視覚や聴覚が認識した情報を隣のニューロンさんに渡し続けて情報を処理しているのですよね。
筆者はこれを別のハードが代わりに処理することは出来ないのかなー、と考えるのです。
べらぼうにCPUを並列処理させて脳の代替やその数倍の処理が出来るようになったゲーム筐体があるとします。
プレイヤーはVR接続デバイスを通じてその筐体にアクセスします。
筐体は脳の数倍の処理が出来るので、そっちで全部情報を処理して、記憶だけフィードバックさせちゃうのです。
「おいおいフィードバックする情報がとんでもない情報量だから光の速度でも転送でラグが発生するんじゃ?」と思う方もいらっしゃるかと思います。
ですが人が一秒間に記憶出来る情報って、一秒に知覚出来る情報が五〇ギガバイトに対して僅か二〇〇〇ビット、つまり二五〇バイト程度らしいです。秒間二五〇バイトならば十倍しても二五〇〇バイト。モデム回線でも行けますね。ぴーーーー、びこんびこん。
まぁそう簡単に言いはしましたが、課題があります。
・自己意識が別筐体側にも存在しなければならない
別筐体のほうで自立し考えて処理を行うため、俗に言う「精神転送」を行い、そちらも自己意識を持たせなければなりません。
要は処理を行うハード側にもう一人の考える葦である自分を作るのです。自己を投影するのです。
哲学で言う自己投影ではありません。攻殻機動隊をご存知の方なら解ると思いますが、ゴーストってやつを複製するのです。
この精神転送ですが、現代ではまだ実現されていません。なので机上の空論にすぎませんが、ここら辺は科学の進歩によって解決できる課題だと思っています。自己意識の仕組みを明らかにして、それをスキャンする仕組みを開発するだけですから……あっ、石を投げないでください。
でも自己の複製って倫理上の課題があるんですよねぇ。
複製された筐体の方に人権は存在するの? とか。
どちらが複製された自己であるのか結論付けることは出来るの? とか。
複製した方の情報に「私はコピーです」っていうタグでも振っておかないとですねー。
・処理した情報を直接記憶領域にフィードバックする必要がある
別筐体で処理した結果を、VR接続デバイスを介して肉体の記憶領域へフィードバックしなければなりません。筐体だけで完結はできないのです。じゃないと元の肉体がゲームで経験した記憶を持たないことになってしまいます。
で、この技術もまだ実現されていません。要は「デジタル的な方法で記憶を脳に直接植え付ける」ってことです。怖い。
この辺の技術はSteins;Gateというゲームでも説明がありましたが、その辺は一%のファンタジーでしたからねぇ。ヽ(*゜д゜)ノ < カイバー
ちなみに人間ではありませんが、アメフラシさんの記憶を移すことには成功したみたいです。凄いですね!
ただしその時の実験はRNAを移植する方法を使ったので、電気信号だけでそれを実現する方法が必要ですよね。
通常ニューロンさんが送ってる電気信号をダイレクトに海馬へ送ることで、ニューロンさんたちを通さずに記憶とか出来そうなんですが、海馬を通すとフィードバックの情報量過多に耐えられないのが目に見える。
となると筐体側にも海馬の代わりとなる記憶領域を用意して、そこで整理した情報を大脳皮質へ送るのが賢明かな? ただし、大脳皮質の何処に情報を送れば良いのか筐体側が把握していないといけませんね。常にVR接続デバイスが脳のスキャンを行っている必要があるかも。
自分で考えておきながら、課題の二つって、両方とも倫理的な問題が関わってくるんですねぇ……。
◇この章の結論
情報伝達速度、処理速度の限界を突破することは、代替のハードウェアに処理させることで不可能ではなくなる。
ただし、「精神転送の実現」、「大脳皮質への記憶のフィードバックの実現」という技術的課題をクリアすることが必要。
次回では脳へのフィードバックについてご説明します。