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54話 赤ちゃん産まれたぞ

 バーンとナイヨの子供は少し色の濃い肌と髪色をもつ、丸々とした赤子だ。

 どちらかといえばドワーフに近い特徴があるように見える。

 ただ、耳の上辺が長いエルフ耳の特徴はしっかりと出ている。


「ほうほう、立派な男子だ。ナイヨのお手柄だな」

「し、しわしわだな。変な顔だ」


 スケサンとアシュリンが子供を見て喜んでいる。

 さすがにナイヨは疲れた様子だが、我が子が祝福される姿を見て優しく微笑んでいる。

 もう母親の表情だ。


「里長さん、抱いてやっておくれよ」

「えっ? いや、バーンより先に抱くのは悪いよ」


 バーンはいつものように狩りに出かけたままだ。

 さすがに俺が先に抱くのは気が引ける。


「あとも先もあるもんか。ほら、いまは落ち着いてるし大丈夫」


 ナイヨの申し出に戸惑うも、さらに勧められて子供を両手のひらに置いてもらった。


「首が据わってませんので、支えてあげてください」


 産婆をつとめたイヌ人の老婆に教えられながら子供を支える。

 赤子はなにかをいいたげにこちらを見つめているような……気のせいかな?


「俺は赤子を抱くのは初めてだ……不思議だな、足の指までちゃんとあるぞ」

「あは、大人しくしてるな。べ、ベルクは子守りが上手だ」


 隣でアシュリンがニコニコと笑っている。

 こういうのも悪くないと思う。


「もうすぐお前さんのオヤジが帰ってくるぞ。きっと我が子の誕生にふさわしい獲物を担いでな。お前さんのオヤジは里で1番の狩人なのさ」


 俺は赤子に語りかけ「ありがとな」と、そっとナイヨに返した。


「じゃあ、俺はそろそろ出るとするか。ナイヨも疲れているだろうし」

「うん、そ、そうだな。私もそろそろ」


 あまり長居するのもよくないので、俺たちはバタバタと家から出る。


 入れ代わりにコナンがフローラとモリーを連れてきたようだ。

 家の外でバッタリと顔を見合わせた。


「こ、コナン、赤ちゃんかわいかったぞ。でもナイヨが疲れるから長居しちゃダメだ」


 アシュリンのこの言葉にはコナンも目を丸くして驚いていた。

 彼女がこうした大人の発言をするのは珍しいからだろう。


「わかりました。アシュリン様の気づかいを無駄にしないようにしましょう」

「もうっ、聞いてくださいよ。ピーターったら赤ちゃんに興味がないんですって!」

「私も子供には興味がありますし、そろそろ欲しいなって」

「あはっ、べ、ベルクは赤ちゃんをあやすのが得意なんだ」

「うむ、子供が産まれるということは群れの未来が――」


 誰がなにをしゃべっているのかお分かりだろうか?

 全員が同時にしゃべっていて俺の頭には全然頭に入ってこない。


(これは全員で揃ってお邪魔しなくて正解だな)


 ナイヨも疲れているだろうが、コナンがいれば無茶はしないはずだ。

 俺は「ほら、行くぞ」と声をかけてその場を離れた。


「な、なあ、ベルク、赤ちゃん欲しいだろ?」

「いきなりなんだ? バーンとナイヨの子を見て欲しくなったのか?」


 アシュリンが「うん」と頷くが、元気がない。

 いつもの威勢がなく、形のよい眉毛が八の字になっている。


「あのな、やっぱりエルフは子供が作りづらいし、里も大きくなったし、べ、ベルクさえよければ他の女をーー」


 まあ、彼女のことだからナイヨの赤子を見て一時的にセンチになっているだけだろう。

 ここで真に受けて外に女を作ろうもんならひどい癇癪を起こすのが目に見えている。

 こんな話は先送りするしかない。


「うーん、たしかに子供はできるといいなとは思ってるけどな。まあ、あと20~30年くらいしてダメなら考えよう」


 俺は「たかが数年じゃできないだろ」と笑ってごまかしたが、これは本音でもある。

 1年2年でポコポコ産まれていたら世の中は長命種だらけのはずだ。

 バーンとナイヨはたまたまだろう。


「さ、今日はお祝いだぞ。アシュリンも台所を手伝ってきてくれ。シカ人と交換した食べ物を出してくれよ」

「う、うん。お酒も」


 アシュリンが調理場に行き、俺とスケサンも堀に向かう。


「やれやれ、難儀なことだな」

「まあな、でも別に子供じゃなきゃ里を継げないわけじゃないだろ? 皆で里長を決めればいいじゃないか」


 鬼人の王は優れた戦士による選抜制だ。

 うちの里も長は皆で選べばいい。


 この考えを告げるとスケサンは「ふむう」と首をかしげた。


「オヌシの考えは分かった。だが私は世襲が望ましいと思う。この里は種族の数に差があるからな。数の多いイヌ人ばかりが選ばれては問題があるぞ」

「なるほどな、それはまあ……おいおいな」


 これも先送りだ。

 時間が解決する問題もある。


 スケサンが「やれやれ」と呆れたころ、バーンが帰ってきた。

 期待された猟果は老いた野ヤギと数本のセリニンジンであった。


 バーンは皆のガッカリした視線に晒され「なんなんすか?」と困惑していたが、少し気の毒だった。

 今日産まれることは分からなかったのだから特別な獲物を狙うはずがない。


 これにはナイヨも苦笑いだが仕方ないだろう。


「俺たちのときは産まれてからなにか用意するとしよう」

「そうですね、はは……」


 微妙な空気のなか、俺とコナンは1つ学んだ。


 そして、赤子の名前だが……


「ドルーフっす」

「へえ、変わった名前だな」


 初めはエルフ風なのかと思ったが、アシュリンやコナンも首を捻っている。


「エルフとドワーフの息子だからドルーフっす。エワーフじゃ発音しづらいっす」

「アタイはバーンとジェーンの間でジーンにしようといったんだけどねえ」


 よく分からないが似た者夫婦ではあるらしい。


 なにはともあれ、このドルーフくん、ごちゃ混ぜ里で産まれた初の混血児である。

 健やかに育って欲しいものだ。




■■■■



ドルーフ(エルフとドワーフの混血)


エルフとドワーフのハーフ。

あまり聞かない組み合わせではあるが、この作品においては互いの種族に悪感情は持っていないので他にもいると思われる。

ただ、製鉄、冶金、製炭などで森林資源を大量に消費するドワーフと、森と共に生きるワイルドエルフでは互いのライフスタイルが根本的なところで違い、好感は抱きにくいかもしれない。

ちなみにエルフとドワーフの混血は双方の特徴を受け継ぎ、優れた聴覚と長寿、そして手先の器用さとあわせ持つ。

体格は背の高いドワーフ体型か、背の低いエルフ体型になるようだ。


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