7日目
昨日の日記を読み返したんだが、なんだこれはさすがにひどい。
いや、うん、言い訳をしよう。昨日の私はそれはもう疲れ果てていた。その証拠に、どうにかこうにか日記を開いてペンを走らせている間にも強烈な睡魔に襲われていたのだ。文章としてはあまりにもひっどいが、あれをなんとか書き上げたということは褒めよう。えらいぞ、昨日の私。そのあとは書いた日記のページを閉じる暇もなく、シェル村唯一の宿のベッドに顔から突っ込んで泥のように眠った。
さて、私がこれほどまでに疲労していたその理由というのは、シェル村という村の位置するその地形にあるのだ。このシェル村というのは、マウンテンフィールドと呼ばれる山の山頂にある。山頂に村。この時点でげんなりするのだが、このマウンテンフィールドというのはそれ以上に厄介なのだ。
そういえば、前の世界にも、すごく似たような山があった。確か、テーブルマウンテンとかいう。人の立ち入らない神秘の土地、みたいな扱いだったようだがそれが大正解だと思うのだ、私は。
つまりこのマウンテンフィールド、ざっくり言えば直方体なのだ。しかも縦に長いタイプ。そう、あのビルという灰色の縦長の建物によく似た形だ。いや、ビルもその中を層状にして人間が住んでいるというのだからなかなか狂気じみているとは思うが。だってあれハチの巣じゃないか。
話を戻す。
つまり、私は馬車でそのふもとまでやってきたわけなのだが、いやそれでも相当の距離でなかなか疲れを伴うものだったのだが置いておくとして、問題はそこからだったのだ。
登山である。
いや、登山なんて生易しいものではない。だってその山肌、ぐるっと回っても控えめに言って垂直。ごつごつした岩肌、つまり崖。さらには、マウンテンフィールドの山肌には多くの飛行系の魔物が巣を作っていて、さらに言うなら繁殖期真っ盛り。つまり私は、切り立った崖のようなマウンテンフィールドを上へ上へとよじ登りながら、襲い来る、空飛ぶ魔物たちをばったばったとなぎ倒していかなければならなかったのだ。ほんとどうかしてる。
しかも最悪なことに、私の相棒であるドラゴンのロゼッタは、鱗の生え変わりが上手くいかずに休養中。あの子がいたら一瞬で片付いたはずのマウンテンクライミングを、私は徹頭徹尾人力でやったというわけだ。ほんと、無駄なことをまあ…。
ガラントのギルドがこれを私に回したのは、ロゼッタというドラゴンのテイマーであるから、だそうだがその肝心のロゼッタが不在だ。確認してから依頼しろと苦情申し立てからの拒否をしようとしたら、アンデッド系のような顔色に、巨大なクマをこさえた受付嬢が、うつろな笑顔で出迎えてくれたからもう何も言えなくなった。アンデッド系を比喩のままで終わらせてあげないといけないという使命感が生まれてしまった。
なんということだ、今日の日記が一日分愚痴で埋まってしまった。
いや、まあ、今日はただ宿の片づけを手伝っていたくらいだったから特に書くこともなかったし、それでいいのか。このシェルの村、たどり着くことが難易度ルナティックなだけで、たどり着いてしまえば楽園なのだ。山頂には水がわき、植物が生い茂り、それを求めて野生の魔物や動物も多いから食べるのにも事欠かないし。
しかも、外界と隔絶されているわけだから、独自の文化も根付いている。素敵な村なのだ。そうそう来たいとは思わないのだが。道中がきつすぎて。
というわけで、依頼は明日からだ。今日はゆっくり晩酌でもしてから眠ろう。